上 下
1,403 / 2,519
偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その15

しおりを挟む


 帝様は少女を逃がしませんでした。
 その結果、彼はその姿を拝みます。

 人とは思えない、神の造形が加えられたその美しさに男の心は奪われました。
 故に彼女を欲し、そのすべてを我が物にしようとします。

 しかし、彼女はそれを拒みました。
 たとえどんな思いを持とうと、連れ帰ることは難しいと。

 それでも帝様は諦めません。
 どんなことをしてでも連れ帰る、そう言って屋敷に兵を常駐させます。

 彼は少女が告げた期日まで、彼女を守り抜くことで自分たちを阻む障害を乗り越えようとしたのです。

 期日とは、少女が月へと誘われる日。
 地上における記憶の一切合切を失い、その罪の禊が行われるのです。

 罪を洗い流した証拠である五つの宝具は、すでに少女の手の中にありました。
 満月の夜、彼女の下に使いが現れ月へ向かう……そう帝に告げたのです。

 決して、恋や愛に準じて伝えたわけではありませんでした。
 今の彼女は『かぐや』ではなく『輝夜』、月の民としての矜持を果たそうとします。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 とまあ、俺チョイスによる課題が始まる。
 舞台は離れと本殿の間にある広いスペースで、数十人の男たちが相対している──一方には、独りしかいないんだけどな。


「帝様は、ただ指示するだけで構いません。彼らと共に俺を参らせてください……それこそ、殺してでも」

「殊勝な覚悟だ。だが安心しろ、部下はそれほど余裕がないわけではない。私の力もあるのだ、片は一瞬で付く」

「いやいや、そうはいきませんよ。だって私こそが、五つの宝具を集めた者ですから」

「……なんだと?」


 帝たちは先にここを訪れ、その間に兵士を使って迷宮を踏破させようとしたらしい。
 だがまあ、たとえ入ったとしてもそこにはもう、何も眠っていないわけなんだが。

 なので彼はまだ、そのことを知らなかったのだ……彼女の難題、そのすべてがすでに果たされていたことを。


「試してみますか?」

「……いいだろう、お前たち──やれ」

『ハッ!』


 数十人、というのは十人とちょっとというわけではない。
 帝が連れてきた軍勢の中から、精鋭を選んだその数──三十。

 それぞれがこの時代において、猛者と呼ばれる域に達している者たち。
 そこに【帝】の能力である強化が施され、さらに力は極まっている。



 ──が、関係ないんだよな。

 レベルというシステムで強くなっている彼ら、種族・職業・スキルの三つのレベルがバランスよく成長している。

 一方の俺は種族レベルは制限し、職業レベルは奪われた。
 だが、スキルだけは異様に高い。


「スキルとは技術の証明、たとえそれが無くとも同じことをすることができる……けど、レベルが高くなればなるほど、たしかにその性能はよくなっていく。こんな風に、強者を複数相手取れるように」

「バ、バカな……たった独りだぞ」

「そう、独りですよ。その分、時間を費やせています。ですから、このように」

「対魔獣用戦術も通用しないのか」


 いくつもの魔法が放たれ、回避する先に無数の刃が置かれていた。
 だがすべてを防ぎきると、彼らはとても嫌な物を見る目でこちらを見てくる。

 もともとそうだったのだが、よりいっそう高まったとも言えるが。
 使っているのは一般スキルのみ、だがそれでも戦えている。

 地を駆け、空を翔け、空間そのものを自在に渡り歩いていく。
 冴え渡る感覚が行くべき道筋を示し、それに従うだけですべてが思う通りになった。


「お前たち、いったい何をやっている!」

「で、ですが……」

「相手は武器を構えてもいない・・・・・・・のだぞ! なぜ、このように一方的な戦いとなる!」


 最近はこんなことばっかりしている気もするが、俺は腰に提げた偽装用の刀を使わずにただ避けているだけ。

 無手で戦うことも当然できるが、今回は倒すことが目的ではなく参ったと言わせることが重要だ……帝の本心から、である。


「あえて武技も魔法……じゃなくて『術』も使わないでいるんです。これは申し訳ありませんが、いわゆる舐めプです」


 過去の人は知らないはずの言葉だが、それこそ異世界言語理解スキルが働くので勝手に都合のいい解釈をしてくれ……キレた。

 舐めプのどこをどう繕ったら、プラスな意味になるのか俺だって分からないし。


「帝様、ご決断を。私とて、いつまでもこうして貴方様の兵士の方々を苦しませるというのも辛いです」

「……ならば、貴様が降参しろ」

「嫌ですよ。守るべき者が居るというのに、どうして引き下がることができましょう」

「……そうか、道理であるな。お前たち──『引け』」


 たった一言、帝は兵士たちに告げた。
 戸惑いなどの感情が彼らに湧く……ことはなく、ただ黙って武器を収めていく。

 それを示すほどができない威圧感が、彼らの主から放たれているからだ。
 俺はそのことに気づかないふりをして、そのまま話を行う。


「何をされたのですか?」

「手っ取り早く、蹴りを付けよう。……決着は早くつけた方がよいだろう なればこそ、その力を振るえる内に降参をさせる」

「……ははっ、助かります。では、二回戦を始めましょう」


 帝の来訪は一度目、俺の世界の物語であれば手紙やら何やらとそれなりに時間が掛かる話である。

 だが、祈念者をそんなに長く幽閉することはできないからだろうか、すでに物語は中盤に入っていた。

 ──数日もしない内に、月からの使徒は舞い降りてくるのだから。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...