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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とお菓子の会食 前篇

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 天の箱庭


「ますたーたちって、何をしているの?」

「……何って、急にいきなりですね。むしろわたしたちの方が、メル……いえ、メルスが何をしているのか気になりますよ」


 ずいぶんと会えなかったんですから、と小さく呟いたのは気にしないでおくとしてだ。
 久しぶりに妖女が訪れた『月の乙女』のギルド内にて、そんなことを尋ねていた。


「私のことはいいんだよ。それより、私が知りたいのはますたーのこと」

「……わたしだって」

「ううん、私の方がますたーのことよく知りたいんだもん」

「いいえ、わたしの方が……」


 私、わたしと譲らない。
 傍から観たら、いったい俺たちはどう映るのだろうか?


「──惚気話はもういいかしら?」

「し、シガン!? のの、惚気話なんてしてませんよ!」


 このギルドの主であるシガンが、俺たちの会話に入ってきた。
 どうやら惚気る関係に、傍からだと思われてしまっていたようだ。


「はいはい、分かっているわよ。で、メルスは何が知りたいの?」

「普段の活動かな? 私が居る時って、何かやることがあったからこそ呼んでいたわけだし……そうじゃないときは何をしているのか知りたいんだ」

「ふーん、それはどうして知りたいの?」

「ますたーたちのことをもっと知りたい、それじゃダメかな?」


 クラーレがうっ、と唸っているが……本当にどうしたんだろうか?
 シガンはそういったおかしな挙動をしていないので、できるだけ彼女と会話を行おう。


「いいわ、けどそのまま口頭で言えばいいのかしら? それとも実際についてきて、何をしているか見る?」

「……聴くだけでいいかな。いちおう先に確認しておくけど、もしいっしょに行くっていうことになったら冒険者ギルドに行っていたのかな?」

「そうね。私たちは冒険者なんだから、それは必然だと思うわ」

「そうなるといっつも、ますたーが同じような依頼を見せてくるんだ。だから、今回は行かないことにしておくよ」


 妖女フォルムは眷属の容姿を参考にしているので、決して美醜で酷い評価を受けることはないと思う。

 だが、それでも俺の中身は男。
 幼女としての姿を求められるのは……眷属以外だと、あんまりな。


「それに、今日はますたーとシガン以外は居ないみたいだし……できる依頼にも普段との差が生じるでしょ? やるにしても、今回は止めておこうよ」

「はいはい、分かったわよ。じゃあ、ここで話をしましょうか」

「わーい、ありがとう!」


 謝礼に関しては心得ている。
 彼女たちが好むお菓子の傾向も、かなり共に居るので分かってきていた。

 二人にはそれぞれそれを用意し、ギルドハウスの機能として搭載されているアイテムの共有庫に他のメンバーたちが好む品を入れておけば完璧だ。

 ……ついでに弟子たちの作ったアイテムも確かめて、ちょっと厳しいが評価を記した紙も突っ込んでおく。


「じゃあ、いろいろと教えて!」

「……我が物顔で使ってますね、物凄く手慣れていますよ」

「仮登録したのは、不味かったかしら?」


 ギルドハウスの機能は、ギルドメンバーだけでなく権限を与えられたメンバーに認証された者でも使えるようになる。

 本来はお抱えの職人、商人とかが用意した品を押し込んでおくための機能だ。
 中の時間は停まっているので、空きさえあればどれだけ入れても困らないぞ。


 閑話休題べんりなおうち


 お菓子とジュースを並べて、話を聞く。
 甘い物ばかり出しても、この世界でならすぐにエネルギーを消化することができる。

 必然的に、この世界で食べることが増えるらしい……なんてどうでもいいことを思いつつも、彼女たちに質問を行う。


「──普通の冒険者の気持ちが分からないから、どうしてそういうことをするのか私にはさっぱりだよ」

「……シガン、この場合はどういう反応をすればいいんでしょうか? 普通の冒険者らしく、特級会員に嫉みをぶつければ?」

「いいんじゃない? さすがに私も庇いきれないわよ」

「だって……ほら、私は偽装し放題だし。お金も無限に持っているからね。正直、金銭感覚が狂っちゃって困るんだよ」


 彼女たちが冒険者ギルドで日々行うのは、レベリングとお金稼ぎ、素材回収だそうだ。

 レベルが上がれば強くなり、お金が増えれば欲しい物が買える、素材を集めれば生産班が強いアイテムを作ってくれる……ちゃんと循環しているらしい。

 俺の場合……無から有を生みだせてしまうため、経済システムに干渉することなくあらゆる物が用意できてしまう。

 そういう部分は、ある意味神よりも優れてしまっている。
 権力を持ったモブは、今さら過去の生活には戻れないんだよなぁ……。


「これは……ギルドカード、ですよね?」

「けど、この名義……」

「偽装だしね。存在しない、だけど現存するギルドだからこそできる裏技だよ。けど、ますたーたちと違って、失うものが無いからこそやっているんだよ。本当はやっちゃダメだからね」

「やりたくてもできないわよ。プレイヤーの中で、闇系のギルドに属さないで偽装カードの入手はほぼ不可能って言われているのを知らないのね」


 ああ、ちゃんと手段は有ったみたいだ。
 それをしてでも欲しがるかどうか、そういう倫理的な部分だけが問題なわけだな。


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感想 13

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