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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者と帝国騒動 その02

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 祈念者プレイヤーを多く受け入れているヴァナキシュ帝国なので、もし暴れようとすれば不死身の彼らによって鎮圧されてしまう。

 そのため、犯罪を実行しようとしても成功率はそう高くない……はずなのだが、表裏のあるこの都市内では、今なお小さなものから大きなものまで犯罪が発生している。


「──邪魔するぞ」

「な、なんだいアンタは」

「そう緊張しなくてもいい。ある意味、こっちも同業だからな」


 俺が訪れたのは、黒没街に配置されているとあるギルド。
 少々ケバい化粧をした受付嬢が驚く……演技をしているのを宥め、ある物を取りだす。


「『一家』の証、これで身分証明ってことにしちゃあくれねぇか?」

「か、幹部クラスだって!?」

「ちょっと大きな依頼をしたい。話は……下でやらせてもらうぞ」

「……本気かい?」


 この建物は三階建てで、地下の存在は見えないようになっている。
 ギルドなのでその長もここに居るし、普通に三階にその反応を確認できるだろう。

 だが、それでも俺は下と告げる。
 そこに何があるのかを理解したうえで、ただジッと受付嬢を見つめて。


「……初回には審査がいるよ」

「金か、戦闘か、代償か?」

「一番ありがたいのは金だね」

「そうか…………なら、これだけ払おう」


 溜め込んでいた金銭を、“空間収納ボックス”から取りだしてカウンターに載せる。
 白金でできた硬貨が積み重なり、その数は優に千枚──つまり一億Y分のお支払いだ。


「これで足りるか?」

「……充分すぎるよ。じゃあ、付いてきな」


 お金に糸目を付けてはいけない。
 俺は今回、金でさまざまなもので買うつもりでいる……そのため、今回の縛りもまた金に関するものばかりである。

 受付嬢の後ろを付いて歩くと、すぐに通常の感知能力では気づくことのできない壁のホログラムを通過して奥へ進む。

 そして、さらに階段の無いただの穴の中へ墜ちていき……地の底で足を付ける。


「驚いたね、本当は待たせる予定だったんだけど……ちゃんと付いてこれるとは」

「そういう魔道具も、今の時代は売っているぞ。祈念者どもは、金さえ払えば何でも作ろうとするからな」

「……本当、今のご時世商売上がったりなんだよね。死なないアイツらが勝手に依頼を受ける分、中継役としてアンタみたいな奴から依頼料を貰えなくなるからね」

「らしいな。けどまあ、俺みたいな新客が来ることもあるんだ。派手に祭りと行こうじゃねぇか、そんな使える道具を利用してな」


 罠を利用した施錠を解除して、さらに仕掛け扉を開いて奥へ進んでいく。
 次々と設置された罠を解除し、その先には小さな部屋が一つ。


「そういえば、他を選んでいたらどうなっていたんだ?」

「戦闘なら誰かと闘わせた後に独りでここに行かせる、代償ならモノによるねぇ……この先はアタシもダメだ。そういう契約をしてあるからねぇ」

「……分かった」


 自分が居なくなってからノックをしろ、そう言った受付嬢が去るのを待って……ノックするのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 最近、このパターンが増えた気がする。
 いやまあ、そんなに多くはないが……目の前の男を見ながら、そんなことを感じた。


「あー、はいはい。依頼ね。ずいぶんとまあ大金を叩いてくれているようだけど、いったいどんな依頼なんだ?」

「……そんな口調でいいのか?」

「おたく、そういうの気にするタイプ? 別にいいだろう、どうせ金の縁だ。依頼について、さっさと言ってくれないか?」


 男の容姿を認識できない。
 中肉中背の青年であることはなんとなく分かるのだが、それ以上の情報を脳が受け付けないというか認識できないというか。


「なあ、呪い持ちか?」

「違う違う、ただの才能だ。まあそれより、すぐに企画を考えようか。先に聞いた話によると、面白い祭りをするらしいな」

「違うのか……ああ、企画に付いては紙に纏めてある。それに目を通してくれ」

「面倒臭いな……まあ、大金を出してくれたスポンサー様の言うことだ、聞いてやるよ」


 資料を渡すと、嫌そうに読み始める。
 ……うん、嫌そうな顔をしているな。


「ふむふむ、へー。これ、できるのか?」

「するために、ここに依頼しに来たんじゃないか。なあ、兄さん。このギルドが用意できる戦力ってどれくらいなんだ? 最悪、荒事にるかもしれないし」

「うちは少数だから……ちょっと待て、なんで俺を男だって認識できている? もうそろそろ忘れるはずだろう」

「なら、配置する場所にも限りがありそうだな。そこを詰めていこうか。あと、それは簡単だ──もう慣れた」


 男のソレ──認識阻害(仮)は、意識から男を外したときに彼の情報を忘却されるというものだった。

 おまけに時間が経つと、少しずつ記憶から容姿に関する情報が消えていく、と。
 なんともこのギルドにピッタリな、才能の持ち主なんだろうか。


「……何者だ、お前は?」

「ただの『一家』の縁者だ。あと、少しだけ耐性が付きやすい体質の持ち主だな」

「体質ねぇ……なあ、依頼は完璧にやるから少し試してもいいか?」

「いいぞ。ただ、その分追加でやってもらいたいことが増えるけどな」


 なんて交渉をしたりして、計画へまた一歩前進するのだった。


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