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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と橙色の交流記 その04

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 剣と盾を持つ『勇者』ライカに対し、俺は魔術“斬ノ理オリジンソード”を用いることで剣での打ち合いを行っている。

 正確には剣を握っているのではない。
 俺が手を振るうと、連動するように斬撃を放つ魔術なのだ。

 そのため、俺は宙に浮くソレと空いた両手で戦闘を行うことができる。
 手が自由なのは、それだけでアドバンテージとなるわけだ。


「武技は使えないから安心してくれ。さっきの“過程演算シュミレート”も戦闘に直接影響があるわけじゃないし、“身体強化confortans”もそっちより強い効果があるわけでもない」

「……じゃあーなんで打ち合えてるのー?」

「そりゃあ、聖霊である俺が優秀だから」


 リアの聖霊という立場を装っている現状なので、彼女に使うなと言われた眷属特製の魔術の数々をお披露目することは難しい。

 それなりに面白いものばかりなのだが、使えないのは残念である。
 しかしながら、この世界の剣術を見れるのも楽しいのでそちらに集中していく。

 そのための“過程演算”であった。
 分かりやすく効果を言えば、俺の経験から相手の行動を推測して予測線を出すという、未来視の魔術版だが……だからこそ楽しい。

 自分が学習すればするほど、それが目に視える形で証明されるのだから。
 これまでのすべてが形作る、努力の結果とはなかなかに新鮮だしな。


「こう見えても、長い時間があったから剣技も上手いだろう? 魔術から離れている気もするから、そっちは使っていいぞ」

「……むー、なんだかズルいー」

「はっはっは! 強いからこそ、選ぶ権利を持てる。文句があるなら、俺よりも強くなって言うんだな!」

「うー……“火弾ファイアスフィア”!」


 剣戟を行いながら、彼女は華装である剣と盾を通じて術式を発動させる。
 放たれた無数の弾丸は、彼女の魔力によって火に変化した状態で発射された。


「はい、スパッと」

「……えっ?」


 目の前の状況を理解できなかったのか、彼女の動きがフリーズしてしまう。
 本来なら隙なので斬り裂くが、今回は模擬戦なので待つことに。

 すると、リアが彼女を再起動させるために話しかける。


「──ライカ、彼の魔術はほぼ魔力の塊だからね。君の術式強度だと、そのまま触れただけで破壊されるんだよ」

「えっ、えーーー」

「理不尽だよね? だから、普段ぼくはユラルに頼るんだよ。あんまり頼りたくないんだよね、代償はともかく頼っただけでなんでも解決しちゃうから」


 失礼なこと、この上ないな……なんて思うが、今はライカの復活が優先だからスルー。

 代償なんてものは実際にはないため、いつでも使い放題なんだよな。
 眷属的には俺に出番を与えたくないようなので、それが代償なんだとか。


「いいかい、ライカ。それを超えるために君がヒントを見つけるのがこの模擬戦の目的でもある。絶対に殺されない戦いは貴重だ、相手が強ければ強いほど……前に聞いた話もあるし、一皮剥けてほしい」

「はーい」


 口調は軽いものの、眷属とかがよくする真剣な眼差しをしている。
 改めて俺の方を向くと、その剣と盾を構えて闘いを再開した。


「ふむふむ、だいぶ理解できた。師匠なら、きっと──こことここの辺りを、ギュッとしてパパッとやれとか言うと思うぞ」

「…………センセー?」

「メルス、君って本当に教える才能が無かったんだね。リーンのみんなから、いろんなことを教わったって訊いていたんだけど……」

「ああ、あれか? 従魔だったリョクが繋がりを通じてなんとなく理解して、それを全部言語化してくれていたんだ。あと、単純にその頃はまだできなかったことがある」


 リョクは初期から優秀だったので、さまざまなことを任せていたものだ。
 だからこそ、俺も知らぬ前に魔子鬼たちに人族の言語を習得させていたし。

 けど、俺だってできるだけ自分で行えることを増やそうとやれることはやっていた。
 幸い、演技系のスキルと違ってほんの僅かでも才能があったのか、それは成功する。


「じゃあ、俺なりのやり方で特訓してやるかな──嫌なら抵抗してくれてもいいぞ」

「っ……!」

「メルス、止め──」

「いいじゃないか別に。リアも言った通り、死ぬわけじゃないんだし──“伝導宣糸イメージライン”」


 俺の掌から、某クモ男のように糸がピュッと飛びだす。
 危険を感じたのか、ライカはそれを斬るのではなく回避する。


「いいぜ、もっと避けてくれよ。リア、死なないんだから少しはやらせてくれ……もう少し、知りたい」

「ハァ……そうなると、もう君は止まらないだろう? ライカ、これを避けられたらしばらくは君の自由時間を増やすよ。だから、頑張ってみてくれないかい?」

「……ダメでもちょーだーい」

「そうだね。分かっているなら、できるだけ抗ってみよう。きっと、君のためになる」


 なんだか悪役みたいな感じになっているのだが、偽善者は別に善人ぶらなくてもいいので気にせず振る舞う。

 俺のイメージ通りに操れる魔力の糸、それは使い方も俺次第。
 どの性質も魔力さえ足りれば、実現することができる。

 相手は『勇者』、普通の方法では対処不可能だが……うん、もう一つぐらい使えばなんとかなりそうだ。


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