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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その03

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「──マジか、殺す気でやったんだけどな」

「一度認識すれば、もう体が勝手にやっちまうからな。それより、お前の職業もなかなか使えそうだな……俺に雇われないか」

「ああ、無理無理。俺はそういうのが嫌だからこのポジションに就いたの。金とかそういうものじゃなくて、もっといい報酬をくれたら一度だけ……って感じだ」

「…………今は諦める。だが、お前みたいな人材は貴重だ。いずれまた、交渉の場を設けさせてもらおう」


 新しく得たスキル──(認識固定)。
 認識を外す男の体質に合わせ、自動的に捕捉してくれるというものだ。

 これ、目測で発動する自動追尾とかといっしょに使えば……うん、スキルが解除されるまでどこまでも追いかけていくことになる。

 ちなみに男がやったのは、認識を外した相手に死をもたらすという強制的な契約。
 体質なので普通は対処できず、そのまま死ぬらしいが……俺は生き残ったわけだな。


「いや、普通に嫌ですけど」

「なんとでも言え。俺は執念深い男だ、お前が頷くまで何度でも来よう。それこそ、うんざりするほどな」

「……好きにしろよ。ほら、これを上に出せばそれで依頼は実行される。この帝国で何をすんのか、楽しみに観てるからよ」

「ああ、期待しておけ。いずれまた、迎えに来るときの土産話にでもしてやろう」


 おそらくはしばらく来ないだろうので、その間にこのギルド側でも情報を至る所から集めることだろう。

 それが終わったからが勝負となる。
 俺がこのギルドに干渉するためには、それ以上の力を示す必要があるからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 その日の夜、帝国はお祭り騒ぎとなった。
 至る所で騒ぎが起き、空では鮮やかな火薬による爆発が起きる。

 それが予め通達されていたものであれば、人々……いや、この国の兵士たちも純粋に楽しむことができただろう。

 しかしこれは非公式のモノ。
 突発的に起きた騒動に、彼らは非番であろうと駆り出されて事態の収束に向かう。

「……ん? なんだ、これ?」

 これが自分たちに内緒で準備され、日々の平和を祝う祭り……どこかでそう知った人々は兵士たちが抑えようとする中、外へ出て祝いの言葉を交わしていく。

 どうにか少しずつ、兵士たちの言うことを聞く者たちが現れ出したそのとき……宙からソレは降りだした。

「おい……これ、まさか!」「金貨だ、金貨が空から降ってきたぞ!」「天からの恵み、さすがは皇帝様だぜ!」

 空から降り注ぐ金色の雨。
 もたらすのは恵み、それも物理的な。

 人々は兵士の言葉を忘れ、街に出て金貨を掴み合う。
 誰が一番多く手に入れるのか、それを争いながらも祭りと言う空気に酔って笑い合い。

「誰だ……いったい、誰がこんなことをしているんだ!」

 それをする意味が分からない、兵士はそんなことを思いながらもどうにか民たちを沈めようと努力する。

 しかし、独占を狙っていると疑われてしまい……それが終わるのは、かなり後になってしまうのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「急なインフレ、さてさて対応できるか?」


 しかも、純金の硬貨にしておいた。
 特殊な仕掛けなんて一つも無いので、手に入れた分だけ人々は一時の夢に酔いしれる。

 だが、重々忘れることなかれ。
 人の夢と書いて儚いのであり、同じ夢を叶えれるほど世界とは甘くはない。


「まあ要するに、そう遠くない未来に面倒事が起きるわけだ。少なくとも祈念者は、下手に知っている分やらかすよなぁ……」


 わざと死蔵させるとか、逆にデフレを引き起こすとか……この世界をただのゲームだと思うからこそできる、愉快犯染みた行動をする者が出るだろう。

 だがまあ、この国って罪なき人々の血と汗から絞り出した金とかもあるわけだし。
 偽善者的には、あとがどうなってもいいっていうのも実行した理由の一つだな。


「こんな依頼も受け入れてくれるって──奥が深いな、非合法ギルドって」


 仕掛けで分かっていたとは思うが、あそこはだいぶグレーなギルドだ。
 ギルドカードの偽装とか、暗殺依頼とかも請け負っているらしいし。

 あと、帝国が本部というわけでもない……その場所は長も知らないんだとか。


「けどまあ、そのお蔭で作戦は実行できたわけだ──楽しんでいこうか」


 今の俺にあるのは、無限を誇る財力だけ。
 外から力を補填することはできても、俺自身が力を持って振るうことはできない。

 だからこそ、大規模な陽動作戦を依頼して実行してもらった。
 王城から兵士を削ぐことはできずとも、ある程度数を減らすために。


「『スカイブーツ』起動、いざ前進!」


 先ほども使った魔道具だが、魔力を籠めることで一時的に使用者に(空歩)を与える。

 今の俺は元のスキルが使えないので、装備によってレベル1相当ではあるが改めて空歩スキルが使用可能になるわけだ。

 問題は、魔道具からスキルを借り受けているような状態なので、いつもと感覚が違うということだろうか?

 足からしか力を籠められないので、出力もそう高くない。
 制御を誤れば、今居る場所──王城から地面に真っ逆さまだ。


「スキルは金関係だけだしな……ここだけは頑張らないとな」


 ふらふらしながらも、着実に目的地へ向けて歩いている。
 間もなくお祭り騒ぎも幕を閉じる……間に合うと良いんだけど。


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