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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と橙色の交流記 その01
しおりを挟む橙色の世界
今回も、ユラルとリアと共に……と思っていたのだが、ユラルの方は忙しいということで、交代することになった。
リアが樹の力を操ると思われちゃっているので、そこをどうしようか悩んだが……面倒なので、俺が代わりにやればいいかという結論に至り、縛りも決まる。
「美味しい役を貰えてよかったよ。こうしてメルスと、何度でもここに来れる」
とても嬉しそうなリア。
彼女と俺は現在、前に通された華都の中央辺りにある建物でまったりとしていた。
ちなみに、居なくなることに関する説明が面倒だったので、そこらは聖霊の力を使う代償とかそんな感じにしている。
強すぎる力の対価とか、そういうカッコイイ単語を使えば納得してもらえた。
最初の方は疑われていたので、リアとユラルでちょくちょく来ていたらしいけど。
「──なあ、リア」
「なんだい? メルスのことだから、そろそろ飽きて別の場所に別の役で遊びに行きたいとか、そんな感じなんだろうけど……どうかした?」
「……ほぼ分かっているよな。そう、改めて思ったけどどこかに所属するのってかなり飽きるよな。いっそのこと、赤と橙を繋げれば早いんだが」
「さすがにそれはね。メルスはゲームの記憶からやろうとしているみたいだけど、止めておいた方がいい。片方だけから行くなんて、現実でありえるはずがない」
俺のやっていたゲームだと、繋がった世界に片方の世界の民たちが一方的に押しかけていたんだよなー。
よくよく考えれば、互いに未開拓の領域があるというのに侵略しないはずがない。
ある種のご都合主義が働いたからこそ、成立していた奇跡のようなものなのか。
「じゃあ、どうすりゃあいいんだ?」
「まず、この世界の人たちの問題を解決してからじゃないかい? そして、他の世界の存在と試練について伝える。けど、ここで言うだけだと黙殺されそうだね」
「だからこそ、別の華都にも早く行きたいのに……どうしてこうなっているんだよ」
「ぼくたちも、ぼくたちなりにやってみた結果だよ。最初が悪かった、そう思って我慢してくれよ」
俺がいない間に、リアは地位を得ていた。
だからこそ居住する部屋が与えられ、こうしてまったりしていられる。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいられない。
現実世界で言うところの土曜日、この日にリアは仕事をしなければならないのだから。
◆ □ ◆ □ ◆
場所は移り、これまた前回模擬戦に使った舞台である。
霊化した俺を連れて、リアは一人の少女に会うことになった。
「よろしくお願いしまーす」
「うん、よろしくね」
この華都の最高戦力──『勇者』。
橙色の世界においてその役割を担うのは、装華と呼ばれる武装システムに『勇者』の名が刻まれている一人の少女だ。
ライカという少女こそが、そんな『勇者』なのだが……前回模擬戦をリアと行い、敗北してしまった。
まあ、実質三対一でやっていたのだから、仕方がないといえば仕方がない。
だがそう思えないお偉い様から、家庭教師の真似事を依頼されたというわけだ。
「じゃあ、魔術のお勉強をしようか」
「えー。どうせなら、センセーと模擬戦したいんだけどー」
「今日は特別に、ズルくて面白い聖霊を連れてきたからね。きっと、いつもより面白くなると思うよ」
「……なら、いいけどー」
誰がズルいのだろうか?
もしかして、いつの間にか聖霊と契約をしたのか……とコンマ一秒だけ思ったが、無駄な思考なので一瞬で止めた。
そう、すでにリアが俺(偽聖霊)との仮契約パスに魔力を籠めている。
特に影響はないんだが、聖霊っぽさを再現するために仕方なく出現した。
「……あれー、このはんのーって?」
「分かったみたいだね。彼はメルス、司るのは……不明な凄い聖霊だよ」
「あっ、どうも。なんでもできちゃう系の聖霊です。大人には内緒にしてね」
「こんにちはー」
挨拶はスルーされてしまう。
リアもリアで、紹介するなら最初から決めておいてほしかったよ。
しかし、魔術か……調べてもらったりしてはいたが、さっぱり覚えていない。
たぶん記憶はしているんだろうが、それ以上はしていなかったんだろうな。
「ライカ、こう見えても本当に何でもできる聖霊なんだ。何か言ってみたらどうだい?」
「うーん……じゃあー、美味しい物を出してほしいなー」
「はいはい、そんなことでいいなら──これでいいか? リアの分もあるから、いっしょに食べろよ」
「ありがとう。ライカ、これは『御饅頭』というお菓子だよ。さあ、食べてみよう」
饅頭が無い世界なのか、少し訝しんではいたが少しだけ口を付け……以降、物凄い勢いで頬張ったライカ。
和菓子も作っていたので、在庫消費も兼ねて出してみた。
結果は当たったようで、こちらをジッと見てくるのでお代わりをプレゼントする。
「ありがと~」
「あいよ。俺の世界の物だからな、もしかしたらこっちには無いのかも。悪いな、こっちのお菓子がどんな物か分からないから怪しい物になっちまって」
「そんなことないよー。美味しいは正義、つまりこの『おまんじゅー』は最強だよー」
「おっ、良いこと言ってくれるな。なら、もう少しお代わりを用意しようか」
魔術のことはさておき、食べてもらう喜びに目覚めている俺。
特に、女の子に喜んでもらえるのが嬉しくてついつい出してしまうのだった。
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