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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その14

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 五つ、少女の下へ宝具が返ってきました。
 そしてそれを手に、帝様は簾に隠れる彼女に向けてこう告げます。

 ──お前こそが私に相応しい女だと、この手を取ることこそが天命であると。

 少女はその手を取りません。
 五つ目の宝具に手を伸ばし、掴みます。

 すると、眩い輝きがその身を包み込み──『輝夜』のすべてを取り戻しました。

 これまでの精神的な変化ではありません。
 ステータスに記された情報は、『かぐや』のモノから『輝夜』のモノへ。

 ──月の民としての証が刻まれ、約定の刻が訪れたことを示しました。



 それが五つ目の宝具『仏の御石の鉢』に触れたことで、少女が……手に入れた過去。
 そして、それは『カグヤ』という存在がこの世界から抹消された証明でした。

 以降の物語において、『カグヤ』が出てくることは無くなります。
 月人の姫にして、咎人──『輝夜』の物語が語られていくのです。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 いろいろなことがあった。
 そのほとんどが、『輝夜』姫が引き起こした難題ばかりであったが。

 俺と『かぐや』姫はそれを乗り越え、ついにこのときを迎えた。
 今日は屋敷に客が来る日──もっともこの国で、偉いお方の到着する日である。


「……で、どうしてこんなことに」

「──おおっ、婿殿・・!」

「…………本当、なんでなんだか」


 かつて『輝夜』姫の提案した、帝から彼女たちを奪うためのアイデア。
 その集大成が……俺を婿役にするという、わけの分からないものだった。

 敵を騙すにはまず味方からいうからか、なぜかその仔細は誰にも伝えられていない。
 なのでお爺さんとお婆さんは、『輝夜』姫の言った話を信じてしまっている。


「あの、帝様もいらっしゃるので、とりあえずその呼び方はやめていただけないでしょうか? ……その、事前に知られるのは」

「ああ、そうでしたな。ノゾム殿、いよいよこの日が来ました」

「ええ、そうですね。これでようやく、私はカグヤ様を拝むことができます」

「はっは、最後の難題でしたかな? 私たちの娘は、ずいぶんと婿殿に厳しい条件を与えたものですな」


 まったくだ、普通だったらぶち切れて去っていても許されるレベルではないだろうか?
 わけのわからない難題、それは帝を相手取りカグヤ姫を守り抜くこと。

 それまではいっさい顔を合わせることもなく、簾で姿を隠している。
 顔を見せるのが報酬って、いったい何様のつもるなんだろうか?

 いやまあ、その気になれば暴ける。
 だがそれをやってしまえば、築いてきた表面的な信頼関係も一瞬で瓦解するだろう。


「……っと、どうやら間もなく分かる範囲に来るみたいですよ」

「うむ、では迎え入れるとしよう……婿殿、似合っておりますぞ」

「あははは、ありがとうございます」


 俺の服装は、迷宮から回収された火鼠から作られた着物である。

 もともとは赤色だった毛皮も、加工の結果雪のような白と金青色の混ざり合った鮮やかな色合いの服となったぞ。

 そんな服をわざわざ着させられている理由はもちろん──当てつけであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「逃がしはしな──」

「いや、させないって」


 カグヤ姫の着物の袖を掴もうとする腕を掴み、俺はそう告げる。
 最初の出会いの辺りは忠実に再現したかったのだろう、俺の予想通りに動いていた。

 その男は謁見の途中で、強引に簾を潜ろうとした……だからこそ、こうなったわけだ。
 それをするだけの権利が、ある意味では彼にはあったんだがな。


「私を誰だと思っている?」

「人の愛する者を奪い去ろうとする、憎き恋敵……でしょうか?」

「…………誰だ、お前は」


 男はまるで、初めて見た人に対するような反応を示した。
 当然だ、コイツはカグヤ姫以外のすべてを認識はしても識別はしていなかったからな。


「ここに居る御方、カグヤ様と親しき仲になることを約束した男です」

「名乗れ」

「素が出てますよ──み、か、ど、さ、ま」

「名乗れ!」


 就いている職業の影響だろう、男──帝を中心に魔力の暴風が吹き荒れる。
 平然としていられるのは、俺と簾に守られたカグヤ姫だけ。

 ふぅとため息を吐き、ただジッと帝を見つめてみる。
 苛立ちだけ、焦燥や嫉妬はない……ただただ思い通りにならないことに怒るだけだ。


「ノゾムですよ、ノゾム。帝様、私は貴方にカグヤ様を渡しはしません……たとえ貴方が持つ、あらゆる力を振るおうとも」

「あらゆる、か。その言葉が意味すること、それを理解した方がよいぞ」

「分かってます。そのうえで、挑みます……その方が後腐れがないじゃないですか」

「ハッ、面白い。この私を帝と、【帝】であると知ってなお挑もうとするのか! 良いだろう、ノゾムよ。お前のすべてを賭けると言うのであれば、その挑発に乗ってやろうではないか!」


 相手はこの国の長、本来であればそう簡単に乗ってくれる者でもない。
 だが今ここにおいて、俺たちは互いに一人の女を取り合っている。

 俺の知る物語において、帝はあとから来て課題も受けずに結婚しようとしていた。
 この世界だと、宝具を持ってこようとしていたが……それは全部俺がやっている。

 ならばこそ、代わりに課題を用意しよう。
 決して難しくはない、至って単純で簡単な課題というヤツを。


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