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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と橙色の交流記 その06

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 SIDE:ライカ


 糸から流れ込んできたのは、わたしの知らないどこかの光景だった。

 真っ赤に燃えるのは、家でも魔粉でもなく世界そのもの。
 だけどそこに映る人々はそこに疑念を持たず、笑い合う光景がそこにはあった。


[ここは、異世界グレッド。赤の理が働くこの世界において、火こそがすべて。あらゆるルールよりも火が優先される]


 なんだか分からないけど、その光景の下の方にそんな文章が表示される。
 絵本の解説みたいな文字の羅列が、見知らぬ場所の説明をしていた。


[グレッドにも、この世界同様に『勇者』や『聖女』といった選ばれし者が存在する。しかし、それは装華を持たない彼らにとって称号という形でしかない]

[彼らの世界に特別な力はない。だが、この世界と異なり魔物や霊脈と呼ばれる豊富な経験値を保有する概念が存在するため、自らの格を高めることで力を得ている]

         ・
         ・
         ・

[対して、装華で力を補うこの世界は魔粉たちがそれらを独占しているため、人々の存在の格はそう高くはない。魔粉ではなくその本体を倒す機会のある優れた者たちだけが、目に見える形で力を得ていく]


 わたしが、『勇者』の責務を背負ったわたしも知らない情報がそこには記されている。
 少しずつ、それは異世界の話からわたしたちの世界の話へ。

 赤色だった世界の光景は、いつの間にか見覚えのある空と花畑を映しだす。
 お爺さんたちの言う、花々に奪われた真の大地──『源地』だった。


[──職業の概念が失われ、転生と進化選択ができなくなったこの世界。人々は神を崇めることを止め、花そのものに願いを籠める。それこそが、自分たちを蝕む毒であることを知らずに]

[祈りは糧となり、神の力となる。そのシステムが前提から崩れ、花がそれを乗っ取る。花は人々に寄り添う──相棒、敵、飾り、都市。形は違えどそこに在る。マッチポンプという言葉が、それにはピッタリだ]


 だんだんと解説に私見が入ってくる。
 少し首を傾げるが、今の自分にどうこうできることは何もない。

 説明が続くにつれて、その違和感は高まっていく。


[花は咲き誇る。嗚呼、それは事実だ。人の魔もそれにあやかり、生を成している。だがしかし、それこそが花々の目論みだ…………なんて風に語ったら面白いと思わないか?]

「あーっ、やっぱりー」

[何がやっぱりなのかはともかく、赤と橙の世界について理解できたと思う。それじゃあ最後に、一番どうでもいい情報をプレゼントしよう──とある王女様の物語を]


 これまでの流れでもっともなぜを問いたくなるものだったが、結局これも強引に頭の中へ流れ込んできた。

 ……だけどこれが、わたしがもっとも知りたかったものだったとすぐに知る。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「リアセンセーーー!」

「……メルス、何を教えたんだい?」

「赤と橙の世界、あと『眠り姫』の童話……地球版だぞ」

「で、そのキャストは?」


 もちろんリアさんです、と言わずとも理解されてしまうぐらいの間柄だ。
 視線を逸らして口笛(掠れ)を吹いていると、深ーーーいため息を吐かれてしまう。

 ストーリーは地球版だし、お決まりの文句である[※この作品はフィクションです]も表示したはずなんだけどな。

 ライカはなんの確信を持ったのか、ヒシッとリアに抱き着いているし。
 ……いやー、ほんとふしぎだなー。


「はあ、毎度毎度のことだけど君って人は的確に怒っていいのか分からない、そんな微妙な場所を突いてくるね」

「怒らせる気はないぞ。俺はリアのことを大切にしているし、害そうとなんて思うはずがないだろうに」

「うーん……ライカ、とりあえず離れてくれないかな?」

「うん──リアお姉さまー!」


 お姉さま!? と驚愕するリアをスルーして、サッとライカは離れる。
 普通の少女からすると、リアのやってきたことって壮絶だからな。


「そ、その……お姉さまっていうのは、いったい何かな?」

「わ、わたし、感激したよー! この思いを少しでも表現すべくー、リアセンセ―のことはこれからー、お姉さまーって──」

「うーん……やっぱり止めてほしいな。あんまり経験もないし、お姉さまって柄でも無いからね。これまで通り、ぼくのことは先生として扱ってくれればいいよ」


 経験自体は、カグやミントから呼ばれているので豊富なんだけどな。
 もともと王子として育てられていたので、それすらも最初は気にしていたっけ。 


「えーっ、でもー……」

「ライカがぼくのことを、内心でどう呼んでいてくれても構わないよ。ただ、あまり慣れていないんだ。メルスが教えた情報は本当のことだから……少し、頼めるかな?」

「うっ……は、はーい」


 リアが手を顔の前で合わせてお願いをすると、少々顔を紅くしたライカは小さく首を縦に振った。

 ふむ、この感じ……なんとなく覚えがある気がするな。
 リアにその気はないだろうが、塔が建設されてしまうかもしれない。


「リア……その、なんだ。ほどほどにな」

「……君の思考の結論が分かってしまうことが、ここまで嫌なのは初めてだね。そうなる予定はないから、安心してくれていいよ」

「けど、コアさんはやり遂げたぞ?」

「……カナタも難儀なものだね。彼ももう少し、前に出た方がいいかもしれない」


 なぜにカナタがここで出てくるか、俺とライカは分からないので頭に『?』が浮かぶ。
 だがそんな俺たちを置いて、リアはやることをどんどん決めていく。


「とりあえず、模擬戦は終了だ。ライカは休憩を取ったほうが良いんだけど……今日は終わりにするかい?」

「……うーん、そーさせてもらーう。疲れたしー、考えたいことがたーっくさん」

「そうした方がいい。メルスも……今日はこれで、お開きだ」


 魔術の特訓はまだ続くらしい。
 ライカも今回の情報で、リアにより協力的になっただろうし……うん、計画通りだな。

 あとは眷属仕込みの、あまり洩らせない情報を伝えて目指せ最強の『勇者』!


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