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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とかぐや姫 その16
しおりを挟む帝様はその身分だけでなく、職業としても【帝】に就いていました。
統べる者たちは【王】や【帝】を冠する職業に就くことが多いですが、彼は違います。
彼は生まれながらにして、職業に就いていた選ばれし者──【総帝】でした。
帝様の統べる地域において、『帝』という呼称以外にも『天皇』という呼び方がございます。
そして『天皇』には、さまざまな呼ばれ方がございました──『現人神』、『皇帝』、『唯一神』、『絶対独尊』……『総帝』。
統べる帝、その名を生まれながらにして得た帝様に、これまで手に入らなかったものなど一つもございませんでした。
ですが帝様は少女に出会い、それができないという話を言われ……逆に興味が湧き、どうしても手に入れようとします。
身分による権限を振るい集めた兵士たち、その彼らに職業による能力を振るうことで高めた戦闘力。
これまではそれだけで、彼女の下した難題も達成していました。
しかし、そうはいかない苦難に襲われたそのとき……彼はもう一つの力を振るいます。
◆ □ ◆ □ ◆
帝は兵たちを引かせると、その一人から回収した剣を構える。
俺は相変わらず剣を鞘から抜かず、拳をただ向けるだけ。
「──どうした、剣を抜かぬのか」
「これは見せかけの力でして。実際には、こちらで戦っておりますので」
「……なら、使わせてみせよう」
すると、膨大な魔力を膨れ上がらせる帝。
その量は凄まじく、人ひとりが持っているとは思いがたいエネルギーの爆発だった。
だが、それは彼が生みだしたもの……というわけではないようだ。
強化した瞳が映しだすのは、兵士たちから帝へ繋がる魔力の糸だった。
「ほぉ、分かるか。私は配下の力を我が力として用いることができる。唯一の帝として、相応しい能力であろう?」
「そうですね……早く終わらせましょう、決着を付けたいですし」
「……いいだろう、その不遜を叩き直してやる。いつまでもそのような余裕を保てると思わないことだ!」
魔力を精密な操作能力で体に巡らせると、一気にこちらへ詰め寄り剣を振ってくる。
どうやらお飾りのトップというわけではなく、しっかりと戦闘技術を持つらしい。
……けどそれ以上に、動きが洗練されすぎているんだよな。
そう思って鑑定してみると、その理由はすぐに判明した。
今も魔力の糸を通じて、凄まじい勢いでスキルレベルが上昇していたのだ。
「よく、それを制御できていますね」
「……よく、それを捌けているものだ。常人ではそのズレに隙を生むはずだぞ」
「調整は私の得意分野ですので、ね!」
兵士たちのスキルを、一時的に奪うことができる能力でもあるのだろう。
だが結局それを使うのは帝なので、最大レベルを超えることはない。
ならば、最高の剣の師匠に習っている俺が負けることはないのだ。
鍔迫り合いに陥ったところで、こちらも身体強化を行って──後ろへ突き飛ばす。
「くっ……ならば、“天躯”!」
「光……じゃなくて、天の強化術か。なら、こっちは──“光速転下”」
互いに速度を高める魔技(魔法や『術』)によって、敏捷力を高める。
俺も帝も反射能力や動体視力が凄いことになっているので、それでも普通に動けた。
なので傍から見ても、俺たちの動きは捉えることは難しいだろう。
それを確実に視ているのは……妙に楽しそうな『輝夜』姫ぐらいか。
「どうした、なぜ武技を使わない!」
「……要らない、からかな?」
「ええい、言ってくれたな!」
「どうぞご自由に。私は使いませんが、ぜひとも使ってほしいので……対等に、などと申して使わない方が私は嫌ですので」
本当はそう言いたかったのかもしれない。
だがギー経由で使えるようになりたかったので、付け加えて注意しておいた。
するとそこまで言われては立場がなくなる帝、ゆえに以降は武技を織り交ぜた剣術を披露していく。
「……認めようではないか。ノゾムと言ったな、貴殿には力がある。私直属の部下になってはみないか」
「嫌ですよ。私には、やるべきことがまだまだたくさんありますので」
「そうか……私の申し出が断られるのは、これで二回目だな」
「それは凄いですね」
純粋に凄いなーと思いながら、武技も混ぜられた攻撃を捌いていく。
だがまあ、そろそろ終わりだ……少しずつ魔力の糸が薄れており、兵士も疲れている。
供給されるエネルギーには限界があり、今この場に居る分だけでは足りないのだろう。
本当なら数万を超える軍勢の力すら借り受けられる力なので、制限があるわけだ。
「では、終わりということで──“幻光”」
「その程度……ッ!?」
「──はい、これで終わりです」
幻を生みだすだけの魔法だが、今の俺は先に“光速転下”を使用している。
これは光の粒子を纏うことで、加速することができる魔法。
つまり辺りの光量が増せば……その分、速度も上がるわけだ。
幻を作るのが目的と見せ、さらに上がった速度で拳を目の前に突きだした。
これだけで結果が分かったのだろう、帝はスッと両手を上に掲げる。
「分かった、私の負けだ……しかし、これでもなお、届かないとは。いっそのこと、清々しく感じてしまう」
「よく言われていましたよ、お前は化け物かよと。失礼ですよね、私は見るからに普通だというのに」
「その者とはきっと、私は友となることができるだろう」
なぜそういう考えに至るかは謎だが、とりあえず遺恨を残してはいないようだ。
これにて第一の問題は解決──難題達成ならずということで、帝も落選である。
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