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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その17

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 剣と剣がぶつかり合う。
 同じ形をした、異なる色をしたそれは向かい合う相手の血を求めるように昏く輝く。

 担い手である俺とペフリは、互いにいっさいの武技を使わずに剣戟を行う。
 彼女は消費の問題があるだろうし、俺は単純に縛りを設けているからだ。


「……ずいぶんと上手くなったな。その剣技は、ちゃんと師匠に似ているよ」

「はい、あなたのお蔭です──メルスさん」

「……血から吸ったのか」

「わざとでしょう? だから、私はまだ闘うのです。まったく、これっぽっちも信じられませんので」


 高位の吸血鬼が血からエネルギー以上にさまざまなモノを獲得できることは、すでに既知の情報だった。

 なので先ほど、わざと血に必要な情報を籠めて吸わせたのだ。
 ……ウェナの情報も混ぜたのだが、それでもダメだったみたい。

 血から学んだティルの剣技を使い、的確に俺を追い詰めてくる。
 戦闘能力も向上しているようで、これまでよりだいぶ捌くのがきつくなっていた。


「くれてやったんだよ。俺は【強欲】、だからやることはあっても奪わせることはしねぇと決めている。だからさぁ、とりあえず俺に奪われろよ──疾ッ」

「!」

「それ寄越せ──“奪物掌アイテムテイカー”」


 まずは剣に触れ、影から複製されていた呪詛剣[血涙]を回収する。
 使用者の権限ごと奪っているので、仕掛けがあろうと完全に俺の物となった。

 それをすぐに【強欲】専用の収納能力の中へ押し込み、彼女に奪われないようにする。
 武器が瞬時に失われたことで、ほんの一瞬だけ彼女に隙が生まれた。


「充分──“銭投げマネースロー”」


 課金制限が外れた武技を使って、その手に握り締めていた呪詛剣を投擲する。
 予想していなかっただろう、奪った物をいともあっさり消滅させる賭けに出るとは。

 アイテムを“銭投げ”で消費した場合だろうと、性能などを強化することができる。
 そこに“放蕩散財アンリミテッド・ウェイスト”で武技だと唯一上げられない消費率を調整するから、損失もない。


「俺の血をやったんだからな、そっちの分も頂くぞ! さぁ、『絞り出せ』!!」

「あ゛ぁああああああああああああ!」


 今回で終わらせたかったので、必中や呪詛強化など課金できるすべてに振り込んだ。
 消費額は一度の攻撃で兆に達していたが、後腐れの無い金なので湯水のごとく費やす。

 その結果、悲鳴が木霊する。
 吸血鬼を弱体化させるのにもっとも手っ取り早いのは、血を限界まで奪うことだ。

 ……もともと少なかったようなので、真祖でもこの作戦が通用した。
 むしろ、万全な状態だったなら縛りとか解除で挑んでいたかもしれないな。


「『侵化』解除……ふぅ。メィルド、そっちはどうだ?」

「……驚いた。いったい、どれだけ……」

「この国で一年に使われる額、かな?」

「…………仕方がない。仕方がない、仕方がないったら仕方がない……」


 なんだか自分に暗示を掛けているようだ。
 どうやら脳内で算出した額に驚き、脳がエラーを起こしたみたいだな。

 現在進行形で絶叫するペフリに関しては、魔道具で音を断って放置しておくことに。
 ギリギリまで絞ったら活動停止になるようにしてあるので、勝手に終わるだろうし。


「あれが気絶したら、そのまま娘の所まで運ぶ。それで依頼は終わりだ……場所は言えないから、とりあえずここから脱出できた時点で終わりにしてくれ──それっと」

「これは?」

「見ての通り『収納袋』、ただし中身は予備の“銭投げ”用の金品だ。とりあえず、最初に言った分以上の額があるから具体的な額はお楽しみってことで」

「……物凄く心配」


 こつこつ稼いできた、本当に真っ新な金を入れてある袋だった。
 さすがに物を買うならともかく、人の命を借りるための金なので分けておいたのだ。


「じゃあ、バレないように帰るぞ」

「了解」


 メィルドも居るし、たぶんどうにかなるだろう……どうやら俺の血を摂取して、一時的にドーピングしているみたいだしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第一世界 リーン


「──というわけで、お母さんです」

「どうしてですか!」


 なんだか前にも同じ反応をされた気がするが、仕方がないだろう。
 ウェナの目の前には、体に剣が刺さったまま結界に封印された母親が居るのだから。


「お母さんな、地下で研究に使われていたみたいで全人族ぶっ殺すみたいな思考に憑りつかれていてさ。とりあえず眠らせて、ここまで運んできたわけだ」

「えっ、えーーー」


 呆れられている気もするが、どうしようもなかったのだから諦めてもらおう。
 ちなみに結界はただの障壁でしかなく、その気になれば破壊できる。

 それをやらないのは、中に居るペフリ自身が状況を理解しているからだ。
 ……そう、自分の娘が軽快にツッコミを入れたりしているところとかを。


「とりあえず……再会できたな」

「い、いろいろと文句を言いたいのですが。まずは……その、ありがとうございます」

「ああ、感謝してくれ。偽善をやった甲斐があったと実感できる」

「そういうところが、素直に喜べない理由ですけどね」


 それでも、クスリと笑ってくれているので偽善は達成できただろう。
 問題は……お母さんの方が、ある程度譲歩してくれるかどうかだな。


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