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偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と神代補助魔法
しおりを挟む「神代魔法……か」
改めて、補助系統の神代魔法を思い返す。
思えば攻撃系の方は使う機会が多かったものの、補助の方は魔力のごり押しでどうとでもなっていたため行えていなかった。
「これこそが、縛りの真価! そうだ、こういう部分にこだわりを入れるからこそモブは成長できるのか!」
「ご主人、どうかされたのか?」
「フェニか……いや、“かくかくしかじか”なんだよ」
「……なるほど、補助に力を入れたいというわけか。ワレには思いもよらぬ考え、慧眼ではないかと」
八文字の言葉にスキルでそれ以上の意味を持たせ、圧縮言語のようなモノとして成立させてみた。
そのため、フェニもすぐに事情を理解して褒めてくれる……そこまでのことをしている気はないし、ただの暇潰しなんだがな。
「ここはワレが体を張って……ではなく、その手伝いをしよう」
「いいのか?」
「無論、ご褒美だ!」
「……そう、か。まあ、フェニがそう言ってくれるならそれでいいか」
修練場に向かい、とりあえず向かい合う。
だが何をするかは考えっていなかった……それをまずは考えてみる。
使えるのは──合成、多重、常駐、複製、広範、極大、生成、干渉、集束。
名が示す通りの補助を行うことで、術式に変化をもたらす。
まずは生活魔法だけを使って、それを神代魔法で高めて行使してみることに。
「──“着火・多重/極大”」
「ッ……!?」
「複数の指先から火が出て、その火力が異常なものになっている。つまり、まだ火を点けるという範囲からは逃れられていないな」
「不死鳥をも焦がす火……ご主人、それだけでも充分なものではないか?」
自ら炎へ突っ込み、再び回帰してきたフェニはそんな感想を述べる。
たしかに火に対する適性が高く、耐性も高い不死鳥に効くだけでも充分な火力だろう。
「威力だけだったけどな。じゃあ、次は別の変化を加えて──“着火・生成/広範”」
「これは……威力に欠ける。だが、形を自在にできるのか。そして、より遠くまで届く」
「補助にも偏りがあるわけか……けど、これは性能が最低な生活魔法を使っているからでもある。一定の威力や射程を持つ魔法に、これらの神代魔法を織り込んだら……足りない部分を補ったり、強みを高めたりできるな」
「つまり……より強大な魔法に先ほどの補助が加われば、より凄惨な死を迎えられるというわけか……ハァ、ハァ」
うーん、フェニのダメな部分が出てしまったが、とりあえずスルー。
今は生活魔法を使っての実験なので、そういう危ないことは致しませんっと。
「攻撃以外にやってみたらどうなるのか? 試すか──“目印・干渉/常駐”」
干渉魔法は自分以外の存在、またそれが用意したモノに他の事象を施したい時に使わなければならない魔法だ。
今回は“目印”をフェニに用意した貰った魔力の球に常駐付きで刻むため、使用しなければならなかった。
「やってくれ」
「お任せあれ──ハッ!」
勢いよく飛んでいく“目印”付きの魔力。
常駐魔法は待機、そして蓄積という効果を持っているので重ね掛けが可能となる。
「だから一度“目印”を解除しても……フェニ、干渉されている感覚はどうだ?」
「無くなっている」
「もう一回起動すれば……どうだ?」
「……ご主人、すでにワレの知覚外に飛んでしまっている」
勢いよく飛ばしてしまったからなー。
しょんぼりしているフェニを慰め、もう一度同じことをやってもらう。
ただし、今度は知覚ギリギリの辺りでしっかり止めてもらってだ。
「どうだ?」
「うむ、感じられるな。常駐の間はそれに気づけないのだろうか?」
「たしか……回路が少し途切れている状態だとかなんだとか、そんなことを言われたな。で、魔力で起動すればそこが普通の術式になり発動する……みたいな感じらしい」
その間は魔力が活性化していないため、気づくのも難しいらしい。
魔法を封印するものなんかも効かない、なぜならすでに術式は準備されているからだ。
「あとは……一気に三つやってみようか──“微風・複製/集束/合成”」
風を生みだし、それを増やす。
増えて風力が上がったそれを束ねると、合成して一つの巨大な風として纏め上げる。
集束だけでも巨大な風はできただろうが、合成をすれば操作なども一つ分で済むので楽になるそうだ……俺はそうじゃなくても操れるけど。
「ぐぅ……なんと強烈な風だ。だが、それではワレを殺しきることはできないぞ! さぁご主人、より強力な魔法を!」
「テストだからやらないつもりだったが……フェニがそれを望むなら、別にいいよな──“永劫種火・多重/広範/極大/合成”」
「こ、これは……! なんという火力、これは──~~~~~ッ!」
「うわー、これはなんか酷い」
火力にパロメーターが極振りされているような魔法を、増やして射程を伸ばして威力を上げ──纏め上げた。
その結果、フェニは一瞬で燃える。
同時に蘇生用の炎が燃えるが……それもまた、“永劫種火”がそれすらも燃やしてしまい、蘇生を強制的に遮断した。
「魔力が切れればちゃんと死んで蘇生するだろうけど……まあ、フェニのパワーアップ回だってことで、勘弁してもらいたい。ああ、念話は繋がっているか?」
《嗚呼、ご主人はやはりもっとも偉大な存在だ! 最近では死に物足りなさを感じていたワレをこうも容易く満足させてくれる!!》
「とりあえず、しばらくは同じ死因でしか死ねないからな。じゃあ、しばらくここで待っててやるから……早く戻ってこいよ」
《承知した!》
燃え続ける眷属、だがとても悦ぶフェニのBGMがあると……自然と心が緩み、ホッとした時間になる。
魔力が尽きるまで補助の神代魔法を試し続け……フェニを回収して、ご飯を食べに行くのだった。
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