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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とかぐや姫 その08
しおりを挟む「……俺、人として良いんだろうか?」
眷属たちに頼み、宝具を集めてもらう。
物語で言えば定番の流れ、それぞれの視点になって無双する……とかそういった感じになるのかもしれない。
ただそれは、事情があるからこそだ。
そうであればその行いは美談に成り得るのだが、俺がやったのはそうではない。
──できることをやらなかった。
──やれることをやらずにいた。
相も変わらず自己の主張が変わり続ける。
それが人という生き物の在り方ではあるんだけど、さすがにやりすぎな気がするな。
「……っと、また個人で解決しようとしていたってことか。カグの言葉は正しいな」
俺の思考はさまざまな所へ向いていた。
この考察を行うメインの思考、眷属たちの様子を調べるサブの思考。
並列の思考を高速で処理できるからこそ、できている……できてしまっている。
俺という人間の在り方が、{感情}の力を受けてそのままだからこそ──変われない。
「切り替え切り替えっと……さて、眷属たちは無事に宝具を五つ集めてくれたみたいだ。俺独りじゃ、どれだけ時間が掛かっていたんだかなぁ」
そこだけは確信する。
たとえ{多重存在}を所持していようと、俺という存在が増えるだけ。
彼女たちの軌跡を見返せば、俺では成し得なかったことばかり。
プラスに考えよう、その選択は正しく誰に取っても好い結果を生みだしたと。
「でも、それでもなお自分を悔やみ辺り、俺というモブって本当にどうしようもないぐらい小さい男だよな──“拳打”」
そして、発動させた武技を──己へ。
顔面に叩き込まれた全力の一撃が、自らを漫画のような回転をさせた後に地面へ叩き付けた。
だがまあ、攻撃力がある分防御力も同じくらい存在する。
基本的に一般スキルしか使えない状態、だがそれでも発動するそれらを用いて的確なタイミングで攻撃を防ぐ。
「チッ……やっぱりダメか」
息を整え、精神を統一する。
過保護というかなんというか……まあ、最悪の場合を想定しているのだから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「あとは、『Wifone』から五つの宝具全部を取りだせば……一丁上がり。あっ、ダメだこりゃ。また罪悪感が……」
すぐに静まるものの、手柄だけ取るのって人としてどうなんだろうな。
同じことをする必要もなく、冷静にやるべきことを実行していく。
◆ □ ◆ □ ◆
「な、なんと……これが!」
「ええ。これが、これこそが姫の求めた品でございます」
屋敷の中へ案内されたのち、五つの宝具すべてを提出する。
貝、皮衣、珠、枝、鉢、それらは本物にしか放てない風格を漂わせていた。
「この短期間で……いったい、貴方様は何者なのですか?」
「さて、ただの冒険者としか答えようがないのですが……今はノゾム、とだけ言っておくことにしましょう」
才能の無い演技を用いて、そう騙る。
偽装スキルがステータスを偽り、超級の隠蔽スキルがそれを暴くことを困難にしているので、そちらがバレることはないだろう。
お爺さんもこちらの素性を見抜こうとしていたのだが、俺があえて開示している部分しか分からないため、とりあえずはそれで納得したようだ。
ふぅと息を吐くと、何かを覚悟したような表情で口を開く。
「分かりました。娘との約束です、宝具をお持ちになられた貴方様にはその権利がございます。私たちの娘、カグヤと会ってもらうことにしましょう」
「ええ、ぜひにも」
さっそくと言わんばかりに、お爺さんは立ち上がると俺をどこかへ連れていく。
屋敷は先ほどまで居た本殿と、少し離れた場所にある渡り廊下で繋がった離れがある。
もっとも高い魔力を持つ人物もそちらに居り、目的地はそこのようだ。
「一つ、よろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
「貴方様はいったい何を求め、こちらに参られたのでしょうか。娘が関わっておりますので、どうかお答えしていただきたい」
これが親という者か……。
さっきまでの何かに感謝するような顔を一変させ、疑心と観察を行う表情になる。
すでにフーラとフーリの父母という例があるので、あまり驚かない。
自分の大切なモノを守るためであれば、人はどんなことだってやり遂げられる。
ただ、この後の展開は読めていた。
俺は偽善者であり、ここは無限に続く物語の世界。
望む望まぬを問われるでもなく、どうすれば終わるのかだけを求めて動く。
「貴方がたの平穏、でしょうか? そろそろ来るのではないのですか、あのお方が」
「ッ!? な、なんのことでしょうか?」
「隠すおつもりでしたら、もう少し顔を整えましょう。私には異なる未来が視える、その結果宝具を短期間で集めることができた……そう伝えれば納得でしょうか?」
「……いえ、まだです。それは娘の要望を叶えられた理由であって、会おうとする目的ではありません」
未来とか気になるワードをぶつけて誤魔化そうとも思ったが、やはりそういうわけにはいかないようだ。
まあ、説得をする必要はあまりない。
目的を果たすには、こう伝えればいいからである。
「分かりました。では、それはこの先でお話しすることにしましょう──その方が、見抜けるのではありませんか?」
「……そうですね。この先が、私たちの娘が居る離れです。どうか、憲兵を呼ぶ必要ができることはなさらぬように」
先に頑張った五人の貴族には悪いが、カグヤ姫に会わせてもらおう。
さて、どんな人なんだろうか?
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