1,386 / 2,519
偽善者と目覚める夜の者 二十一月目
偽善者と二種の神代魔法
しおりを挟む夢現空間 図書室
「──神代魔法ですか? はあ……ようやく訊かれた、と言うべきでしょうか?」
「いろんなことが気になって、すっかり忘れていたんだよ。今さらだが、確認しておきたいことがあるんだ」
「分かりました。では、席に着きましょう」
ある日、俺はリュシルの下を訪れた。
内容は告げた通り、神代の魔法に関する事柄である。
助手であるマシューが紅茶をリュシルの下へ届け、そのまま後ろに付く。
その紅茶をスッと口に含んでから……話を再開する。
──ちなみに、俺の前には何もない。
「それで、何が聞きたいんですか?」
「……まあ、いいけど。神代魔法って、名前は凄いけどパッとしないのがあるだろう? ほら、リュシルが最初から持っていた方」
「ひどく不躾な言い方ですが……たしかに、メルスさんが他の方々と復元したモノの火力について、否定はしません。しかし、それがどうかされましたか?」
「他にもあるけど、そういう補助系の神代魔法と火力がある……まあ、術式が登録されている魔法との違いを知りたいんだ」
具体例を挙げよう。
ナースも持つ<虚空魔法>には“虚無”という、術式が最初から載っている。
だがリュシルの持っていた神代魔法──集束、生成、広域、連鎖といったものには、そういった術式がいっさい載っていない。
代わりに、後者の魔法は他の魔法と共に使用することで、起きる事象を強化できる。
複数の魔法を束ねたり、魔法に形を与えたり、拡大化したり、連続して発動したりと。
「だからこそ、少し気になってな……何かそういう情報はあるのか?」
「ちょっと待ってくださいね……今、探してみますので」
リュシルはこれまで読んだ本をすべて記憶しており、それを脳内で検索することができる……俺もできるはずなんだが、異様に時間が掛かるんだよな。
その間に、マシューが俺の下に今さらながらカップを運んでくる。
……隠す気が無いのか、中身が空だ。
「いやまあ、別にいいけど──」
「創造者、ツッコんでほしいのですが」
「ん? てっきり自分の主に手を出す挙句、自分にも手を出してくる卑劣なヤツに嫌がらせでもしているのかと……」
「自己評価が低いですね。九割合っていますが、一割は違いますよ」
改めて、俺のカップに緑茶を注がれる。
やはり日本人たるもの、特に意味はないが緑茶がベストだろう。
作法などは気にせずゴクゴクと飲み下し、話で気になった部分を尋ねる。
「で、一割は? 私怨が九割で……残りはそのツッコミだったのか?」
「……時には、構ってもらいたいときが、あるのですよ?」
「そうか……悪かったな。柄じゃないが……責任、取らないと」
「──何をしているのですか、二人とも?」
俺とマシューが顔を近づけていると、冷たい視線がどこからともなく向けられた。
当然その放出元は、この場に居た合法ロリな学者さんなわけで……。
「もう、どうしてマシューはいつもいつも、私よりも先に──」
「先に……なんですか?」
「うっ……うー、うー!」
「いや、このタイミングで俺を睨まれても困るんだが……」
時と場合によっては、その先が言えたかもしれないが……揺れ動く心情では、言うこともできないだろう。
たぶんマシューの一割は、これのことだろうかと予め検討は付けていた。
いつものことだし、何よりマシューはリュシルが本当に嫌がることはしないからな。
「ところでリュシル、何か分かったか?」
「…………もういいです。結論から申してしまえば──スタンスの違いでした」
「そんなバンドみたいな理由で分かれていたのかよ。具体的には?」
「人々はその昔、魔法に必要なモノを考えました。片方の集団は多様性、弱くとも重ねることで効果を発揮すると主張しました。もう片方の集団は特異性、神すらも手に負えない力こそが必要なのだと主張しました」
要するに補助か凶悪さを求め、実際に手に入れたわけだ。
神代の人って凄いな……だが、まだ術式があるかないかの違いが分かっていない。
「で、そんな神すら手におえない方にだけ術式が載っている理由は?」
「それは簡単です。多様性を求めた側──多様派とでも呼ぶべき集団は、特定の魔法を必要としていませんでしたので。すべてが、何かしら他の術式を媒介として発動していたそうです」
「……まあ、俺も考えてみたけど全然浮かばなかったからなー。複製はちょくちょく使っているけど、あれはどうなんだ?」
「あれも本来は術式を増やす、という用途ですので。アイテムを一つの術式として一時的に記憶し、そこへ干渉しているのです」
魔道具とかもあるわけだし、そもそも解析とか鑑定も魔力を介して構造を調べている。
その魔力で構成された設計図を、複製魔法で増やしている……ってことかな?
「つまり、その気になれば術式自体は用意できるってことか。昔の奴らが不要としていただけで」
「可能でしょうね。ただ、補助に属する魔法ですから攻撃手段として、特異側の魔法と対等にやりあう威力は出せないと思いますよ」
「暇潰しぐらいにはなると思うし……まあ、できたら報告するよ。こういうの、どれだけ重ねてやっているか覚えてないけどな」
「スキルな無駄使いって、メルスさんみたいな人のための言葉でしょうね」
なんでも覚えていられるスキルを持っていても、物事を忘れてしまうぐらいだしな。
今さらだし、眷属の誰も気にしてはいないだろう。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる