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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その15
しおりを挟む「……何歳だと思う?」
「……分からない。けど、吸血鬼の成長速度は有って無いようなモノ」
「どういうことだ?」
「要するに、年齢を変えられる」
吸血鬼って、合法ロリなんだ。
目の前の光景、そしてメィルドの言葉からそんなことを思った。
全身に強制具を取りつけられた、幼い少女がそこには立たされていた。
ギリギリ地面に足が届かないくらいの場所で、鎖を繋いで固定されている。
顔や肌の大半が隠されているため、認識できるのは灰色の髪のみ。
あとは……少しだけ見えている肌が、痛ましいほどにズタズタなことぐらいか?
「助けないと」
「まあ、あの状態でも聞こえていると思うから大丈夫だとは思うけど……あの外したら、まず何をすると思う?」
「……感謝?」
「俺たち、殺されるんじゃないか?」
声は聴いているだろう。
だが、それと彼女がここで抱いた想いは別の話だ。
もし、その想いのままに彼女が行動をすればロクなことにならない。
何故ならば、その血を継いだ少女の秘めた才能がとんでもなかったのだから。
「いやまあ、それでも解かないとダメか。それが目的だったわけだし……どこから外すべきだろうか? 女性が相手だし、メィルドが選んでくれないか?」
「了解、じゃあ……顔から」
「解除には……壊すしかないか。視た感じ、呪いの魔道具だから浄化ができないなら壊しておいてくれ」
「なら──“闇祓い”」
闇魔法の中でも珍しい破邪の魔法。
メィルドが唱えたその魔法によって、顔に嵌められた仮面のような呪いの魔道具──呪具が外れた。
「……あっ、やっぱり顔からで正解か」
「! ……強い魔眼の力」
「澱んでいるな。まあ、マトモな神経で生き続けるなんて無理だしな」
娘が娘なので、母親もまた美しい顔立ちをした女性だ。
だが、それを台無しにする傷、そして闇を映すような昏い紅の瞳が彼女にはあった。
それはジッと俺たちを見つめ、何かの魔眼の力を発揮しようとしている。
俺もメィルドも予め予期していたので、精神干渉系のものであれば防げただろう。
だが、それは外れたようだ。
瞳が俺たち──の奥を睨み続けていると、影から真っ黒なナニカが出現する。
「これは……『影像眼』!?」
「ん? 何その、強そうな名前」
「伝説の真祖が持っていたとされる、伝説級の代物。取り込んだ相手を、影から魔力体として生みだす」
「おおー、つまりアレは彼女自身が倒したことのある魔物ってことか……ヤバいな」
正確な名前が分からないが、現れた巨大な狼は間違いなくボス級の強さがありそうだ。
唸りながら俺たちを避けて彼女の下へ向かうと、何らかの方法で軛を外していく。
強制具はズブズブと影の中へ沈んでいき、首に嵌められた隷属の魔道具以外のすべてが彼女から離れていった。
「……あー、あーーー」
「「──ッ!?」」
「あーーーーー。はい、戻りました。初めまして、でいいんでしょうか? お二方、まず問います──敵対しますか?」
驚いたのは、その声だ。
歌うメィルドにも驚いたが、彼女の場合は発するだけで人々の注目を集める蠱惑的な魅力を感じられた。
そして、そんな甘い声から紡がれた敵対の意思を問う質問。
隣のメィルドは……ダメだな、籠められた魔力に硬直していた。
狼は未だにこちらへ敵意を向けているし、早めに答えておかないとな……メィルドの前に立って、彼女の視線を浴びながら答える。
「ウェナって、知っているか?」
「ええ、もちろん。私の愛しい娘よ」
「俺はそのお迎え。アンタを──『ペフリ』さんをな」
「そう、ですか……では、試しましょう」
会話をしても、油断はしていなかった。
彼女の瞳はまだ、俺たちを澱んだ瞳で見ていたからだ。
なので、この後の展開もなんとなく予期して対策は講じていた。
俺たちの影から現れる、巨大な牙を跳躍することで回避する。
靴を無音で歩けるものから空歩スキルを行使できる物に履き替えていたので、それは二度行われた。
一度目の跳躍後、宙に生まれた空気の壁を踏み付けもう一度……その直後、壁は下から飛びだした牙によって噛み砕かれる。
「あら、分かっていたのね」
「嘘か本当か、考える気もないだろう? だから最初から用意して、実行した」
「ふふふっ。あなた、とっても賢いのね。いえ、この場合は逆かしら?」
「そうだな。それならここに居ないだろうから。それでも来る必要があったから、ここに来たんだ……縛ってでも逢わせるためにも」
このタイミングでメィルドは覚醒した……俺の胸の中で。
怒ったのか顔がやや赤くなるが、下の牙や狼の敵意ですぐに冷静となった。
「どうすればいい?」
「どっちの方が食い止められる?」
「……あの人は難しい。さっきも、私は役に立たなかった」
「だよな。だから、メィルドにはあっちの狼と……ドラゴンを頼む」
影から飛び出ていた顎より下が、ゆっくりと浮上してくる。
それは漆黒のドラゴン、声の無い咆哮をあげるとこちらに殺意を向けてきた。
「雇用主は……勝てるの?」
「このままじゃ無理だろうな。本当、今回はどれだけ使ったんだろう?」
前回は裏金だけで済んだ。
しかし、今回は無理だろう……だがそれだけの価値が、彼女にはあった。
「【強欲】よ──“放蕩散財”」
これまではわざわざ取りだしていたが、実は【強欲】には収納能力があってそこからも消費することができる。
そこに収めていたのは、大量の神鉄。
本来では決して手に入れることのできない神の力が宿った金属、それらを一瞬で消し去ることで力を得る。
「……これこそが【強欲】。嗚呼、実に気分がいいなぁ」
「雇用主?」
「分かってるよ。これについての説明はあとでするかもしれねぇから、その機会でも楽しみにしてな」
意識的に使えるようになった『侵化』。
今の瞳は金色だろうな……そんなことを思いながら、ペフリの下へ向かうのだった。
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