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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とかぐや姫 その19
しおりを挟む「──“飛沫転火”」
オリジナル転移魔法は非常に便利で、花火が咲く所ならばどこへでも移動できる。
移動の際に火が燃え盛るのが問題だが、花火に紛れ込めば問題なく使用可能だ。
「“軽気功”、“貫魔功”、“重気功”」
『あがっ、ぐぁあああ!』
「……凄い数だな、これ。というか、なんか増えてないか?」
風魔法も切れそうだったので、気功で体を軽くした状態で他の者を重くして落とす。
本来は一人にしか使えないが、先に気功が貫通できるようにしたので複数が墜落する。
戦闘を始めて十分ほどが経過するが、未だに月の民たちの数が底を尽きない。
まさかの大軍だったパターンとは……絵本や古文では、知り得なかった事実だな。
「ええい、相手はたった独り! しかも地上の者ではないか! お前たち、さっさとあいつを殺ってしま──」
「これが大将か? ──“踵落とし”」
「────様ッ!」
「えっ、なんだって? ──“連鎖爆発”」
無数に爆発を起こし、突発的難聴を引き起こしていく……うん、結局無双ゲーになりそうだから遊び始めました。
なぜなら彼ら、まだ能動的に使う必要のある宝具を一つも使っていないのだ。
たぶんだが、『ええい、許可はまだか!』とか言っていたので使えないのだろう。
なので待ってみることに。
偽善者たるもの、やりたい放題だからこそ相手にもチャンスを与えるものなんです。
「──許可が下りたぞ! 全員、『天衣』を使い己が武器で奴を屠れ!」
『了解!』
ようやく使えるようになったようで、彼らは纏っていた羽衣にエネルギーを籠めてその真価を発揮させていく。
もともと空を飛ぶ機能はあったのだろう。
起動したことでその羽衣は、さまざまな耐性を使用者に与えていくようだ。
「となると、『術』も武技も効きづらくなるわけか……関係ないけど──“颶風乃刃”」
抵抗されるのであれば、それ以上の力を使い吹き飛ばせばいい。
ガキ大将みたいな暴論を用いて、迫り来る月の民たちを払い除ける。
「あとは──“空間把握”、“空間把握”」
魔法とスキル、その両方を用いて一定領域内の知覚能力を高めておく。
不意打ち系の宝具もあるかもしれないし、何より内部での解析能力を高められる。
「そして……“時空泡沫”、“演算処理”」
「なんだこの泡は……」
「ただの眼ですよ。もしかして、泡が怖くて近づけないんですか? ごめんなさい、そんなに臆病な方々とは知らずに……」
「ええい、殺ってしまえぇえええ!」
魔具のように内包させたエネルギーを爆発させる勢いで高め、宝具を振るい俺を殺そうとしてくる……物語だと制圧なのに、どうしてこうも展開が変わったんだか。
そんなことを悔やみつつも、知覚した攻撃すべてを回避していく。
あとお土産が欲しいので、ついでに手袋の形にした『模宝玉』で宝具に触れていった。
今の俺は<千思万考>や<八感知覚>を用いた時並みに、相手の攻撃を捌き切れている。
それだけの魔法とスキルを使っているのだから、当然と言えば当然なんだが。
「まさか未来眼なしで、ここまでイケるとはな……やっぱり、縛りプレイには無限の可能性が秘められている」
「死ねぇええ──“半月斬”!」
「断る──“創儡”、行け!」
半月状に描かれた武技による斬撃。
相手を転ばせる効果もあるらしいが、今はその速度の方がやっかいだ。
死角から放たれた一撃だが、“時空泡沫”によって捉えていたことで躱せた。
そして、武技の発動によって硬直した男を狙い……俺も武技を使用する。
久しぶりに使った傀儡術の基本武技。
その効果は──糸を繋いだ相手を操ることができるというもの。
同じく操ることができる人形術の基本武技“作形”よりも、その強制力は高い。
目が虚ろになったその月の民は、脳の制限が外された状態で暴れ回る。
「どんどんやっていきますから、止められるものなら止めてみてくださいよ……大切なお仲間を傷つけられるなら、ですけど」
「くっ、多少粗くとも構わん! 奴の思い通りにさせるな!」
「……まあ、別にそれでも構わないですよ。遠隔起動──“集力暴発”」
『ぐわぁあああ!』
糸で繋がっているため、魔力の循環を強制的に弄ることで魔法を発動させていく。
月の民もまた、魔力を扱える……それ以外のエネルギーも持っているわけだが。
それこそが宝具を運用するための力。
今回使っている“集力暴発”はエネルギーすべてを物理的な力に変換しているので、問題なく自爆させられる。
「……なんだろう、下のほうでいろいろと暴露されている気がする。あんまり二人に言わないでもらいたいんだがな」
結界魔法を使っているので、月の民たちは俺を戦闘不能にしないと突破できない。
なので穏やかな時間が、結界を隔てるようにして過ぎているのだが……。
「なんだろうな……やっぱり、違和感がある気がする。もしかしたら、まだ──ッ!?」
肌がチリつく感覚が、突如月の民の方から感じられた。
バッと彼らの方を見ると、そこには感じていた違和感の正体があった。
「……神気、だと?」
神々しいエネルギー、それを残っていた月の民すべてが体に纏っていたのだ。
そしてそれはとても覚えがあり、すぐに誰のものか分かるものだった。
「手を加えに来たな。ここまで無双されたなら、さすがにそうもなるか」
よくよく考えたら、シャルやリラのときはちゃんと主人公たちと協力している。
一方、この状況に近いリアの説得時は、戦闘そのものは単独でやっていた。
「それが引き金だったわけか……本当、似ている思考が腹立つわ」
──あっちはどこからともなく来た奴が、すべてを解決するのが気に食わないのだ。
やはり救うというスタンスは同じでも、相容れない相手なんだよな。
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