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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その16
しおりを挟むこの場で敵対する三つの存在の内、竜種と狼は半吸血鬼のメィルドに任せた。
俺が相対するのは最後の一人──真祖級の力を持つ女吸血鬼(合法ロリ)だ。
「じゃあ、さっさと倒れてもらうぞ。大人しく来てくれれば、運命的な母娘の再会……で済んだのによぉ」
「それもとっても素敵な提案よ。けど、本当かどうかも分からないじゃない。言葉だけを信じてはいけない。その行動を以って証明せよ──私が学んだ教訓よ」
「で、今回の証明がこれってわけか……ずいぶんと過激な奥様なこって」
俺の体からは、金色のオーラではなく銀色のオーラが溢れだしていた。
それは『侵化』を使い、【強欲】の力をより強く発現した結果だろう。
そのせいか、隔離した思考なんてもうだいぶヤバくなっている……【色欲】、そしてなぜか【暴食】っぽいことも考えているな。
「まあいいさ。証明しろってんなら、してやるよ──“銭投げ”!」
「起きなさい」
先ほど発動した“放蕩散財”。
それによって消費額の制限解除、消費効率などが引き上げられた“銭投げ”の一撃は、彼女が影から生みだしたナニカを消し去る。
それはもう、一瞬で。
なんとなく粘体っぽい姿をしていたようだが、核とか関係なくそのすべてを吹き飛ばしてしまえば潰えて当然だ。
「なら、起きなさい」
「無駄だって──拡散型“銭投げ”」
どんどん出てくる大量の魔物を、これまた膨大の額を文字通り投げ打って対処する。
拡散した一つ当たり一億Yの課金玉は、容赦なく敵を滅ぼしていった。
「うーん……無駄のようね。別の方法にしなきゃ──起きなさい」
「武器も入れられ……違うか。知性が有る武具、インテリジェンスウェポンの一種だな」
彼女の影から、突如として剣が飛び出る。
漆黒の長剣はいっさいの光を映さず、 それでいて剣そのものが禍々しい力を放つ。
「物分かりがいいのね。ふふふっ、こうしておけば大人しく従ってくれるのよ」
「……影から出すのは複製で、本物が中にあるってことか──寄越せ、“奪物掌”」
影に干渉し、目の前でペフリが持つ漆黒の剣と同じ形状の代物を奪い取る。
……まあ、課金能力を使っているし、成功率の上昇もしてるからセーフってことで。
「これか……『呪詛剣[血涙]』。まあ、俺向けの便利な剣だな」
「あらあら、あとで返してもらわないと」
「悪いな。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物って言葉が俺の国にはあるんだ。つまりこういうことだ──奪ったからにはその責任を取れってこった」
彼女の物とは違い紅に輝くソレは、自身と俺とを強制的に繋いで何かを奪おうとする。
が、何も起こらない……当然だ、奪おうとしたのは使用者の血なのだから。
「血が無い体質だからな。ああ、もちろん人族だぞ? その分を魔力で補っているだけだから、お前さんみたいな魔力も吸える奴には何の意味もない。けどまあ、それは特に関係ないよ、な!」
「ふふっ、そうねぇ……盗られちゃったわ」
どうしましょう、と言いたそうな顔だ。
しかし、それは異常だった──課金で得た超常的なレベルの身体能力を使った、俺のほぼ全力の剣技を捌きながらなのだから。
真祖級の力があるだけあって、ほっそりとした……むしろ痛々しいほどに痩せている片腕で、剣戟を行えている。
「そろそろ使うか──『絞り出せ』」
「あら、そっちでも使えるのね。私は使えたことがないのに──『絞り出せ』」
互いに使った呪詛剣の能力。
それは吸血鬼がもっとも欲しがる物──血の無い相手でも、強制的に血という概念を与えてそれを奪うというもの。
要するに触れてしまえばそこから血液が出て、吸血鬼の糧となるわけだ。
それぞれがそれぞれの血を求め、激しい剣戟を行っていく。
「今の状態だと、俺の方が身体能力が優れているぞ」
「そうね。けど、剣そのものの性能は私の方が優れているわよ」
血を吸わせているからだろう、ペフリの呪詛剣の方が鋭い一撃を与えてくる。
……それだけではないのだろうが、今は詮索している暇がない。
「だな。だったら──いいぜ、くれてやる」
「ッ……!」
すでに相手の呪詛剣は血を吸っているのだから、もう少しぐらいサービスしよう。
その方が俺のためにもなるのだから、ちょうどいいだろう。
わざと薄皮を一枚通すような回避を行い、その部分から出血させる。
強制的に血が生成され、雫のように飛んでいったそれは呪詛剣に吸い取られていく。
そして、それは俺にもできた繋がりを経て彼女自身の下へ。
ドクンッ、すると彼女からそう聴こえて来そうなほど膨大な力が溢れだす。
「雇用主!」
「おっ、そっちは狼をもう倒したのか」
「うん……じゃなくて、アレ」
「えっと……血をやったらああなった」
なんで血をという顔になったが、俺が持つ呪詛剣と出血が止まったものの痕が残っている腕の辺りを見て納得がいったらしい……その視線は、やたら腕に集中しているけど。
どうやらメィルドは、支払った額以上の功績を残してくれているようだ。
ならば俺も、それに見合うだけの礼をしておくべきだろうか?
「メィルドもいるか?」
「! い、要らない」
「そうか……じゃあこれ、本当に不味くなったら使ってくれ。とある吸血鬼曰く、天にも昇る味とか認められた逸品だ」
「…………預かっておく」
そう言って、俺の血の入った試験管を受け取るメィルド。
そして、改めて竜種の方へ向かうと戦闘を再開した。
「──で、準備はいいのか?」
「ええ、ええ。まさか、これほどのまでの味がするなんて……人族とは思えない。異様で絶妙なお味でしたよ」
「それ、褒めているのか?」
「はい、それはもちろん」
舌舐めずりをする姿が、その見た目とは不釣り合いな妖艶さを醸し出している。
瞳もやや爛々としている気がするし……ここからが本番、ってことかな?
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