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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と還魂 前篇
しおりを挟むアニワス戦場跡 死者の都
メルの姿ではなく、メルスとして今回この場所を訪れることに。
それでも魔力の波長は変わらないので、前回上げた好感度によって受け入れられる。
今さらだが、<畏怖嫌厭>の効果は死者には通じづらいのかもしれない。
あんまり試したことはないが、今受けている歓迎からそんなことを思った。
「──気にしませんよ。我々にとって、大切なのは見た目ではありませんので」
「……そういうものなのか?」
「バカは死んでも直らないと言いますが、それは本当ですね。人族至上主義を掲げていた者も、自身が不死者となれば在り方を歪めるものです。何より……人型ではない姿となった者も、ここには居りますので」
「ふーん……そういうものか」
とまあ、全然気にならないらしい。
ちなみに大切なのは魂魄で、どういう輝きなのかなんだとか……そういえばネロも、出会った頃はそんなことを言っていたっけ?
「それで、本日はどのようなご用件で? やはり、『還魂』様に何か?」
「まあ、そういうことだ……用事があるなら引き返すが」
「大丈夫ですよ。『還魂』様から、すでに申し付けられております──『大切なお友達を優先したい』と」
「それは……なんだか照れるな」
この世界に来てからよく思うことだが、ストレートに想いを告げたり告げられたりすることはかなり恥ずかしい。
リア充という生き物は、よくもまあそういうことを呼吸をするようにやっているよと改めて感心している。
「我々もそう思っておりますよ──あのときに頂いた料理の数々、そこに籠められた想いは死人である我らであるからこそ理解できました。死者にも美味しさを伝えられているのです、きっと問題ないでしょう」
「問題……ない、んだよな?」
「はい──『還魂』様がお待ちです。どうぞ中へ、お進みください」
会話をしていると、そこはもう前回彼女と出会った教会の入り口だった。
少しだけ入るのを躊躇い……扉に手を掛けて、中へ進んでいく。
◆ □ ◆ □ ◆
「あら、そこにいるのは……」
聞き覚えのある声で、一度聞いたことのあるような台詞が述べられる。
その声の主は、祭壇の上で何かに祈るようにポーズを取っていた。
そして、黒い修道服とヴェールをふわりと舞わせ──こちらに振り向く。
「メルちゃんではありませんか!」
「ああ、久しぶりだな……あと、この姿のときはメルスで頼む」
「ええ、ええ、分かりましたわ。では、改めたまして──お久しぶりです、メルス」
修道服の裾を持ち上げ、ドレスのように使いお辞儀を行う『還元』のアイドロプラズムこと──アイ。
彼女もまた、俺が前回出会ったときとは異なる容姿であるというのに、そのことなど気にも留めず会話を行っている。
それもそのはず、アイはこの都の主にしてアンデッドたちを統べる者。
キングなんて個体ではない──そのはるか上位に存在する『超越種』であった。
「あら、この気配……もしや、誰かと出会いました?」
「ああ、そのことも含めて話がしたかった」
「まあ嬉しい! メルス……あっ、いえ、どうお呼びすればよいのでしょう? 先ほどはつい、呼び捨てにしてしまいましたが……」
「好きなように呼んでくれて構わないぞ。俺もその……この状態でちゃん付けってのは、少し控えておきたいし」
メルの時はそういう意識切り替えができるのだが、さすがに美人な女性の姿をしている彼女にこの状態でちゃん付けは厳しい。
だが、それを告げると……アイは頬を膨らませて抗議してくる。
「分かりました……では、私はメルス君とお呼びいたします。ですのでメルス君には、変わらずアイちゃんと呼んでいただきます」
「……えっ? そ、それは困──」
「でないと私……少々、力を出しますよ?」
冗談半分の台詞なのだろう。
だが、強大な力を持つ彼女が少しでも力の抑制を緩めてしまえばどうなるか……その結果、凄まじい瘴気が吹き荒れた。
「ちょ、ちょっと!」
(──“神域”)
神聖魔法を発動して、清浄な力を以って濃厚な瘴気を消し去っていく。
普通に発動する分だけでは足りず、膨大な魔力を必要とした。
「……あら? 申し訳ありません、メルス君が相手でしたのでどれほど緩めればよいのか分からなかったのです」
「なら、最初から緩めないでくれ。あと、君付けなのね……とりあえず今回は──こっちのままにした方が、揉めないみたいだね」
「メルちゃん!」
俺のプライドなんて有って無いようなものなので、サクッと変身魔法を用いてメルの姿になる。
この状態なら、(外見上は)合法的に彼女のことをちゃん付けすることが可能だ。
改めて、教会に設置されている椅子に座って話をする。
「まずはあの話からかな? 私は『宙艦』と出会ったよ」
「知らない気配でしたが、『宙艦』のものでしたか……宙の世界に死者は存在できませんので、私がそこへ向かうことはできないので会えなかったんですよね」
「で、試練を受けた。前にアイちゃんが言っていたのはそのことかな?」
「はい。試練とは『超越種』が行う、使命のようなもの。生きとし……いえ、存在するすべての存在に与えられた、成すべきこととも言えましょうか。それを一つ、達成なされたのですね──おめでとうございます!」
褒められてしまった……が、話さなければならないことがまだまだある。
前回は何か、言えないような制約があったみたいだが……今回は訊けるだろうか?
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