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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その09
しおりを挟む帝城から脱出することに成功した。
予め仕掛けておいた魔道具が起動して、犯罪者たちが収容されていた牢屋がすべて解放されたのもその理由の一つだ。
あのとき置いたのは、毎度お馴染みの錬金術師が作った『量産型:発破六十死ちゃん』という爆弾だった。
騎士との戦闘前に爆破したことで、彼らは帝城で暴れ回り時間を稼いでくれたわけだ。
その後はあの合図で招きこんだギルドの者たちによって、手引きされたことだろう。
「──まあ、そういうことでやりたい放題して裏金を全部貰ってきた。使わなかった分はここに置いておくから……オジキたちの方で使ってください」
億単位で使ってもなお、尽きることのない帝国の闇が集めた大量の財宝。
これ以上同じ縛りをすることもないので、貧困層にも配る『一家』に委ねることに。
孤児院への寄付やスラムへの配膳など、彼らであればやってくれることだろう。
最近は祈念者が栄養学を授けているので、屋台の物でも美味しく食べられるからな。
食料の準備も容易である。
俺が料理をすると中毒者が出てしまうかもしれないし、やはり誰かに任せておくのがここは最適解だろう。
「……って、ちょっと待て。少しぐらい持っていく気にはならねぇのか?」
「ヤバい呪具とか、そういうのを抜いてあるからそれを貰っておく。だから、そっちは全部やることにした……必要だろう?」
「…………しょうがねぇなぁ。これは、借りにしておいてやらぁ」
素直じゃないな、と兄貴と顔を合わせ笑ってしまう。
そんな人だからこそ、他の者たちが集うんだろうなと思いつつ。
「それで、また連れてきたみたいだが……あれはどうすんだい?」
「ギルドに元居た場所を調べてもらっているから、帰りたい奴は返す予定です。残る人に関してですが……任せてもいいですか?」
「お前さんに惚れたヤツが、残っちまうかもしんねぇぞ?」
「俺の顔は心の強さが異常じゃない奴には嫌悪されるものですし、そんなモノ好きはそうそういませんよ。兄貴だって、最初は殺す気で来たんですから」
オジキは最初から普通に扱ってくれた。
井島に居たときから、それなりの経験をしてきたからだと語っていたな。
前回助けた奴隷の一部は、『一家』のお世話になっていた。
わけの分からない俺の世界よりも、危険だが知っている場所を選んだわけだ。
「そういうもんかねぇ? 男は顔じゃねぇ、その生き様で語るもんだろう?」
「……兄貴もそう思いますか?」
「それがすべてとは言わないけど、オジキの言うこともたしかだよ。君だって、女の子がすべて顔で決まるとは思わないだろう?」
二と三、その違いに関しては顔だと思っているのは内緒にしておこう。
だがそれ以外の点を考えると、決して顔だけではない…………ない……のだろうか?
もともとこの世界は現実と比べ、美男美女が多く俺好みの女性ばかりだ。
そして、眷属の顔を一人ひとり思い返してみれば……可愛いか綺麗な子ばかりだった。
一部、それを否定する褐色TSエルフを思いだすが、そこは彼(女)の相棒が圧殺するだろうし無視しておこう。
◆ □ ◆ □ ◆
第一世界 リーン
「とまあ、そんなことがあった──」
「どうしてですか!」
とある家屋の中で、帝国でやったことを話していると……家屋の主である少女が声を張り上げ、俺の語りを中断させた。
彼の皇帝のような輝き金髪、そしてそれとは異なる血のように真っ赤な瞳を宿したその少女こそ──『ウェナ・ファナス』。
あの皇帝が、吸血鬼の女性に孕ませた庶子である。
「わたしは、わたしはもうあの人のことなんて忘れられていた! 全部諦めて、目を逸らしたここならきっと幸せになれるって!」
「無理だろ。そうやって過敏に反応しているのが何よりの証拠だ。ちゃんと決別するか、もう一つの問題を解決するまで苛まれると思うぞ。……俺がこうして動いたのも、カグから心配されたからだしな」
「……ッ!」
「寝ている時、苦しんでいたらしいぞ。その辺りは詳しく聞かなかったからよく分からないが、それは過去から逃げられない証拠だ」
本当、うちの義妹は優秀だよ。
全眷属からいろんなことを学んでいるからか、メンタリストとかカウンセラーの真似事もできる。
ウェナのだいたいの事情を把握し、俺に必要な情報だけを回してくれた。
個人のプライバシーを考えている辺り、偽善の俺よりもはるかに優れているだろう?
「でも、もう……」
「それはこれから調べるんだが、やり方を気にしなきゃどうとでもなる。自分勝手な偽善者に任せておけば、全部解決してくれる」
「……自分でそういうこと、言いますか?」
「ああ、自縄自縛だがこれは約束だ。すればするほど、俺にやる気が出てくる。そうすれば、ちゃんと見つけられるぞ? さて、お前さんは何か言いたいことはあるか?」
ウェナをジッと見つめ、解答を待つ。
彼女はしばらく見つめ返していたのだが、なぜか途中でプイッと顔を背けた。
そして、その状態のまま──
「わ、わたしの母を……探してください」
「お任せください、皇女殿下」
ちょっと言ってみたかった台詞を述べて、俺はまた新たな約束を一つ交わす。
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