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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その12

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 それからは比較的簡単に逃げられるようになった。
 闇魔法を彼女が使えたため、部分的に施すことで隠してもらえたからだ。

 捜索する能力はちゃんとあるので、指定した場所に隠れるための闇を用意してもらう。
 一部分に集中させることで、その性能が高まるため祈念者プレイヤーすらも欺けた。

 そうしていろんな場所を彷徨い、ウェナの母親を探していく。
 メィルドは吸血鬼ヴァンパイアを見つけることができるので、ここに居るかどうかは分かるはずだ。


「どうだ?」

「……ずっと前から、気になってた。反応が一つ、ある場所がある」

「それは?」

「──あそこ」


 彼女が指さす場所は、つい先日足を踏み入れた場所──帝城だった。
 そういえば乗り込んではみたものの、城のすべてを探ったわけではないなと思いだす。


「……また、行かなきゃならないのか?」

「…………また?」

「この顔、見覚えは?」

「…………通報?」


 ヘコヘコと頭を下げて、それだけは勘弁してもらった。
 ただ、情報提供者はお金が貰えるらしいのでそこは謝礼ということで……な?


  ◆   □   ◆   □   ◆


「こっち」


 改めて侵入した帝城だが、今回は上ではなく下を目指すらしい。
 前回の牢屋は一階の薄暗い場所にあったのだが、今回は完全に地下空間へ向かう。

 また驚いたのだが、地下もまた何やら特殊な技術で広い空間になっていた。
 かなり入り組んでいて、普通なら迷子になるところだろう。

 しかし今の俺は、探ることならばお任せ。
 できるだけ彼女の指示に従いつつ、先に罠があるなら異なる道を伝えて下へ向かう。


「そういえばメィルド──」

「メィでいい」

「……メイ?」

「メィ」


 発音が難しかった。
 彼女が人魚族で、滑舌が良いのが発音できている理由なのかもしれない。

 なんてことを思いつつ、どうにか二文字を言えるようになってところで話を元に戻す。


「メィ、独りでここから帰れるか?」

「……私だけなら、なんとか。雇われているし、ちゃんと守る」

「いや、俺も帰るときは魔道具を使うから気にしないでくれ。もしかしたらだが、そのときに目標の人物を連れて逃げてもらうかもしれないからいちおうな」

「了解」


 この地下、魔物は基本出てこないのだが魔力生物と呼ばれる人造生命体が出てくる。
 たとえば傀児ゴーレム人形ドール、あと霊体ゴースト……最後のは近くにアニワスがあるのでだいぶ強い。

 アンデッド使役は禁忌だが……そもそもこの場所も隠されるぐらいアウトな場所、今さら感が半端なかった。


「──“黒牙ブラックファング”」


 影から牙を生むという魔法が、道を塞いでいた騎士型の傀児に命中する。
 光は一定間隔で設置されているが影もできていたので、これを選択したのだろう。

 上手く死角から当たったため、そのまま核にでも魔法が当たったか……傀児は目の光を失い活動を停止した。


「むっ、崩れない」

「なら、俺が壊す──“銭投げマネースロー”」


 そのまま壁になるようプログラムされていたのか、道をなお阻む傀児に向けて今使える武技を発射する。

 少し控えめに課金額は十万Y。
 ……少し金銭感覚が狂っている気もするけど、ちゃんと破壊できたので問題ない。


「……お給金」

「通報すればあとでいっぱい貰えるからな」

「大丈夫、ちゃんと後回しにする」


 吸血鬼狩りヴァンパイアハンターも生活は苦しいようだ。
 まあ、帝国に潜んでいるのも三グループでやれば全然狩れないだろうし。

 特に彼女は思慮深い『吸血鬼狩り(?)』なので、誰彼構わず狩るようなことをしないため全然儲からないみたいだ。


「この先か?」

「うん、あの扉の奥」

「……なんだってんで、あんなに厳重な閉められ方をされているんだか。仕方ない、使えるだけ散財すれば──」

「任せて、私がやる」


 そんな会話をした後、膨大な量の術式が刻まれたやや大きめな扉に接近する。
 すると扉の紋様が光り輝き、俺たちの体をスキャンし──赤く明滅し始めた。


「何か入るための証が必要だったのか。無くても突破できそうだけど」

「来る」

「あいあい──召喚か。アンデッドを、しかもこりゃあ……」

「……吸血飢バンパイア、それも侯爵級マークィス


 吸血鬼と違い、アンデッドに属する血を好み食する魔物だ。
 位階ランクが低い時は理性もないまさに魔物なのだが、高くなると普通に話すようになる。

 なので、侯爵の位を得るぐらいの個体であれば喋れるはずなのだが……目はどこか遠いところを見ているし、口からはダラダラと涎が流れて普通ではない。


「さっきの術式か…………なるほど、命令通りの行動しかできないように操られている。その調整をミスったからだろう、あんな感じになってるみたいだ」


 術式を視る魔道具。
 かつて俺が作った魔道具に劣ってはいるものの、いちおうは使えるのでそれで視える限りの情報をメィルドに伝える。

 高位のアンデッドを操る研究、たしかにアニワス産のヤツを上手く使役するためには必要なものなのかもな。


「いずれにせよ、アレなら倒す」

「まあ、救いようがないしな。何か手伝うことはあるか?」

「問題ない、これまでも独りでできた」

「……こっちで危ないと判断したら、またアレを使うから避けてくれ。雇用主が勝手な行動をすると思って我慢してくれよ」


 先にそう忠告して、戦闘を開始する。
 はてさて、手を出す必要はあるのかな?


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