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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その10

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 一つ、少女の下へ宝具が返ってきました。
 それに触れた途端、少女の脳裏には見たことがない……だけど知っている、そう思える光景が浮かび上がります。

 それは美しい女性が行った罪。
 裁きの舞台に引き上げられた彼女は、ただ沈黙して場の流れに身を任せます。

 そして、裁きが下りました。
 それは澱みと汚れと穢れが集まりし場所、地上にて過ごせというもの。

 その際女性は記憶を失い、歳も一からやり直して生きなければなりません。
 彼らにとって最大級の罰を与えました……ですが女性は、変わらず沈黙を貫きます。



 それが一つ目の宝具『蓬莱の珠の枝』に触れ、少女が思いだした過去の記憶です。
 同時に、己に刻まれていた使命を鮮明に思いだします。

 ──五つの宝具を集めよ、その身に如何なる犠牲をもたらそうと、と告げてきました。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 思いのほか早く、俺はカグヤ姫に呼びだされることになる。
 それは翌日のこと、というか昼までずっと暇潰しをしていて飽きたときにやってきた。


「──お目覚めになられたのですか?」

「はい。そして、どうやら娘はノゾム様に会いたいと……会って、言葉を交わしたいと申しまして」

「願ってもありません。ぜひに」


 ということで、再び昨日訪れた離れへ向かうことになる。
 念のため、隠蔽や偽装系のスキルが機能しているのかの再確認も忘れない。


「では、どうぞ」

「……お爺さんは共に行かないので?」

「二人っきりで、そう頼まれています……ですがノゾム様、理解しておられますね?」

「え、ええ……言葉を交わすだけ、そうですよね。安心してください、私とて病み上がりの女性に手を出すほど落ちぶれてはいませんので。信用はできずとも、どうか信頼はしていただきたいものです」


 自分で言うことではないだろう。
 その結果お爺さんの目が少々剣呑になったが……あることに気づき、それも治まる。


「分かりました……くれぐれも、御心変わりがないように」

「ええ、もちろんです」


 そうして、襖が開かれた。
 俺は一度潜ったはずのそこへ向かい、再び少女と相対する。





 変わらずそこには襖が置かれていた。
 あらゆる干渉を拒む魔道具がゆえに、俺のスキルはその大半が通用しない。

 隔てられたその先には、先日同様に少女の影が映っている。
 体調が少々心配ではあったが、気配から感じる辺りでは不調ではなさそうだ。


「改めまして……初めまして、私はノゾム。貴女様を──」

「構いませんよ、口調を楽にしていただいても。私の方は、これが素なので申し訳ありませんがそのままですけれど」

「……じゃあ、少しだけ。カグヤ様、体調はどうですか?」

「もう少し柔らかくても構わないのですが、今はそれでもいいでしょう。はい、ノゾム様のお力によってだいぶ楽になりました」


 簾越しに伝わる声も、やはり問題を感じさせるようなものではない。
 嘘を吐く必要もないだろうし、そろそろ本題を話すべきだろうか?


「一つ、魔法を使ってもいいですか?」

「……魔法の種類によっては無効化されますが、それでも宜しいのであれば」

「そう忠告していただけるだけでも、カグヤ様がお優しいと分かりますね。では、使いますよ──“静寂サイレント”」

「これは……外に私たちの会話を漏らさないため、でしょうか」


 その通りだった。
 風魔法の“静寂”は、発動することで内部の音を外側へ出さないようにする魔法だ。

 これからする話は、あまり外へ漏らしたくはない……たとえ隠していることがバレたとしても、内容自体が漏れ出なければどうとでもなるわけだし。


「えっと、まずはこれだけは確認させてもらいますよ──もう一人、居ますよね?」

「……はい。ノゾム様のお力が無ければ、私はわけも分からないままに身を取り合うことになっていたでしょう。現に今も、主導権を欲しています」

「そうでしたか。申し訳ありません……私にもっと力があれば、カグヤ様にそういった心労を背負わせることも無かったのに。それに宝具だって、五つ纏めて持ってくる必要も無かったというのに……」

「いえ、一つずつ渡されていては、きっと手の打ちようが無かったでしょう。五つ分の変化だったからこそ、ノゾム様が間に合わせることができた……そして私が、今もなお前に出ることができているのです」


 魔法を使った本人なので、彼女の精神性が現在異常をきたしているのは分かっていた。
 何より、似たような事例がすでに身内に居るからな……経験から理解できる。


「私が呼ばれた理由は、それでしょうか?」

「はい。どうやらもう一人の私は、宝具を見つけだしたノゾム様と話したいと……」

「それは構いませんが、カグヤ様は大丈夫なのでしょうか? その危険を冒してまで、私は話をしたいとは思いません」

「……いえ、主導権がこちらにある以上、引き戻すことも可能です。それに、今確認をしました。今回だけは、話が終われば大人しく引き下がると」


 そこまで言われれば、俺も頷くことしかできなくなる。
 了承の旨を伝えると、何やらカグヤ姫の魔力が高まりだす。

 そして、その魔力の高まりが最大まで達した時──


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