上 下
1,384 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その16

しおりを挟む


 夢現空間 修練場


「結局、お前の装備ってどんななんだよ」


 カナタがそれを訊いてきたのは、眷属全員に『種思』を配ったからだ。
 多少眷属が弄ったので、橙色の世界のシステムから逸脱した不正品になりそうだが。


「と、言われてもな……こういうのって、二回目に行った時の方が良くないか?」

「そんな一巻ずつ開示していく方式取ってんじゃねぇよ。あと、そういうヤツって本編はまだでも練習相手とかには開示してんぞ」

「それもそうだな……なら、『開花』」


 名前を告げると、蕾は花開く。
 それは全身を包む装備となり、手には武器が握られる。

 花の鮮やかな色などなく、その色は灰色。
 武器は指貫グローブ、ただそれだけだ。


「くはっ……厨二かよ!」

「……なんでこんななんだかなぁ。まあ、その分お前のときはからかってやるからな」

「ハッ! メルスのそのクソ恥ずかしい装備よりは絶対にマシだろうよ! ……ところで能力は、どんな感じなんだよ」

「まあ、別に良いけど」


 すでに能力は把握してあるので、カナタにその内容を開示する。
 最初は笑っていたのだが……話が進むにつれて、顔が引きつり始めた。


「……相変わらずのチート野郎だな」

「今回は理由が分からん。仮説だと、{感情}の影響で俺の精神情報を読み取りづらかった結果らしい。だがまあ、それだとこの形状になった理由が付かないんだとか」

「ふーん、なら俺はそれ以上のカッコイイ武器を創りだすだけだ」

「そんなこと言って、チューリップとかになるんじゃねぇのか?」


 まあ、チューリップの中には『王者』的な感じの花言葉が有った気がするし……悪いわけでもないんだけどな。

 ただやっぱり、童謡があるからなんとなく愛らしいイメージが残ってしまっている。
 それに今のカナタは……ああ、そういえばピッタリな花が。


「うん、それか百合だな」

「……ヲイ、どういう理由でそれにした」

「いやだって、ほら……ねぇ、コアさん」

「! ……んだよ、脅かすなよ」


 その反応がすべてを物語っていた。
 ちなみにコアさんは後ろではなく、カナタが首を回してもギリギリ視界に入らない辺りの後方で俺たちを見ている。

 ……どっちで後ろを見るか、そういうのまで把握されているみたいだな。


「ただ、お前らのって改良されてるから発芽までそれなりに掛かると思うぞ。たしか……リミッターとか外して、利便性を増したとか言っていた気がするし」

「ふーん、そりゃあいいんだけどよぉ。もう一個見せてくれねぇか?」

「もう一個? ……ああ、アレか」

「そう、やっぱり気になんじゃねぇか」


 アレと言われただけで理解できるのは、やはり男同士だからか(片方はTSだが)。
 準備のために自らへ魔法を施してから、改めて……今度は水晶を手に持って告げる。


「──『開花』」


 今度は橙色の服やマント、鎧などを身に纏い、剣と盾を握り締めて完成だ。
 灰色の装備ではないそれは──『勇者』と呼ぶに相応しい風格を放っている。


「とまあ、こんな感じだよ。問題は……見て分かるよね?」

「いちいち変身しねぇといけねぇのか」

「そういうこと。『装華』って、本人に合せているみたいだから、私の方が合せないと使えないんだよねー」

「普通は諦めんだろうなぁ……」


 使える物は異性専用装備でも使え、なんて格言を作っておくべきだろうか?
 なんてことを考えながら、『勇者』の武器で遊ぶのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???


「──と、いうわけで繋げてみました」

「ひっさしぶりー!」

「……メルス、君はいつも想定外の行動を取るね。少なくとも私は、他の世界の神と連絡など取れずにいたんだよ。トービスーイ、久しぶりだね」

「うん、とーっても久しぶり。けど……なんだか小さくなったね。話には聞いていたんだけど、やっぱり少し驚いちゃった」


 神の意思が表面化する不思議な場所にて。
 赤色の世界の神と橙色の世界の神が、長い時を経てついに相見える……そんな状態だ。


「一回目は接続に俺が関わっていたが、以降は俺が居なくても好きに話せるようになると思う。互いに事情でも話したらどうだ? 俺が居ないなら、例の誓約も無いんだろう?」

「……わざわざすまない。積もる話もある、そういった機会も設けよう」

「そうだねー。カカみたいな堅物が、こんなに丸くなるなんて思ってなかっ──ヒッ!」

「それ以上は言わない方がいいだろう……そうだろう、トービスーイ?」


 超高速で首を縦に振動させる橙神(仮)。
 なんだかこう、神の中にも上下関係があると分かる光景だ。


「なあ、カカ。コイツの名前が長いからなんて呼ぶか悩んでいるんだが……どうすれば良いと思う?」

「君はマイペースだな。私は彼女をすべて呼ぶが、他の神にはトイと呼ぶ者が居たよ」

「トイ……『玩具トイ』、それがよさそうだ」

「あ、あのー、物凄く嫌な予感がするんですけど、えっ? もしかしてみんな、彼と同じ理由でトイって呼んでたの?」


 仕方ないので話を進め、俺のことを呼び捨てにさせる代わりにそのまま呼び続けるということに決まる。

 ……決まった後、首を傾げていた気もするが知らぬ存ぜぬのふりをしておいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌

力水
ファンタジー
 楠恭弥は優秀な兄の凍夜、お転婆だが体が弱い妹の沙耶、寡黙な父の利徳と何気ない日常を送ってきたが、兄の婚約者であり幼馴染の倖月朱花に裏切られ、兄は失踪し、父は心労で急死する。  妹の沙耶と共にひっそり暮そうとするが、倖月朱花の父、竜弦の戯れである条件を飲まされる。それは竜弦が理事長を務める高校で卒業までに首席をとること。  倖月家は世界でも有数の財閥であり、日本では圧倒的な権勢を誇る。沙耶の将来の件まで仄めかされれば断ることなどできようもない。  こうして学園生活が始まるが日常的に生徒、教師から過激ないびりにあう。  ついに《体術》の実習の参加の拒否を宣告され途方に暮れていたところ、自宅の地下にある門を発見する。その門は異世界アリウスと地球とをつなぐ門だった。  恭弥はこの異世界アリウスで鍛錬することを決意し冒険の門をくぐる。    主人公は高い技術の地球と資源の豊富な異世界アリウスを往来し力と資本を蓄えて世界一を目指します。  不幸のどん底にある人達を仲間に引き入れて世界でも最強クラスの存在にしたり、会社を立ち上げて地球で荒稼ぎしたりする内政パートが結構出てきます。ハーレム話も大好きなので頑張って書きたいと思います。また最強タグはマジなので嫌いな人はご注意を!  書籍化のため1~19話に該当する箇所は試し読みに差し換えております。ご了承いただければ幸いです。  一人でも読んでいただければ嬉しいです。

処理中です...