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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その04
しおりを挟む「『透明薬』に『消臭液』、『無音靴』。便利な道具ばっかりだなー」
祈念者が創意工夫を重ねた結果、大量のアイテムが揃っていた。
表と裏でいろいろな品を売っている帝国なので、金があればだいたいの物は手に入る。
靴を履きかえ、五感を騙すアイテムを複数使用して帝城内を彷徨う。
完全ではないものの、帝城の情報もまた金で買えたからな。
「さて、まずは宝物庫を確認しないと」
帝国の闇は深い。
そして最終的に闇が稼いだ金の一部が、上納金としてこの城に収められる。
いかに欲深い者たちが集う場所とはいえ、そのすべてを自分の懐に収めようと考える者はいない……居たとしても、その存在は帝国からすぐに消えるだろう。
活動を、国に居ることを許されるためには金が必要だ。
商売をするにも生活をするにも、どんなことにも金が必要となる。
まあ、ギルドに所属していれば目に見える範囲でそういったことに苛まれることもないのだが……裏ではしっかりと取り引きされているので、祈念者のみんなは注意だぞ。
「こういうときは──『ダウンジング・ロッド』で捜索っと」
L字型の棒を二本握り締め、宝物庫があると思われる区画を探していく。
現実では全然効果の無い物だが……この世界では、明確な効果を発揮する。
「一番高いのを買って正解だったな」
勝手に進路を変えた棒が示したのは、普通では見逃しそうな壁であった。
そこに用意していた『透視眼鏡』という魔道具を使って視れば──金銀財宝の山が。
なお、普通は壁にも防御の術式などが刻まれていて視ることはできない。
ひとえに作った職人のレベルが高すぎた結果、見抜かれてしまっただけのこと。
「今回、現金以外のお金を用意してなかったからな……確保が必要だったんだよ。今回使うのは──『虫籠君(真白蟻入り)』」
とある錬金術師が作った虫籠に、祈念者が捕獲した白アリ型の魔物が入った魔道具だ。
ちなみに『真白蟻』とは、魔力すら喰らう危険害虫として嫌われている白蟻である。
「まあ、要するに小さなシロアリが一匹いるだけで……建物は崩壊するわけだ」
壁に張り付けると、勝手に壁を食べだす。
魔力を喰らう性質を持つため、術式を発動させる動力源が失われて防犯システムが作動することもない。
最近は、建物にも白蟻対策がされているのだが……帝城なんて歴史のある建築物は、その対策をしていなかったのだ。
外側には対策として錬金術師が作る薬品を塗ればいいのだが……内側までは塗っていなかったようで、結果は──開通である。
「トンネル貫通っと……『映るんです』で壁の幻影を見せて、しばらくは誤魔化そうか」
そして、改めて目の前の光景を拝む。
大量の財が並び、照明の点いていない部屋が足元を見ることができるぐらいに明るさを保っている。
金貨や銀貨だけではない、より価値のある硬貨や宝飾品、派手派手しい武具などもここには収められていた。
「じゃあ、貰っていきますよー」
裏金の隠し場所であって、帝国の金すべてというわけでもないので罪悪感は無い。
目に入ったモノすべてを“空間収納”の中へ収め、部屋を綺麗にしていく。
呪い付きのアイテムがあったので、そういう面倒臭そうな物は残してだが。
「はい、じゃあ次に行ってみよう──」
財宝を持っておけば、今の俺でもある程度戦うことができる。
財を以って戦うのだし……うん、ギリギリセーフってことで。
◆ □ ◆ □ ◆
財宝を回収後は、再び帝城を練り歩く。
数ある魔道具の中から、『生命レーダー』というあらゆる生き物に反応する欠陥品を取りだし、確かめながら目的の場所を探す。
物語とかだとバレそうな流れだが、そんな面倒事はしっかりと回避済みだ。
ちゃんと潜入に使った消耗アイテムは、その予備分も揃えてあるからな。
「帝城の中にあると聞いたが、さすがにここじゃなかったか……後宮でもあるのか? にしても、そうでもないのにこんなに居るってのもちょっと恐ろしいな」
俺が現在居るのは牢屋の前、厳重な警備もされていなかったため、レーダーが感知した生命体が集まっている地下にある部屋を調べていたら見つけた場所だ。
奴隷を収容しているのではなく、この国や皇帝に犯意や反意を示しているとかそういう理由で入れられたらしい……というのを、ここに居ると愚痴る者が居たからな。
問題はその数だ。
檻が空いていないのか、だいぶギュウギュウに押し込んでいる……なんと、一つの六畳程度の広さに八人ぐらい入っているな。
「祈念者は自害してサクッと脱出するから、中に居るのは自由民だけだ。あと、普通にユウが居たら瞬殺できるようなヤツもいるから全部を解放するわけにもいかない」
偽善者としては全部解放しても何も困らないのだが、とりあえず放置しておく。
解放して犯罪を行うとかされると、いろいろと目覚めが悪いわけだし。
「けどまあ、ちゃんと仕掛けだけは用意しておかないとなー。扉にそれぞれ、魔道具を設置して……よし、次だ次」
同じ品をいっぱい買えば、その分安くなるから買い込んでしまっていた。
祈念者って、とりわけ危険物を大量に作ろうとしているから安く売ってたんだよな。
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