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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とお菓子の会食 中篇
しおりを挟む「いいなー、ますたーたちは職に就けて。私は無職だから、余った職業の枠も全部空っぽなのに……昔はどれにしよう、あれは嫌だとか言えたのに」
「ちなみに、メルはどれくらい職業に就いていたんですか?」
「枠の数だけだったら十個を超えていたし、カンストした職業のスキルを引き継げるスキルが有ったから実際はもっとだよ」
「……そういう職業があるのは知っていたけど、成長率がとんでもなく低いから割に合わないってハズレ扱いよ」
話題は職業に関する事柄になっていた。
出会った頃は中級職(最大レベル50or60)に就いていた彼女たちも、今では立派に上級職(最大レベル80or90)だ。
さすがに超級職(最大レベル99)はまだ条件を満たせていないようだが、それでもいずれは辿り着くことだろう。
ちなみに職業のシステムにおいて、職業のレベルの合計値に限界などは存在しない……ただ就けば就くほど、成長率に凄まじい逆補正が掛かるだけなんだとか。
そのため、レベルをリセットする手段は存在する……そうなると、就いた職業をカンストさせたときに貰えるボーナスは剥奪だが。
「あはは、そんな評価だったんだ。他の人に職業のことってあんまり教えたことが無かったからね。そのときはまだ、そんなに知られていなかったみたいだし」
「メルスがどういった職業に就いたかは知らないけど、そんな破格の能力がある分、何かしら他の部分に影響が出ていると思うのよ。たとえば、補正値がいっさい無かったとか」
「んー、そういえばそうだったかな? あの頃は固有職だからと思っていたけど、その後【英雄】に就いたらちゃんと補正値が入っていたし……そういうことだったんだ」
「メルが……え、【英雄】ですか!?」
クラーレがひどく戸惑っている。
そんなに俺という人間に、選ばれし存在に与えられる名称は似合わないのだろうか?
……うん、自分でもピッタリだぜとかは全然思っていないんだけどさ。
「自重はした方だよ。【勇者】とか【魔王】とかも候補だったけど、その頃はイメージに合わないって止めたんだから」
「「【勇者】と【魔王】……ぶふっ」」
「ねえ、ケンカを売っているなら買うよ。お代はお菓子でいいよね?」
「メルとて、一度出したお皿を下げようとするならば容赦しませんよ!」
「仕方ないわね……クラーレのため、私も手伝ってあげるわ」
欲を隠さないクラーレと隠すシガン。
どちらも笑ったのだから同罪だ……少々大人げないが、空間魔法で回収を行う。
「──“空間取寄”」
「か、干渉できない!?」
「……まあ、メルスだしそうなるわね」
「ますたーは魔力を使って、逆に干渉できないようにしようね。シガンはもう少し頑張ってみようよ。私は空間魔法なんだから、時空魔法で対抗するとか……いっぱいできたよ」
魔力の扱いは、イメージ次第でほぼなんでもできると言っても過言ではない。
本来は行使できない難易度の魔法でも、その気になれば自力で使えるわけだし。
シガンは時魔法と空間魔法の両方を出会った頃から持っていたし、時空魔法をすでに獲得していた。
術式としての魔法は無理でも、擬似的にそれと似たものを生むことはできるだろう。
……術式はひどく面倒臭いので、眷属任せなのが俺の実情なんだけどな。
「メルスの魔法を防ぐなんてそんな魔法、私持っていないわよ。と言っても、今から用意できるわけでもないでしょう?」
「今のますたーたち、というかプレイヤーなら用意できそうだけどねー。むしろ、二人は新しく用意したりとかしないの?」
「わたしはしていますよ。レベル上昇で得らえる魔法だけでは、支援にも幅が出ませんので。シガンは……」
「私も同じよ。けど、創るのはできないわ。餅は餅屋、魔法は魔法屋に任せるわよ」
魔法屋とは、スキル結晶を売ったりしているスキル屋同様に魔法を売る店だ。
……正確には、魔法を術式として刻んだスクロールを売っているわけだが。
魔法を習得する手段は大きく分けて三つ。
レベルアップ、伝授される、開発するのどれかである。
その中でも魔法屋による魔法習得は、伝授と開発の両方に属する特殊な方法──いわゆる金で力を得る、というやり方だ。
「ねぇ、まさかとは思うけど……それもできるなんて言わないわよね?」
「それもって、何が?」
「……分かってて言わせないで。魔法の自己開発のことよ」
「もちろんできるよ。だから、こういうこともできるんだよね──“空間排出”」
どこからともなく、飛びだすアイテム。
それは、これまでに俺が作っていたお菓子であり……こっそりと、クラーレが着服していた秘蔵の品でもあった。
「メ、メル……いったいどうやって?」
「空間に干渉できるのが空間魔法なんだし、他の人の空間に干渉できない道理なんてないでしょ? で、それを試した結果がこれ。回収した分は、これで補うよ」
「そ、そんな……」
ちなみに、干渉して取りだすことはできるが中身を選ぶことは難しい。
それはまた別の魔法やスキルを必要とするので、無ければランダム抽出である。
……[アイテムボックス]や魔道具にも通用するので、犯罪者であればぜひとも欲しがる魔法版の窃盗術であった。
「それじゃあ、続きを話そうよ。もっともっと、ますたーたちと話したいからね」
「ええ……クラーレ、私たちにも内緒で隠していた貴女が悪いわよ」
「うっ……分かりました」
改めて、席に着くクラーレ。
その顔がとても悲しそうで、ひどく罪悪感に苛まれる。
あとで追加のお菓子を用意しようかな? 奪った理由を忘れて、そんなことを思う俺であった。
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