上 下
1,430 / 2,518
偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その11

しおりを挟む


『居たぞー! 周り込めー!』

「クソッ、うかつだった!」


 さながら逃避行のように、追いかけてくる祈念者たちプレイヤーから逃げ続ける犯罪者こと俺。
 ちなみに罪状は国家転覆及び皇帝暗殺未遂という、いかにもな大逆である。

 俺が普通の祈念者だったら、速攻でユウに断罪されて即死に戻りするところだな。
 そしてその先はペナルティエリアである監獄で、しばらくは閉じ込められていた。

 だがユウはいちおう弟子だし、もっともヤバいPKもいちおう配下というポジだ。
 こんな事件に主人公(候補)が来るわけもないので、どうにか逃げられている。


「居たぞ! 観念しやが──」

「分かってて呼んだんだよ……それ」

「ぐほぉっ! こ、股間が……」

「そう言えてるだけマシだろう。身体強化、してて良かったな」


 予め感知していた生体反応が近づいてきていたので、通るルートに帝城でも使っていた『発破六十死ちゃん』を設置した。

 そして、奴の股間が爆破圏内に侵入したところで……それっと押したわけだ。


「お、おい、大丈夫か?」

「む、息子が……息子がぁああ……」

「て、テメェ! 血も涙もねぇ悪魔かよ! よくもまあ、人様にこんなひでぇことができるな! さっさと捕まれよ!」

「おいおい、賞金稼ぎ。お前は悪いことをしたらすぐ『ごめんなさい』しろっていう先生かよ。なら先に、『事情も訊かないで追い掛け回してごめんなさい』って言えよな」


 ただただ正論を言ったつもりなのだが、ナニカが切れるような音が聞こえた気がする。
 ……本当、煽っている気はさらさらないんだけどな。


「そんな顔すんなって。じゃあ、俺を殺したら犯罪者だからあとで自首しろよ? それ、立派な殺人だからな」

「死に戻りするんだから関係ないだろ!」

「……バカか、お前。いや、バカだろう。俺が死んだ後にどうなるのかと、お前が俺を殺すことに因果関係はねぇよ。殺した時点でお前は殺人者、その覚悟を背負えよ」

「……っ!?」


 責任を背負わないで殺し、金が貰えるからこそ彼は『ローリスク・ハイリターン』なこの稼業をやっているのだろう。

 祈念者たちは死なないんだ、死んだ後のデメリットさえどうにかできれば彼らはどれだけ死のうと目的さえ果たせばいいという殺戮マシーンにだってなれる。


「というわけで……時間稼ぎはできた。また会おうぜ、同じ穴の……蛙君」

むじなだよ!」


 そういえばそうだったっけ?
 そんなことを思いながら、さらに黒没街の中を駆け抜けるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……また空振りか」


 情報屋を虱潰しに訪れては、ウェナの母親に関する情報を持ってないか聞いている。
 だが、どいつもこいつも持ってないうえ、帝国に密告しようとするのだ。

 札束ビンタならぬ硬貨ショットを何度も繰り返しているが、やはり優れた情報屋には遭遇できない……まあ、探している場所が場所なうえ、非合法な場所しか行ってないから。


「『一家』の情報網を使うのは悪い気がするし、何かいい方法は……ん?」


 情報屋の隠れ家を出た俺の前で、知っている魔力反応が感知できた。
 この姿のまま会っていいかと悩んだが……縛り中だし、そのままでいることに。

 そうこうしていると、その魔力反応の持ち主がこの場へ現れる。
 外套に身を包んだ、顔の見えない誰か──その瞳はウェナのように紅に輝いていた。


「吸血鬼の、匂い?」

「……ああ、探し人でな。たぶんそっちで嗅いだ匂いの、母親を探している」

「なんで?」

「生き別れたらしく、今どうなっているかも分からない。だけど頼まれたからな、探せるだけ探しているわけだ」


 そう告げると、声の主は外套を脱ぐ。
 見たことのある蒼銀色の髪、そしてほんの少しだけ鋭い犬歯。

 そして、変色した蒼色の瞳がやはり知り合いだったと意識させた。
 彼女はメィルド、吸血鬼ヴァンパイア狩りを仕事とする半吸血鬼のお嬢さんである。


「あなたは……メル?」

「……なんでそう思ったんだ? 女と男、性別が違うだろ」

「……それは答えたようなもの。半分は吸血鬼だから分かる──血が無いのはおかしい」

「なるほど、それが理由だったか」


 俺が常時発動している(血液不要)スキル。
 スキル名のまんま、体を血液を必要としないものへ作り変えるというものだ。

 霊体とか骨とかのアンデッド系の種族が持つ性質スキルアビリティなんだが……そうか、普通の奴が使うとそういう弊害が出るのか。

 それを教えてくれるはずのフィレルが、ただただ血を欲しがってくれる記憶しか無かったから気にしていなかったよ。


「……クラーレは?」

「今は別の場所で冒険中だろう。あと、事情は知っているから気にしなくて良いぞ」

「そう……なら、行こう」

「行こうって、どこに?」


 いやまあ、話の流れ的になんとなく察しはするけども。
 今の俺って犯罪者だし、共犯者ってのは少し罪悪感がな。

 しかし、彼女は俺の罪悪感など気にも留めずに語り続ける。
 瞳を、これまでとは異なる色に輝かせて。


「私の魔眼は影を視る。吸血鬼が隠れていてもすぐ分かる。そうじゃなくても、同族は分かるから見つけられる」


 それは非常に便利なのだろう。
 うん、吸血鬼だけでなく、影魔法とかを使える相手にも有効な魔眼だな。

 しかしながら、礼はどうやって尽くそう。
 少なくとも、今の俺にできるのは──


「……実は、今は金しか持ってなくてさ。あとで好きなだけ奢るってので……どうだ?」

「なんでも?」

「ああ、なんでも」


 というわけで、お金で雇った吸血鬼狩りといっしょになりました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...