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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とかぐや姫 その20
しおりを挟む今さら眷属たちに守ってもらっている姫様に助力を得るわけにもいかないので、限界を超えるべく戦いを再開する。
「くっ……」
「どォしたァ! その程度かァ!?」
「……違うに、決まっているでしょ!」
「はァああああああ!」
自分で言うのもアレだが、これまでは質と量を比べて俺の方が質で優れていたから戦えていた。
しかし数で勝っていた月の民が、質を強制的に向上させたことでその差は覆る。
一対一で苦戦し始めた時点で、もうかなりピンチな状態だろう。
「魔力と気力、同時に使わないと効きづらくなっている……“超気功・爆雷”」
纏った神気ごと爆発させ、目の前の使者を強引に吹き飛ばす。
空いた隙間を埋めるように他の月の民が現れる……が、パンッと両手を重ねる。
「──“超功錬丹”、“爆雷”!」
体内で魔力と気力を織り交ぜていく。
武技の効果でその速度が高まっていくのを感じながら、そのまま“爆雷”をいくつか辺りにセットして起動させる。
「気功込みで──“天翔覇閃”!」
飛べば飛ぶほど強化される斬撃は、月から現れた民には絶大なダメージをもたらす。
神の力が加わり防御力が高まっているが、超気功を混ぜることで一時的に無効化中だ。
「まだ、やるのか……って、へっ?」
『ぐゥ、うァああああああ!』
「き、気持ち悪ッ──“幻惑乃霧”!」
何が起きているのか、目の前の光景を正直語りたくはない。
だがあえて例えるなら……人間を粘土にして捏ね繰り回している、だろうか。
その光景を見せるのはSAN値チェックをさせるのと同意なので、下からは見えないように霧で誤魔化しておく。
「最終的に出来上がったのは、人型の肉塊なわけだけど……喋れるのかな、これ」
『────ッ!』
「……無理そうだな」
リアのときに現れた魔女とは違い、完全に対話不可能な存在と化してしまった。
そもそも喉の構造が完璧なのか、精神も平常なのかそういう部分も疑問だ。
なぜそうなったのか、過去視の使えない俺にはさっぱりである。
ただまあ、勘ではあるが一つだけ……おそらくこれ、クソ女神も予想外だろうな。
「俺もよく眷属に抜けているって言われてるから分かるけど、こういう面倒臭い仕掛けをやると何かしらミスをしますね。TS勇者然り、ドM銀龍然り」
『────ッ!』
「ああ、はいはい分かっています。縛りのまま、お相手しますよ──“継続恢復”」
軽傷を負っていたので、それを治すのに最適な魔法を施しておく。
神気を相手に対等な戦いは見込めないのだが、それでも足掻くだけ足掻いてみる。
「これを使うか……“神殺槍”」
禁忌魔法に存在した、地球でも有名な宗教の神を刺したとされる槍の名を持つ魔法だ。
つまりは神に干渉できる槍……無効化を無効化できる効果を持つとされている。
禁忌な理由は魔力消費が膨大なこと、そして神に干渉できるという概念そのものをかつての何者かが恐れたからだろう。
──宗教って、そういうところでいろいろと揉めるらしいし。
「っと、時間が無いんだった。聞こえているなら言っておきますよ──もう未来は定まったんです、邪魔しないでください」
神気の量に変化は感じられないので、それ以上は何も言わないで戦闘を始める。
体といっしょに宝具も混ざったためか、動くたびに体のどこかで宝具が発動していく。
「それぐらいなら──“飛沫転火”」
止まっていた花火を再起動させ、火の粉を用いて転移を行っていく。
だが、月の民の肉塊──集合体も異様に高まった感覚器官で俺の居場所を見つけだす。
俺は“時空泡沫”、二つの“空間把握”の力で瞬時に状況を把握して回避していく。
「今だ──“天通牟槍”、“多連突”!」
少しずつ、速度を上げていった。
宝具からさまざまな現象が発生するが、それらの軌道だけを読み取って次の火の粉へ移動、それをただ続けていく。
そして、目的の速度に達したその瞬間──花火を月に届くほど高く打ち上げ、その火の粉から転移を行った。
思いっきり高い場所に花火を上げるのも、上から不意を突くのも初めてやったのだ。
すぐさまそれに気づいた集合体も、ほんの一瞬だけ反応に遅れる。
だが、そのほんの一瞬で充分。
回避しながら計算した速度と共に発動した武技は、集合体の対応速度を上回り──その肉体を何度も何度も神殺しの槍で突く。
『──が、あァ……お、のれ、ちじョうのものがぢョうじにのるなァ!』
「みんな統一した思いだから、変わらなかったのか……凄いですね、その執念。ただ、貴方たちの目的は姫様のお迎え。私たちの抹殺ではありませんよ?」
『お゛のれェエエエエエ!』
「逃げられても困りますし、こんなことをしたのが私……というか地上の者と言われてしまうのも厄介です。申し訳ありませんが、終わらせてもらいます──“閃光投槍”!」
柄を持ち、構えを取る。
武技のエフェクトである光の粒子が、神殺しの槍全体に行き渡ったとき……足場を空歩で形成し、いきおいよく空へぶん投げた。
「せめてもの弔いです……月から来た人は、月で眠ってください」
本当に届くかどうか分からないが……きっと届くだろう。
もし届かなくてもたぶん、送り届けてくれるクジラさんが居るわけだしな。
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