1,420 / 2,518
偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と帝国騒動 その01
しおりを挟むヴァナキシュ帝国
帝国には二つの顔がある。
皇帝による統治によって築き上げられた、金持ちたちが集う白栄街。
そして、それと対を成す裏の姿。
皇帝認可の非合法区域、祈念者すらも商品に変える黒没街。
前に訪れたアンダーな方の場所はそこに含まれており……俺はその一画に在る、屋敷の中に居た。
「お前さん、ずいぶんと久しいな」
「そりゃあまあ、忙しかったからですよ。時に大陸を渡り、時に世界を股に掛けて偽善をやっていますからね」
「かー! ずいぶんと行儀の言いこって。それじゃあ二代目の名は告げねぇぞ?」
「……それは『兄貴』に譲りますよ。ほら、『兄貴』からもそう言ってくださいよ。気に食わねぇガキには譲らない……的な」
対面しているのは、二人の男性だ。
一人は少々頼りない体躯をした、金髪の青年……彼はもう一人の男の隣に座り、ただニコリと笑顔を浮かべている。
「とは言ってもなあ、オジキに続いて君で二人目だぞ? あの頃ならいざ知らず、今は君こそが『一家』の二代目だと心の底から認めているよ」
「お前さんもだ。どうしたどうした、オレんトコにカチコミしに来たときの荒々しい気迫はドコ行ったんだよ!」
「オジキと弟分に、心配したことは全部解決されたんだ。今さら取り繕う必要も無いし、あの子たちに怖がられないようにこういう口調を心がけてんだよ。オジキだって、あの子たちの前だと口調が変わるじゃないか」
「うっ……い、今はオレのことはどうでもいいだろうが! それよりもメルス、お前さんさっき別のトコに行ったと言ってたな? そりゃあもしや──」
俺の台詞にそわそわとしだす『オジキ』。
少し前まで病と呪いのダブルパンチを受けていた影響か、やや白髪の割合が多い黒髪の老人だ。
着物を羽織り腰には刀を差していることから、見た者はすぐに分かる──彼がこの大陸とは異なる島国『井島』生まれの者だと。
「お土産です、『オジキ』」
「……ッ! おお、こりゃあテメェ……」
「どんな物なんですか?」
「こっちにゃ出回らねぇ、貴重な酒だ。さすがだな、メルス! もうそんな信頼関係を築けるぐらい、アッチに馴染んでんのか!」
こういうとき、奪うという選択肢が頭に無いのも『オジキ』が慕われている理由だ。
仁義を通し、弱きを助け強きを挫く──それこそが『一家』の頭領の美学である。
そんな彼を驚かせたのは、『楽土』と呼ばれる東都の辺りで造られている酒だ。
オダさんも呑む酒らしく、話し合いが済んだ後に一樽分貰っていた。
そして、俺には複製魔法があるので……大量に用意できた樽を十個ほど並べて、この場に広げてみたわけだな。
◆ □ ◆ □ ◆
「……で、結局何しに帰ってきたんだ? 正式に二代目継ぎてぇってんなら、すぐにでも儀式を執り行うが?」
「だから、やりませんから。今回は……そろそろ計画を実行しようと思って」
「そういや、前にそんなことを言ってたな。あの野郎にゃあ、こっちも手を焼いているからな。内容によっちゃあ、協力を──」
「ああ、問題ないから手伝わなくて良いですよ。それよりも今は、安静にしてください。知っていますからね、オジキが前に倒れたって。子供たちを心配させないためにも、まずは言った通りの治療を受けてください」
うぐっと声を詰まらせる。
最初に病と呪いを治したのは俺なので、まだ完治していないことも分かっていた。
縛りプレイの最中だったし、当時は風と無属性の魔法だけでどうにかするべく四苦八苦したな。
今ならポーションで治療することもできるのだが……やろうとすれば、お礼に本当のボス扱いをされそうなので、止めている。
「治療ねぇ……こう、一杯やるんじゃダメなのか? 言うじゃねぇか、酒は百薬の長ってな。だからよぉ──」
「ダメですよ、オジキ。メルスがせっかく治してくれているんだから、我慢しよう。酒は完治した後、みんなで酌み交わそうぜ」
「……そりゃあお前さん、独占されたくないがための考えかい?」
「ははっ、なんのことやら。オジキは酒にだけは厳しいからな。あとでメルスにお代わり集っとこうだなんて、これっぽっちも思ってなんかないよ」
と言いつつも、『オジキ』から見えない場所でハンドサインを送っているので、俺もそれに答えるようにコクリと頷いておく。
「まあまあオジキ、どうせ今は呑めない話はしない方がいいって。それよりも、例のことについて話をしたい」
「…………最近、また表は揉めてるぞ。それでもやるのか? 吸血鬼はお前さんのやったことだと聞いてはいるが、それ以外にも表に出ずに揉み消されたことがいっぱいあるぞ」
「むしろ、よく隠蔽工作を振り切って成功したと思っている。俺たちみんな、失敗して助けを乞う方に賭けてたんだけどな」
「人の偽善を賭けに使わないほしいんですけど……とりあえず、いろいろと訊いたりしたいことがあるんです。まあ、テロとかをしたいわけじゃないんでご安心を」
やらかした時のために、それでも概要を伝えておく。
二人とも最後には笑っていたので、問題はないだろう。
……さて、計画を実行しないとな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる