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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その11

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 二つ、少女の下へ宝具が返ってきました。
 彼女の前に現れた──もっとも偉い貴族様によって、それは献上されます。

 それに触れることを恐れながら、それでも確固たる意思を持って少女は触れました。
 すると前回同様、彼女の中へ既知のように思える光景が浮かび上がります。

 かつての世界にて、遥か遠き青色の惑星を眺め……憧れた。
 小さな少女は日々そんな星の姿に、複雑な感情を抱きます。

 だからこそ、彼女は宝具に手を伸ばしました──人々に■■を与えるために。



 それが二つ目の宝具『燕の子安貝』に触れたことで、少女が思いだした過去の記憶。
 同時に、彼女はとある感覚がより強くなっていたことに気づきます。

 ──人族に対する感情、刷り込まれた歪な意思、そしてどこまでも子供染みた意志が発露していくことに。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「──ふぅ、ノゾムと言っておったな。よくもまあ、本土の者たちの計画を狂わせておるのぅ……いい気味じゃ」


 魔力の高まりは彼女を包み、簾越しに伝わる雰囲気のようなものを書き換えた。
 スイッチが切り替わるように……大人は子供へと回帰する。


「妾は輝夜。空に輝く月より来たりし、罪人にして忘れ人じゃ……むぅ、これは邪魔になるのぅ。いちいち越しに見る必要など無いだろうに」

「まあまあ、そう言わないで」


 会話をする際、簾を介するのがどうにもお気に召さなかった様子。
 今にも退かして、こちらに顔を出そうとするので……それを食い止める。


「これは……魔法か。やはり地上の者たちは未だに魔法を使うのじゃな」

「えっと、どういうことなんですか?」

「先ほどすべての記憶の同期が完了した。妾が月でどうあったのか、そしてどういった状況に陥っているのか……そのすべてを今の妾は理解しておる。そしてノゾム、そなたがこの世界において異物であることも」

「……そうですか」


 なんでだろう、とても話したそうにしているのでそのまま促してみる。
 すると予想通りというかなんというか、簾の奥で少女は胸を張って語りだす。


「妾に与えられた自業自得な難題は、本来地上の者たちが束になって挑んでも達成できない代物じゃ。それをすべて、しかも同時に行える者……そんな者は存在しない」

「それだけですか?」

「ずいぶんな言い草じゃな。かつての妾、いや『かぐや』が居なければ嫌悪しておったかもしれぬな。あとは単純に、勘じゃ。それでは足らぬか?」

「いや、足りていると思う。それに、そっちの現状もなんとなく分かった」


 本来は上書きされ、完全に今の『輝夜』としての人格が表に出るはずだった。
 だが俺の施した魔法の影響もあって、魂魄から書き込まれた本来の予定が狂う。

 それゆえに、今の『輝夜』は『かぐや』の在り方を共有している。
 発言や知識から考察するに、本来はもっと高慢な態度なのかもしれない。

 勘という理由は少々アレだが、出身が違うのだから何かそういった性質の一つや二つ、兼ね揃えているのかもな。


「それで、私を呼んだ理由は?」

「──妾を守ってほしい、世界のすべてより誰からも奪わせず」

「……もう少し、細かい説明がほしいです」

「そうか……しかし、やはり簾が邪魔になるのう。まあ、『かぐや』がどうしてもと言うのでそのまま話をしよう」


 どうしても簾を退けたいようだし、俺の魔法なんてすぐに突破できるような口振りだ。
 おそらくそれは真実、彼女が漂わせる膨大なエネルギーがその証明になっている。


「記憶の同期が完了した、妾はそうノゾムに伝えた。そこに刻まれた記憶によれば、妾の罪とやらは十六を迎えたときに終わる──そして間もなく、そのときが訪れる」

「そうすると、迎えが来るのか?」

「やはり知っておったか。その際、奴らは間違いなく兵を連れておる。……何もせん、という保証はないじゃろう。──地上の民こちらがわも、月の民むこうがわも」

「向こう側はともかく、こちら側って……ああ、そういうことですか」


 まだ出てきていない物語の登場人物。
 それはいずれ、いやそう遠くない内にこの地を訪れる。


「──帝様、ですか」

「『かぐや』の記憶から察するに、この地すべてを統率できるじゃろうな。故にこの身を見てしまえば、執着する……そして、強く欲することになる」

「それほどなんですか? 私はまだ見ていませんので、あまり実感は湧きませんが」

「……ほう、なんじゃ。ノゾムも男と言うわけか。ならばこの姿を……『かぐや』。ええい、分かっておる分かっておる。話が進まんからお預けじゃ!」


 わけの分からない内に、どうやらまだ見せてもらえないということになったらしい。

 だが帝は遠くない未来、彼女の姿を見る。
 そして何かの想いを抱き、月の民たちと闘うことを決心するわけだ。


「しかし、具体的にどうすればいいのか分からないだろう? どうやってそれを止めればいいんだ」

「帝との接触は避けられぬじゃろう。そうしてしまえば、祖父母へ迷惑を掛けてしまう。できるのはその後、予め諍いの種を取り除いてしまえばよい」

「えっと……つまり?」

「つまりじゃな──ノゾム、そなたが帝より妾たちを奪えばよいのじゃ!」


 壮大なことになり始めた物語。
 これ、大丈夫なんだろうか……そう思い始めてしまうのだった。


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