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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その02

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 少女──カグヤは悩みました。
 祖父母が自身のためと願ったとはいえ、望まないことを行うことを。

 それでもそれを承諾した結果、五人の貴族たちはその全員が自分の願った品を持ってこなかったことを。

 ──そして、己の知らない己のことを。

 カグヤの記憶に、宝具のことは存在していませんでした。
 しかし彼らを簾越しに見たそのとき、ふとその存在を知りました。

 いえ、それは知ったのではありません。
 彼女は思いだしたのです、己の罪──失われし五つの宝具を。

 不思議とそれらの所在は分かり、カグヤの中でそれらを求める心が有りました。
 故に彼女はそれらの回収を五人の貴族たちに依頼し、祖父母の願いと繋げます。

 その結果がすべて失敗、帰ってきた貴族たちに無理難題であったことを語られればカグヤも疑念を抱きました。

 ──その知識は、何処より来たのか。

 自分の知らない自分、内より宝具を欲する心……それらを集めたとき、いったい何が起こるのか……すべては未だ謎なのですから。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「……えっと、お顔を拝見させていただくことはできないと?」

「そうです。私たちもあれから反省し、無理に勧めることを止めました。娘には、幸せになってもらいたいですから」


 貴族も平民も関係なく、そもそも顔を見ることすらできないレベルの厳重さ。
 空間魔法の対策もされているようなので、屋敷に侵入するという方法はまだ無理だ。

 ちょうどというかなんというか、なぜか外に出てきたお爺さんと接触できた。
 なので直接話を訊き、事情を知ることに。


「そして、宝具を見つけることが条件となると……本物かどうか、調べる術が?」

「娘曰く、見ずとも近くにあれば分かるそうで。貴方様は、いかがなされますか?」

「とりあえず、それぞれの品がどこにあるのかを教えていただきますか?」


 すでにカグヤ姫は宝具の在り処をお爺さんに伝えていたようで、それぞれの宝具の在り処をサクッと教えてもらった。


「──迷宮ダンジョンか。ずいぶんとまあ、ご都合主義な気もするけど……わざわざ外国に行かなくていいし、別にいいよな」


 五つの宝具はそれぞれ異なる迷宮の最深部にあり、そこに挑まなければならない。
 その目的地もなんというか……だいたい同じ場所に存在していた。


「富士山の周りに五つの迷宮ねぇ……月から落とした時、あんまり散らばならなかったとかそういう理由か?」


 もしかしたら、宝具の力の影響で富士山があの大きさになったとか、迷宮が生まれたとかそういう裏設定もあるかもしれないが、今は攻略について考える必要がある。

 全部攻略するにも時間が掛かるかもしれないし、お爺さんの話だと挑んでいるヤツが他にも居るらしいので急いでおいた方がいい。


「──“召喚サモン眷属ファミリア”」


 運営神やクソ女神が関わっていそうな場所で頼るのは、バレるかもしれないと気にしていた……が、すでにリオンによる偽装が可能な今、そういった問題は失われた。

 なので使うのは白い魔本。
 どんな仕掛けがあるのか分からないので、装備はともかくスキルは制限なしで呼ぶ。


「はい、五人集まったわけだが……君たちには今回、迷宮を踏破してもらいます。何か意見……というか物凄く言いたいことがありそうなので、代表者を挙げて言ってください」


 俺の交渉術は一対五という状況には対応していないので、数を減らしてもらう。
 そうして選別された一人が、五人分の考えやら苦情やらを言うわけだ。

 今回の代表者は……うん、ネコミミだ。


「じゃあ、私が。ここが例の本の中って場所なの? あの二人の世界とは、全然違うみたいだけど……」

「『赤ずきん』も『星の銀貨』も、舞台は西洋だからな。けど『かぐや姫』は東洋、というか日本版が採用されている。あの世界だと井島が舞台、だから全然違っている」

「で、迷宮を踏破しろって具体的にどういうこと? あらゆる手段を用いても、ってことで合っているのかしら?」

「なら装備も解放している。危機に瀕していない限り、迷宮をぶっ壊すとかそういうのは無し。たぶん奥にある五つの宝、それを一人一つずつ持って帰ってきてほしい。詳細は俺の記憶にあるこの世界の童話を読んでくれ」


 迷宮の破壊、それをしてしまえば中にある宝具にどんな影響が及ぶのか不明である。
 なのでとりあえず回収するまでは、極力危いことはしてもらいたくない。

 何より偽装しているとはいえ、問題が起きたときに刺客が居ればバレてしまう。
 そして俺たちの存在を告げられれば……そのまま頂上戦争的な展開に陥るな。


「バレなきゃいいんでしょ、バレなきゃ。いつもメルスがやっていることじゃない」

「……そういうの、今さらながらお姫様に言わせて良いんだろうか? こう、不敬とかそういうことになるんじゃ……」

「本当に今さらね。これまでも散々、そのお姫様とやらに剣を振らせていた男が言う言葉じゃないことはたしかだと思うわよ」

「そこは問題なし。俺はお前が剣を振っている姿をカッコイイと思っていて、ずっと見ていたいと感じているぞ。そこら辺は俺のワガママってことで通しておいて……痛ッ! 誰だよ、なんで俺を攻撃したの!?」


 なんて会話があってから、目的地の近くまで一気に眷属たちを転送する。
 ……時空魔法が使える辺り、結局今の俺のチートには変わらないんだよな。


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