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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その18
しおりを挟む王城に場所を移し、事情を説明する。
さすがに吸血鬼の、しかも真祖が街に居るとなると問題ばっかりだからな。
リョクを目の前に、俺は話を終える。
……望まれたので、王であるリョクを玉座から見下ろす形で。
「──真祖の吸血鬼が、ですか」
「そうそう、今は体を弱体化した状態で娘の所に居る。いろいろとヤバい状態だが、交渉して家ごと縛りなしの結界で囲うことにしたからたぶん問題なし」
「分かりました。我が主の仰ることですし、問題ないかと」
「……期待され過ぎると、ちょっと不安になるんだがな。結界が壊されたら、迷宮に行くようになるからこっちに被害はないぞ」
あの後、いろいろとあった。
縛りも終えたので使える物を使い、ウェナとペフリを紐づけて封印することになる。
それが彼女たちの望んだということもあるが、それ以上のいいアイデアが浮かばなかったのもある……偽善者という理由で、復讐として人族を滅ぼすのはさすがに面倒だし。
封印といっても、別に彼女たちが活動できなるとかそういうわけではない。
ペフリの戦闘力が普人と同等になり、余剰分の力がウェナにいっただけ。
そして、ペフリはウェナを唆して封印の解除を求める。
それにウェナが耐え続ける限り、平穏な時間が続く……そういうことになった。
「リョク、しばらくは何が起こるか心配してやってくれ。事情が事情なだけに、なんだか見過ごせなくてな……あと、これ貰ったし」
「これは……呪いの、いや呪詛の武具?」
「そう、上位版だ。礼は尽くしたい。眷属にするしないはともかく、できるなら澱みぐらいは晴らしてやりたいんだ。まあ、そんなわけで娘さんにやってもらうわけ」
「そうでしたか。では、将たちにも伝えておきましょう」
手出しをするなというわけではないが、過度な干渉を控えてもらいたかったわけだ。
人族を恨んでいるらしいので、魔子鬼系列の種族ならあまり問題ないとは思うけど。
「後はそうだな、非道だが参考になる……正確には、なってしまった資料があってな。それを研究者に流すべきかってことを先に訊ねておこうと思ったんだ」
「これですか……拝見させていただきます」
「中身はペフリのヤツだけにしたけどな。要するに、吸血鬼の血を使っていろいろとやろうとしていたみたいだ。やり方はともかく、莫大な経費と膨大な時間さえあれば安全に運用することができそうだろう?」
そうじゃないのが人の世。
だからこそ、どれだけ被験者に危険があろうと、すぐに結果が出るような実験を行っているのだ。
だが、長命種や時系統の魔法を使える者ならば話は別。
あとは腐るほどある金を使えば、いずれ実験は完成する。
「だからこそ、研究所には時空魔法で設置した実験室があるわけだしな。中で時間の掛かる実験をやっても、経つ時間が速かったり遅かったりすればすぐに終わる」
「……なるほど。彼女を主軸においた実験は無しにしても、なかなかに求めた果ては参考になります。ですが……その過程がひどい」
「人ってのはそういうもんだよ。自分のやっていることは世界のためーとか言って、そのためなら何をしてもいいと思っている。そうじゃないヤツも多いけど、それと同じくらいそうなる可能性を持つ者がいる」
一部の者は最初からだが、だいたいの者は実験の過程で少しずつ変異していく。
元の目的から歪み、有るべき正道から外れてもなお探究する求道者へ。
だが、道を踏み外した時点でそれは潰えているのと道理。
それでも止まれず、妥協し、他者を犠牲にしてでも答えを作る……それが人の性質だ。
「彼女の固有スキルに関しては、どれだけ離れていても使われるらしい。それはあとで回収する予定だ。今も恨んでいる理由の一つ、それが使われている血だし」
そういう類いの固有スキルらしい。
血が無ければ彼女は弱体化し、発動中は自分から解除することはできないんだとか。
……という情報も、リョクに渡した資料の中に書いてある。
とことん搾り取りたかったのか、バッチリ隷属させて調べまくったようだ。
「とはいえ、すぐには無理だけど。力を取り戻されて困るのはこっちだし、ある程度精神が安定してから少しずつ戻していく。あとはその力を、この世界のために使ってもらえないか交渉するぐらいか」
「そちらを……ワレに?」
「まあ、俺は痛めつけた張本人だし。この国の王はお前だ。世界そのものなら俺が出てくるけど、国民のことだしリョクに任せてみたくなった。できるか?」
「ハッ、この命に代えてましても! 必ずや我が主の命、達成してみせましょう!」
命に代えられても困るのだが、それぐらいの気概で挑むということだろう。
……リョクの場合、本当に命を賭けそうなのでそこら辺は止めるように言うけど。
「とにもかくにも、この件はこれで終わりにする。リョク、何か報告したいこととかってあるか?」
「それでしたら、一つ」
「あるのか……教えてくれ」
そうして、王城でこの世界の未来を決める話し合いが続く。
……この世界って、ヤバいものがいろいろと増えてきているんだよなー。
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