1,389 / 2,518
偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者とかぐや姫 その01
しおりを挟むそれは月より舞い降りし咎人でした。
五つの宝具を失い、地へ落とせし者です。
下された裁きは、咎人の住む世界にとってもっとも重き刑罰でした。
穢れし地上で生き直し、宝具を探すことで厳罰と処します。
そして地上にて、とある翁が赤子を拾うことになります。
世にも奇妙な竹より生まれし幼児、彼女は『カグヤ』と名を与えられ、スクスクと立派に育っていきます。
そして数十年が経過し、赤子は誰もが羨む美姫へと成長しました。
艶やかな黒髪、色艶の良い肌、神に愛されし美貌を持ち、人を思い遣る優しき心を持つ女性の話は、遠き都まで伝わっていきます。
そうして集まったのは五人の貴族。
彼らは姿を隠すカグヤを求め、その手を伸ばそうとします。
そのときふと、カグヤは思いしました。
自分には使命があり、それを成さねばならない……何かも分からない使命感に突き動かされ、カグヤは告げます。
月より落ちし五つの宝具。
貴族たちはそれぞれ一つずつ、それらの回収をお願いされました。
手に入れた物に、自らの顔を晒すと。
そしてもっとも多く集めた者と──契りを交わそうと。
そして貴族たちは挑み……失敗しました。
そのすべてが地表に降り立った際に変質してしまい、ただの人族が手に入れることのできない物と化していたからです。
彼女は無理難題を与え、誰にも姿を見せない美姫という認識をされました。
そして、いつしかそのウワサは彼女の住む国の帝の下へ……。
カグヤの罪、それは宝具の回収を以って許されるものではなかったのです。
ある年を迎えたとき、地表の穢れを洗い清め、月へ帰ること……それこそが本来の裁きでした。
帝は欲した女を囲うため、迎えを拒む兵を整えました。
しかしそれらは滅ぼされ、すべてを忘れたカグヤは月へと向かいます。
さぁ、冒険者よ。
貴方がたは運命を変える祈念者です。
たしかに存在した史実は、約定に基づき貴方がたの介入を認めます。
◆ □ ◆ □ ◆
「……相も変わらず腹が立つ説明だな。どうしてスキップ機能が付いていないんだか」
どれだけ愚痴を零そうと、情報収集のためには聴かなければいかなかったのだからどうしようもない。
「うんうん、井島と似た感じの場所だな……となると、井島のどこかなのかもしれない。俺的にはあの山からして心当たりはあるが」
青く巨大な山……噴火云々とか空の色云々とかを気にしないファンタジーな高さをしているが、間違いなく富士の山だろう。
それが見える範囲で、『かぐや姫』の伝承があった場所をピックアップすれば……だいたいの座標は分かるわけだ。
「って、今はそういうことを考えている暇はないか。それよりも、現状の考察か」
クソ女神の語りから察するに、すでに五人の貴族が無理難題に失敗している。
そしてこれから、帝が彼女の下を訪れるその間……祈念者が入るのはここなのだろう。
「要するに、俺たちが代わりに宝具を集めろというわけだな。けど……うん、宝具って単語は実にイイ!」
聖剣を構えるイメージが浮かんでくるが、今回は残念ながらそれではない。
しかしそれでも、魔法のようなアイテムという意味では間違っていないだろう。
「今回の縛りは……普人、一般スキル縛り。要するにいつもみたいに<箱庭造り>で楽はできないってことだな──“気配探知”」
受動的な能力も、能動的に使うことで一時的に性能を上げることができる。
今回使った気配探知スキルもその一つ、魔力と気力を用いて他者の存在を調べていく。
俺が居る竹藪──おそらく翁がカグヤ姫を見つけた場所から、少し離れた場所に反応をいくつか見つけた。
「舞台であるカグヤ姫の住む屋敷が近いはずだからな……うん、魔力が異常に多いのがカグヤ姫か?」
確信はないが、この世界の主人公なのでおそらくはそうだろう。
リアの睡眠成長、シャルの精霊親和性、リラのあらゆるスキルへの適性など……彼女たちは、それぞれ異なる強さを持っていた。
「月の世界の姫だし、魔力以外にも凄い点はあるだろうけど……最初は魔力だけだな」
物語の定番から考察すると、宝具で解放されるパターンだろう。
これ以上は直接視てみないと分からない、鑑定眼も今は使えないけれど。
「目的地は……うん、あそこだな」
スキルではなく単純な魔力と気力による強化で視覚を研ぎ澄まし、竹藪の隙間から例の屋敷を捕捉する。
クソ女神の説明通り、すでにウワサが広められている状態なので、人々は時々通る程度で野次馬ができているわけではないようだ。
「武具っ娘のスキルも使えればよかったが、無理みたいだな……となると、今回は自前のスキルで身も隠さないとな──“変装”」
俺は一部のスキルに適性が無い。
主に自身を偽るスキルなのだが……今回使用した変装スキルもまた、それに含まれる。
レベルが自然に上がらないため、強引に上げたのだが……進化先も出ないほど、適性がないわけだな。
効果はシンプルに姿を変えるというもの。
だが俺が使用する場合、某怪盗のような華麗な変身はできない。
スキル外の技術として眷属に習い、違和感の無い程度に腕は磨いておいたので、とりあえず俺という存在を隠すことはできるがな。
「それでも変身魔法には遠く及ばず……見られれば、アレが働くし」
それでもそれが今回の縛り、やり遂げることこそが成長の糧となる。
さて、目的地はもう眼前……実際にはどんなヤツなんだろうか?
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる