1,444 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と橙色の交流記 その06
しおりを挟むSIDE:ライカ
糸から流れ込んできたのは、わたしの知らないどこかの光景だった。
真っ赤に燃えるのは、家でも魔粉でもなく世界そのもの。
だけどそこに映る人々はそこに疑念を持たず、笑い合う光景がそこにはあった。
[ここは、異世界グレッド。赤の理が働くこの世界において、火こそがすべて。あらゆるルールよりも火が優先される]
なんだか分からないけど、その光景の下の方にそんな文章が表示される。
絵本の解説みたいな文字の羅列が、見知らぬ場所の説明をしていた。
[グレッドにも、この世界同様に『勇者』や『聖女』といった選ばれし者が存在する。しかし、それは装華を持たない彼らにとって称号という形でしかない]
[彼らの世界に特別な力はない。だが、この世界と異なり魔物や霊脈と呼ばれる豊富な経験値を保有する概念が存在するため、自らの格を高めることで力を得ている]
・
・
・
[対して、装華で力を補うこの世界は魔粉たちがそれらを独占しているため、人々の存在の格はそう高くはない。魔粉ではなくその本体を倒す機会のある優れた者たちだけが、目に見える形で力を得ていく]
わたしが、『勇者』の責務を背負ったわたしも知らない情報がそこには記されている。
少しずつ、それは異世界の話からわたしたちの世界の話へ。
赤色だった世界の光景は、いつの間にか見覚えのある空と花畑を映しだす。
お爺さんたちの言う、花々に奪われた真の大地──『源地』だった。
[──職業の概念が失われ、転生と進化選択ができなくなったこの世界。人々は神を崇めることを止め、花そのものに願いを籠める。それこそが、自分たちを蝕む毒であることを知らずに]
[祈りは糧となり、神の力となる。そのシステムが前提から崩れ、花がそれを乗っ取る。花は人々に寄り添う──相棒、敵、飾り、都市。形は違えどそこに在る。マッチポンプという言葉が、それにはピッタリだ]
だんだんと解説に私見が入ってくる。
少し首を傾げるが、今の自分にどうこうできることは何もない。
説明が続くにつれて、その違和感は高まっていく。
[花は咲き誇る。嗚呼、それは事実だ。人の魔もそれにあやかり、生を成している。だがしかし、それこそが花々の目論みだ…………なんて風に語ったら面白いと思わないか?]
「あーっ、やっぱりー」
[何がやっぱりなのかはともかく、赤と橙の世界について理解できたと思う。それじゃあ最後に、一番どうでもいい情報をプレゼントしよう──とある王女様の物語を]
これまでの流れでもっともなぜを問いたくなるものだったが、結局これも強引に頭の中へ流れ込んできた。
……だけどこれが、わたしがもっとも知りたかったものだったとすぐに知る。
◆ □ ◆ □ ◆
「リアセンセーーー!」
「……メルス、何を教えたんだい?」
「赤と橙の世界、あと『眠り姫』の童話……地球版だぞ」
「で、そのキャストは?」
もちろんリアさんです、と言わずとも理解されてしまうぐらいの間柄だ。
視線を逸らして口笛(掠れ)を吹いていると、深ーーーいため息を吐かれてしまう。
ストーリーは地球版だし、お決まりの文句である[※この作品はフィクションです]も表示したはずなんだけどな。
ライカはなんの確信を持ったのか、ヒシッとリアに抱き着いているし。
……いやー、ほんとふしぎだなー。
「はあ、毎度毎度のことだけど君って人は的確に怒っていいのか分からない、そんな微妙な場所を突いてくるね」
「怒らせる気はないぞ。俺はリアのことを大切にしているし、害そうとなんて思うはずがないだろうに」
「うーん……ライカ、とりあえず離れてくれないかな?」
「うん──リアお姉さまー!」
お姉さま!? と驚愕するリアをスルーして、サッとライカは離れる。
普通の少女からすると、リアのやってきたことって壮絶だからな。
「そ、その……お姉さまっていうのは、いったい何かな?」
「わ、わたし、感激したよー! この思いを少しでも表現すべくー、リアセンセ―のことはこれからー、お姉さまーって──」
「うーん……やっぱり止めてほしいな。あんまり経験もないし、お姉さまって柄でも無いからね。これまで通り、ぼくのことは先生として扱ってくれればいいよ」
経験自体は、カグやミントから呼ばれているので豊富なんだけどな。
もともと王子として育てられていたので、それすらも最初は気にしていたっけ。
「えーっ、でもー……」
「ライカがぼくのことを、内心でどう呼んでいてくれても構わないよ。ただ、あまり慣れていないんだ。メルスが教えた情報は本当のことだから……少し、頼めるかな?」
「うっ……は、はーい」
リアが手を顔の前で合わせてお願いをすると、少々顔を紅くしたライカは小さく首を縦に振った。
ふむ、この感じ……なんとなく覚えがある気がするな。
リアにその気はないだろうが、塔が建設されてしまうかもしれない。
「リア……その、なんだ。ほどほどにな」
「……君の思考の結論が分かってしまうことが、ここまで嫌なのは初めてだね。そうなる予定はないから、安心してくれていいよ」
「けど、コアさんはやり遂げたぞ?」
「……カナタも難儀なものだね。彼ももう少し、前に出た方がいいかもしれない」
なぜにカナタがここで出てくるか、俺とライカは分からないので頭に『?』が浮かぶ。
だがそんな俺たちを置いて、リアはやることをどんどん決めていく。
「とりあえず、模擬戦は終了だ。ライカは休憩を取ったほうが良いんだけど……今日は終わりにするかい?」
「……うーん、そーさせてもらーう。疲れたしー、考えたいことがたーっくさん」
「そうした方がいい。メルスも……今日はこれで、お開きだ」
魔術の特訓はまだ続くらしい。
ライカも今回の情報で、リアにより協力的になっただろうし……うん、計画通りだな。
あとは眷属仕込みの、あまり洩らせない情報を伝えて目指せ最強の『勇者』!
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる