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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その13

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「シッ──」


 メィルドは剣を抜き、吸血飢バンパイアに迫った。
 剣身は真銀ミスリルと呼ばれる鉱石を加工したもので、現実で言うところの吸血鬼に銀みたいな感じのダメージを与えられる。

 十字架をデザインしたと思われる剣は、やや細身で吸血飢と戦えるか微妙に思えた。
 だがそれは間違いであると、すぐに理解する──むしろそれを生かし、彼女は戦う。


「Ah~~~~♪」


 彼女は戦いながら歌を奏でる。
 母方が人魚族のため、発声は得意なのだろう……超音波のような振動を声で生みだし、吸血飢へ放つ。

 波長を変えたり、いろいろなことをしているが、傍から見れば彼女は歌っているようにしか見えない。

 だが、何かの効果はあったのだろう。
 目に見えるほど吸血飢の動きが落ち、逆に彼女は振るわれる攻撃を躱していく。


「──あっ、ちなみに吸血飢の方は爪と簡単な血魔法を使っているな……ただ、どこから供給された血なんだか」


 メィルドが戦ってくれているので、俺はだいぶ暇になっている。
 爪と剣がぶつかり合い、なぜか金属音が鳴るというファンタジー現象はこの際無視だ。

 十字剣(仮)はどうやら自身の声を通りやすくしているようで、目を凝らしてみれば超震動的なことをやっていた……ガラスを割る原理で気づいたのか?

 それを用いて、血を飛ばしてきた場合も斬り裂いていく。
 血魔法って、魔力を凝縮させるととんでもなく硬くなるのだ。

 今の俺にできるのは、買い漁った魔道具を使ってサポートすることだけ。
 なので何かないか、とりあえずは術式を視る魔道具で扉を観察してみる。


「そっちには……特に無いのか。となると、吸血飢そのものに刻んだか? まあ、扉の方で調整していることに変わりはないし……部分的に削ぎますか」


 下手に弄って暴走しないように、まずは扉の周りの壁に向けて“銭投げマネースロー”を使う。
 すると、吸血飢は使命を刻まれているからか俺の方へ向かってこようとする。


「危ない。やらなくていい」

「隙が作れるって分かったから、とりあえず今はやらないさ」

「……。“塩水ブライン”」


 だが、すぐにメィルドがこちらにやってきて攻撃を防いでくれた。
 海魔法に存在する魔法で、破邪効果付きの塩水を出すというものだ。

 死体であるうえ、塩に弱い吸血鬼ヴァンパイアと同じ弱点を持つ吸血飢……本能でその危険性を感じたのか、即座に扉の下まで逃げる。


「今の、すぐに何発も使えるか?」

「……難しい」

「じゃあ──これでどうだ?」


 定番の魔道具『収納袋マジックバッグ』を使い、中から取りだすのは──大量の海水。
 決壊したダムの水が如く、大量に溢れ出す海の力に……吸血飢は苦しみだす。

 本来なら、それは吸血鬼の血を継ぐメィルドも同じはず。
 だが、彼女の母は人魚族──むしろ、海は彼女の味方となる。


「これなら……いける──“渦潮ワールプール”」


 荒れ狂っていた海水は、メィルドの唱えた魔法によって一つの現象を生みだす。
 水は回転し、場に居る者すべてを呑み込む渦となっていく。

 メィルドは海中でも呼吸ができるため、俺は魔道具を用いることでそれを回避した。
 一方の吸血飢は……海水に触れたことで弱体化していたこともあり、そのまま捕まる。

 なお、俺は宙を蹴ることができる魔道具の靴を装備しているので、普通に回避します。


「あとは渦の中でサクサクやってくれるか。俺みたいなヤツがいないとできない戦闘法だけど、いきなりでよくできるよな」


 一度はやったことがあるのかもしれない。
 もちろん、儲からないからすぐに止めるだろうけれども。

 なんてことを考えていると、ザパッと水中からメィルドが顔を出す。
 何かの魔法でそのまま水の上に立って、宙に居る俺の方を向く。


「もう、仕舞った方がいいか?」

「浄化は済ませた」

「なら、いいみたいだな」


 少々塩分の量が増えたかもしれないが、特に問題にはならないのでそのまま『収納袋』の中へ海水を片付ける。

 そして、改めて扉を調べ──術式が解除されたのを確認し、奥へ入っていく。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「だ、誰だ! 扉の前に配置した吸血飢はどうした!?」

「……どこもかしこも、やることは似たようなものなんだな。なあ、研究者さん?」


 扉の奥は研究室のような場所で、さまざまな魔物が入った培養装置が並んでいる。
 一番近くに居た男がこちらに詰め寄るが、その前にメィルドがガードしてくれた。


「な、何なんだお前たちは……」

「どうする?」

「反応はあるのか?」

「うん、奥に一つ」


 研究者たちは集まってくるが、気にせず俺たちは目的を果たすために探索を行う。
 そして、メィルドはそれを見つけた……俺も指さされた場所で反応を見つけだす。


「お前ら、いくらで俺たちに付く? 金ならいくらでもあるんだが」

「……無理だ。俺たちにはこれがある」

「ほへぇー、管理はバッチリってことか。悪いが、今はどうしようもないな」


 首輪を外すための鍵は、さすがに真っ当に金を積むだけでは手に入らなかった。
 予め必要だと分かっていれば、少々大金を叩いて買っていたんだけどな。


「与えられた命令は?」

「…………」

「情報漏洩の禁止、か。あとは定番の従順と命令履行ぐらいだな。合っているなら何もしなくて良い」

「…………」


 まあ、正解か。
 地上に出て黒没街を歩けば、解除くらいすぐにできるだろう。


「なあ、悪いけどサクッと寝かせることってできないか?」

「できる……けど、ここら全部になる」

「ああ、問題ない。耳栓、あるからな」


 モンスターをハントしている皆さまご愛用のスキルを、こっちにも持ち込んだ奴がいたみたいだからな。

 そう言って耳栓を見せると、コクリと頷いて準備を始める。
 ……楽しみだな、耳栓を耳に付けながらそう思った。


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感想 13

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