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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とお菓子の会食 後篇
しおりを挟む「……今日って、みんな居ないんだね。いつの間にかこんな時間だ」
「時間帯の問題よ。こっちの世界の今日は、たしかに誰も来れそうにないみたいね」
話しているだけで時間は経過し、気づけば夕暮れ時となっていた。
お菓子だけでは飽きると思ったが……奪ったクラーレ秘蔵のお菓子が上出来だったからか、思いのほか長時間話せたようだ。
「でも、そうだよね。私みたいにずっとログインできる方がおかしいわけだし」
「……メル、大丈夫なんですか? その、あまり深いことは訊きませんけど」
「ううん、そんなに重い話でもないから気にしないで。別にニュースになっているわけでもないでしょ? だからほら、大丈夫だよ」
「ニュース……AFOのやり過ぎで、家の中に居る人が増えたってニュースなら、いつもやっていますよ」
わざわざ外に出ずとも、壮大な冒険に出ることができるわけだしな。
そりゃあ批判したい奴らからすれば、格好のネタとも言えるか。
けど、俺が気にしているのはそういう感じのニュースじゃない。
むしろ、それこそがいいネタ──ログインから帰ってこない人間の話はないようだ。
なので話題を切り替える。
……これ以上話していると、ボロを出してしまうそうだし。
「そういえば、さっき聞きそびれた話があったんだよ。ますたーたち、たしか装備と見た目を別にできるって言ってたよね? それ、どういうことなの?」
「だいぶ前に行われたアップデートで、そういうことができるというウワサが流れていたのです。そして最近、その方法が[掲示板]に上がったんですよ」
「服飾魔法って、魔法を使うとできるようになるらしいのよ。他の生産職でも、似たようなことができる魔法があるらしくてその捜索が行われているわね」
「ふーん、それは初めて聞いたよ」
眷属や国民から提供された共有できるスキルリストを脳内で展開してみるが……その中に、生産職の名を冠する魔法は無かった。
何か特殊な条件があるからこそ、祈念者でもまだ習得者が少ないのだろう。
ほぼすべてのスキルへ適正を持つ祈念者が取れていないのだ、それしかない。
「それで思ったんだけど、普通の職人さんたちってどういう風に生産しているのかな? 私は最初以外ずっと生産神の加護があったから、自分の作りたい物をほぼ完璧に作れていたから分からないんだよ」
「さあ、そこは戦闘職と支援職の私たちの管轄外じゃない。自分のお弟子さんたちに訊いてみたらどう? ……とは言っても、あの娘たちもすっかりメルスに染まっちゃっているから、参考にならなさそうだけど」
「そうかなー? まあ、それならそれで、他の人に聞き込みをするからいいんだけどさ」
「……メルって、知人が居るんですか!?」
知人でなくともいいと思うが……クラーレにとって、そういうことをする間柄に一種の憧れでもあるのかもしれない。
チラリともう一人の参加者の方を確認すると、そちらも少々慈しむような視線を彼女に向けながら頷いていたし。
「ますたー……」
「な、なんですかその目は……」
「ううん、なんでもないよ。今度、私のお友達でも紹介するね。ますたーは友達の友達が嫌かもしれないけど……うん、間違いなく仲良くなれるから」
「そ、そこまで言うなら……ぜひとも、会わせてもらいます」
クラーレは冷静を装っているが、放つ空気がそわそわとしているため隠せていない。
俺とシガンはその姿にホッコリと和み……改めて話を戻す。
「服について、少し訊きたいんだけど……二人はその衣装、気に入っている? まだ私の作ったヤツの方が性能が良いみたいだし、戦闘に使ってもらえているみたいだけど」
現在の『月の乙女』の戦闘服、そして生産班の作業着は俺が用意した物だ。
素材に神鉄……のワンランク下の鉱石、真銀などを使っているので性能は高い。
鉱石を糸にして服を編む技術、なんだか物凄く上達したんだよな……この世界だと。
現実の俺は不器用という概念の擬人化ぐらいの下手っぷりなので、期待はできない。
ちなみにシガンは青色の魔法少女の服、クラーレはとあるシスターの修道服っぽいのが戦闘服だ……少々魔改造は施してあるけど。
「最初は違和感もあったけど、今では全然気にならないわね。外に行く分には、やっぱり普通の服がいいけれど」
「わ、わたしは……これでも全然、問題ありませんよ」
「コスプレって思われないように、私なりにアレンジはしてあるからね。そんじょそこらの見た目重視の格好とは違うんだよ!」
まあ、その見た目重視の格好を戦闘時も着込めるようになるのが、服飾魔法とやらの効果なのだろう。
こっちの世界の人も使うのだろうか……思い当たるのは、見られると(誰かが)困る恰好を見られないようにするためかな?
一部性能が高すぎる装備って、なぜだか扇情的だったり局部しか隠されていなかったりするらしいし……ちゃんと理由があるからこそ、どうにも文句が付けられないんだとか。
「ならますたー、今度いっしょにお出かけでもしようよ。たまにはそういうことをしてみるのも、お互いのためかもね?」
「……えっ? メ、メメメメル!?」
「そんなにメは多くないんだけど……もしかして、ますたーは私といっしょに居るのは嫌なのかな?」
「そ、そんなことはありません……けど」
顔を俯け、表情を隠すクラーレ。
シガンがこちらを見て、何かを促してくるので……さらに近づき──
「ますたー、デートしよ?」
「…………はい」
そんな約束をしたわけだ。
ちなみにシガンはこのとき、俺に向けて握り拳で親指を立ててました。
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