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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目

偽善者とかぐや姫 その01

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 それは月より舞い降りし咎人でした。
 五つの宝具を失い、地へ落とせし者です。

 下された裁きは、咎人の住む世界にとってもっとも重き刑罰でした。
 穢れし地上で生き直し、宝具を探すことで厳罰と処します。

 そして地上にて、とある翁が赤子を拾うことになります。

 世にも奇妙な竹より生まれし幼児、彼女は『カグヤ』と名を与えられ、スクスクと立派に育っていきます。

 そして数十年が経過し、赤子は誰もが羨む美姫へと成長しました。

 艶やかな黒髪、色艶の良い肌、神に愛されし美貌を持ち、人を思い遣る優しき心を持つ女性の話は、遠き都まで伝わっていきます。

 そうして集まったのは五人の貴族。
 彼らは姿を隠すカグヤを求め、その手を伸ばそうとします。

 そのときふと、カグヤは思いしました。
 自分には使命があり、それを成さねばならない……何かも分からない使命感に突き動かされ、カグヤは告げます。

 月より落ちし五つの宝具。
 貴族たちはそれぞれ一つずつ、それらの回収をお願いされました。

 手に入れた物に、自らの顔を晒すと。
 そしてもっとも多く集めた者と──契りを交わそうと。

 そして貴族たちは挑み……失敗しました。
 そのすべてが地表に降り立った際に変質してしまい、ただの人族が手に入れることのできない物と化していたからです。

 彼女は無理難題を与え、誰にも姿を見せない美姫という認識をされました。
 そして、いつしかそのウワサは彼女の住む国の帝の下へ……。



 カグヤの罪、それは宝具の回収を以って許されるものではなかったのです。
 ある年を迎えたとき、地表の穢れを洗い清め、月へ帰ること……それこそが本来の裁きでした。

 帝は欲した女を囲うため、迎えを拒む兵を整えました。
 しかしそれらは滅ぼされ、すべてを忘れたカグヤは月へと向かいます。



 さぁ、冒険者よ。
 貴方がたは運命を変える祈念者です。
 たしかに存在した史実は、約定に基づき貴方がたの介入を認めます。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「……相も変わらず腹が立つ説明だな。どうしてスキップ機能が付いていないんだか」


 どれだけ愚痴を零そうと、情報収集のためには聴かなければいかなかったのだからどうしようもない。


「うんうん、井島と似た感じの場所だな……となると、井島のどこかなのかもしれない。俺的にはあの山からして心当たりはあるが」


 青く巨大な山……噴火云々とか空の色云々とかを気にしないファンタジーな高さをしているが、間違いなく富士の山だろう。

 それが見える範囲で、『かぐや姫』の伝承があった場所をピックアップすれば……だいたいの座標は分かるわけだ。


「って、今はそういうことを考えている暇はないか。それよりも、現状の考察か」


 クソ女神の語りから察するに、すでに五人の貴族が無理難題に失敗している。
 そしてこれから、帝が彼女の下を訪れるその間……祈念者が入るのはここなのだろう。


「要するに、俺たちが代わりに宝具を集めろというわけだな。けど……うん、宝具って単語は実にイイ!」


 聖剣を構えるイメージが浮かんでくるが、今回は残念ながらそれではない。
 しかしそれでも、魔法のようなアイテムという意味では間違っていないだろう。


「今回の縛りは……普人、一般スキル縛り。要するにいつもみたいに<箱庭造り>で楽はできないってことだな──“気配探知”」


 受動的な能力も、能動的に使うことで一時的に性能を上げることができる。
 今回使った気配探知スキルもその一つ、魔力と気力を用いて他者の存在を調べていく。

 俺が居る竹藪──おそらく翁がカグヤ姫を見つけた場所から、少し離れた場所に反応をいくつか見つけた。


「舞台であるカグヤ姫の住む屋敷が近いはずだからな……うん、魔力が異常に多いのがカグヤ姫か?」


 確信はないが、この世界の主人公なのでおそらくはそうだろう。

 リアの睡眠成長、シャルの精霊親和性、リラのあらゆるスキルへの適性など……彼女たちは、それぞれ異なる強さを持っていた。


「月の世界の姫だし、魔力以外にも凄い点はあるだろうけど……最初は魔力だけだな」


 物語の定番から考察すると、宝具で解放されるパターンだろう。
 これ以上は直接視てみないと分からない、鑑定眼も今は使えないけれど。


「目的地は……うん、あそこだな」


 スキルではなく単純な魔力と気力による強化で視覚を研ぎ澄まし、竹藪の隙間から例の屋敷を捕捉する。

 クソ女神の説明通り、すでにウワサが広められている状態なので、人々は時々通る程度で野次馬ができているわけではないようだ。


「武具っ娘のスキルも使えればよかったが、無理みたいだな……となると、今回は自前のスキルで身も隠さないとな──“変装”」


 俺は一部のスキルに適性が無い。
 主に自身を偽るスキルなのだが……今回使用した変装スキルもまた、それに含まれる。

 レベルが自然に上がらないため、強引に上げたのだが……進化先も出ないほど、適性がないわけだな。

 効果はシンプルに姿を変えるというもの。
 だが俺が使用する場合、某怪盗のような華麗な変身はできない。

 スキル外の技術として眷属に習い、違和感の無い程度に腕は磨いておいたので、とりあえず俺という存在を隠すことはできるがな。


「それでも変身魔法には遠く及ばず……見られれば、アレが働くし」


 それでもそれが今回の縛り、やり遂げることこそが成長の糧となる。
 さて、目的地はもう眼前……実際にはどんなヤツなんだろうか?


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