上 下
1,443 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と橙色の交流記 その05

しおりを挟む


「Foooooo!」

「…………センセー」

「これは……どうしようもないね」


 失礼な奴らはさておき、俺はクモ男気分で舞台……というか部屋を縦横無尽に移動しながらハイテンションになっていた。

 瞳が色を変えない程度の感情に調整する技術も、『侵蝕』の制御過程で得ている。
 そんなこんなで、俺は『俺』のままアメコミみたいなノリで遊んでいた。


「ヘイヘーイ、どうだいオイラの軌道は! 止・め・ら・れ・る・か・な~?」

「……ウザーい」

「……いいかい、ライカ。これも修業だよ。たとえどれだけ怒りを覚えても、それを溜めこんで思考は冷静に保つんだ。知性の高い魔粉が居るんだ、感情を昂らせて隙を狙うようなヤツも現れるかもしれないよ」

「リアー、手ー」


 いつの間にかリアは、装華である槍を握り締めていた……まあ、鞭じゃないってことはそれぐらいの平常心はあるみたいだ。

 毎度のことながら、そこまで俺の発言は反感を買うのだろうか?
 ちょっと一人称を変えただけだし、一言一句丁寧に言っただけなのにな。


「……ゴホン。それはともかく、実際にメルスがやっていることは凄いんだよ。魔力でできた糸を張り巡らせ、そこを自在に歩くことで死角を突く。“遊歩ノ靴フリーウォーク”そのものは、ただ足を着ける場所を歩くだけの魔術だよ」


 そう、クモ男と言えば糸だけではなく壁などに張り付く機動性である。
 超感覚なんかは身体強化が該当するし、魔法版クモ男に今はなれているだろう。


「Yeahhhhhhhhhh! さぁライカ、お前さんの装華で魔術を使え! 俺はそれを超えることで、その先へイケる!!」

「──“刃雷ジンライ”」

「Foo……もう、面倒臭いな。よっし、楽しむとしようか!」


 魔術“伝導宣糸イメージライン”によって、掌や指先から糸を放つことができる今の俺。
 それを天井や壁に糸を張り巡らせ、そこを足場にして“遊歩ノ靴”で縦横無尽に跳ぶ。

 ライカの『勇者』としての力は、それらをすべて断ち切る。
 剣と盾は花弁となり、雪のように舞い散ると糸に触れていく。

 そして、魔力によって強度を増していた網のような糸を切り刻む。
 すべてに装華と同じ硬度が与えられた花弁は、それを容易くこなした。

 雷の魔術ということで、切れた残糸や繋がる線を通じて高電圧が俺に迫る。
 糸を自分で断ち切り、別の糸を繋げ電流を逸らすことで最悪の結果を防いでいく。


「そう、それだよライカ! オイラはただ、君の真剣な姿を見たかった! もっとだ、君はもっと力を出せる!」

「──ッ!」

「いいねぇ、最ッ高だ!」


 接続、分離、生成、誘導……何度も何度もそれを繰り返し、無数の雷魔術を避ける。
 省エネな魔術だし、俺は一つとして攻撃魔術は使ってないのであまり消費していない。

 しかしながら、やはり魔力は消費するのでそろそろ決着をつけておきたい。
 クモ男ごっこも楽しいには楽しいが、やるにも限界があるからな。


「そろそろ見切ったぞ、その動き!」

「やれるものならー……やってみろー!」

「おっ、いいノリじゃねぇか! ははっ、改めてお勉強だ。俺が使っている魔術は全部でいくつだ?」

「そんなの……っ!?」


 身体強化、思考強化、糸生成、自在移動。
 ライカが知覚していたのはこれぐらいだろう……一つ、忘れているよな。


「来い──“斬ノ理オリジンソード”!」

「術式を……書き換えていた!?」

「違う違う。ずっと在った、ただ気づいていなかっただけ。雷魔術で使わなかったからこそ、忘れていただろう?」


 ライカの首筋に現れた、魔力の剣。
 最初から遠隔操作が可能だったそれを突き付け、降伏を……なんて終わりにはしない。


「じゃあ、勝者のご褒美。そして敗者への罰ゲームを実行しまーす」

「……えっ?」

「ああ、別にイケないことをするわけじゃないから安心しろよ。やることはシンプル──ちょっと観て・・視させて・・・・もらうだけ」

「──ッ!?」


 するすると掌から糸を伸ばす。
 その色がこれまでの無色と異なり、妖しい色をしていればだいたい察しが付くだろう。

 リアの方に懇願の視線を向けたが、彼女が知る関係性と現実は異なっている。
 彼女はただ額を手で覆い、横目でライカに向けて憐憫の視線を向けるだけ。


「とりあえず、自由時間は長めにするよ」

「──というわけで、誰も助けには来ないからな……グッフッフッフ。さてさて、ここから助かる方法はただ一つだけ、俺の契約者リアに全面協力すること。まあ、それとは別にやるんだけどな」

「ふ、ふざけ……もごっ」

「後半のお前は最高だった。もともと同類とまではいかずとも、俺も相手が取り繕っているかぐらいは理解できるようになったんだ。そして、お前はその仮面を脱いで戦ってくれた……嗚呼、想いは伝わるものだな」


 ライカの俺を見る目は、どんどん蔑みに満ちたものになっていく。
 いろんな意味で『ご褒美』になるが、別に被虐体質でもないのでそれは無視。

 糸が紡ぐのは、物質同士の結び付きだけではない……“伝導宣糸”という術式名が示すように、イメージを紡ぐ糸なのだ。

 なので、やり方を工夫すれば──


「まずは一方通行。リアが信じたライカを信じて、いざ投入っと」


 流し込みたい情報を、的確にイメージという形で送り込むことができるわけだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...