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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と還魂 後篇
しおりを挟む変身魔法を解いた通常の肉体で、武器を振るっては迎撃を行う。
俺の周りには大量のアンデッドたちが待機しており、ジッと行動をつぶさに観察する。
一対一を何度も繰り返す戦闘訓練。
アイちゃんことアイドロプラズムに頼み、戦いを望んでいた者たちに協力してもらって成立した模擬戦である。
「ははっ、やっぱり多かったかな?」
「やるじゃねぇか! お前なら、俺の技を継承できるかもな!」
「ああ、全部呑み込んでやるよ。だから、その力を全部見せてくれ」
「やれるもんなら、やってみろよ!」
過去の英傑たちが振るった技術、そのすべてが{夢現流武具術}へ集束していく。
それこそが今回の目的、アイも承知の上で強化に力を貸してもらっている。
俺が戦っている英傑たちは、戦闘に関する未練がある者たちだ。
それを解決するのは、アイとしても好ましいんだとか。
「たまに来る侵入者を相手にするんだが、どいつもこいつも武技の動きに従順な奴らばかり。それが何十年も続くんだぞ、さすがに飽きが出るに決まってんだろう!」
「じゃあ、俺との剣戟はどうだ?」
「久っしぶりにまともにやり合える相手だ、だからこそ俺のすべてを使え! 振るえ! 奪え! まだまだこんなものじゃねぇぞ!」
彼は【剣聖】、ただし己の剣術を持たず相手から奪った我流の剣術だけで頂に達したという経歴を持っている。
そんな男だからこそ、逆に誰かに教えることがしたかった……とかなんとか予め聞いてはいたが、やはり見取り稽古は難しい。
「違う、そうじゃねぇ! もっと相手の力の流れを見極めろ! そしてそれを取り込んでいけ! やればやるほど、相手を喰らって強くなる! それが俺の剣技だ!!」
解析する気でやればできそうだが、今は己の才覚だけでやろうと縛りを設けている。
言われるがままに観察し、流動するエネルギーを自分の体で再現していく。
彼の凄い点は、規格が違う肉体で動かすエネルギーの流れを瞬時に自己流にアレンジして使っている点だ。
それを今、俺も手に入れる。
次第に挑戦は経験となり、(未知適応)が発動して行動そのものをスキルとして纏めた。
そして、(再編構築)によって最適な形に作り直され──新たなスキルが誕生する。
「こんな、感じかな?」
苛烈な勢いで振るわれた連撃を、同じように体内のエネルギーを巡らせることで再現していく。
まったく同じではなく、自分なりに改変しておく……ある意味、[不明]のスキルを持つ俺にはピッタリな技である。
「そう、やればできるじゃねぇか! それこそが俺の簒奪技の基礎にして奥義だ!」
「……いきなり奥義使わせようとするの、止めてくれないかな?」
「できたんだから構わねぇだろ! それよりもほら、さっさと仕上げるぞ! ……今のでだいぶ、満足しちまったからな」
やや薄れている体を見て、そろそろ終わってしまうのかと感じる。
だがそれでも、アイとの約束を果たさねばならない。
再び柄を強く握り締め、男との戦いを続けていくのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「お疲れ様でした、メルス君」
「いや、俺のためにもなった……ありがとうな、アイちゃ……アイさん」
「もう、アイちゃんでいいですのに。メルス君は恥ずかしがり屋さんですね」
「こ、これが普通だ」
待っていてくれた英傑たちすべてとの闘いが終わり、俺は地面に寝転がっていた。
そんな俺の下へ現れたアイは、黒い修道服が汚れるのも厭わずにそこへ腰を落とす。
彼女の視線は初め、俺に向いていた。
しかし次第に動いていき……俺の持つ本へ向けられる。
「それが例の……召喚の魔本ですか」
「これは『夢現の書』。そして、その断片である『英霊の書』だ。俺とて、大切な師を封じておくのは心苦しい。だから、納得してもらったうえでこうしておいた」
「記憶の保存、そして魂魄の情報を基に受肉する肉体の構築ですか……ただ封じるよりもとても複雑な術式ですね」
「満足していたからな。俺の都合で記録はさせてもらったが、輪廻の環に還ってもらいたいし……」
俗な説明であれば、俺は闘った英傑たちを座に登録したわけだ。
あとは魔本から選ぶだけで、いつでも英傑たちを呼ぶことができる。
「もちろん、アイさんの試練の中では使わない。技は使うだろうけど、彼らの力は家族と国民たちを守るために使わせてもらう」
「もしも、メルス君が彼らをその魔本に束縛していたのであれば、試練はより苛酷になっていたかもしれませんね」
「……正しい選択をして、良かったよ」
「ふふっ、そうですね。ですが、メルス君はそうではない道を選びました。見ただけで分かりますよ、その対価が……」
魔本があろうと、完璧に記憶を保存するのはとても困難だ。
ならばどうするか……バックアップを別の場所に置き、その時々に読み込めばいい。
そして、その保存先は──{夢現記憶}。
それを読み取るために、俺は何度も何度も人が生まれて死ぬまでの記憶を垣間見た。
「ですが、そんなメルス君であればやってのけるかもしれませんね」
「……何をだ?」
「今は秘密です。それよりも、試練を楽しみにしていてくださいね♪」
楽しみにできるような試練なのだろうか?
彼女の内心を知らず、俺はそこに不安を抱くのだった。
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