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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と橙色の世界 その16
しおりを挟む夢現空間 修練場
「結局、お前の装備ってどんななんだよ」
カナタがそれを訊いてきたのは、眷属全員に『種思』を配ったからだ。
多少眷属が弄ったので、橙色の世界のシステムから逸脱した不正品になりそうだが。
「と、言われてもな……こういうのって、二回目に行った時の方が良くないか?」
「そんな一巻ずつ開示していく方式取ってんじゃねぇよ。あと、そういうヤツって本編はまだでも練習相手とかには開示してんぞ」
「それもそうだな……なら、『開花』」
名前を告げると、蕾は花開く。
それは全身を包む装備となり、手には武器が握られる。
花の鮮やかな色などなく、その色は灰色。
武器は指貫グローブ、ただそれだけだ。
「くはっ……厨二かよ!」
「……なんでこんななんだかなぁ。まあ、その分お前のときはからかってやるからな」
「ハッ! メルスのそのクソ恥ずかしい装備よりは絶対にマシだろうよ! ……ところで能力は、どんな感じなんだよ」
「まあ、別に良いけど」
すでに能力は把握してあるので、カナタにその内容を開示する。
最初は笑っていたのだが……話が進むにつれて、顔が引きつり始めた。
「……相変わらずのチート野郎だな」
「今回は理由が分からん。仮説だと、{感情}の影響で俺の精神情報を読み取りづらかった結果らしい。だがまあ、それだとこの形状になった理由が付かないんだとか」
「ふーん、なら俺はそれ以上のカッコイイ武器を創りだすだけだ」
「そんなこと言って、チューリップとかになるんじゃねぇのか?」
まあ、チューリップの中には『王者』的な感じの花言葉が有った気がするし……悪いわけでもないんだけどな。
ただやっぱり、童謡があるからなんとなく愛らしいイメージが残ってしまっている。
それに今のカナタは……ああ、そういえばピッタリな花が。
「うん、それか百合だな」
「……ヲイ、どういう理由でそれにした」
「いやだって、ほら……ねぇ、コアさん」
「! ……んだよ、脅かすなよ」
その反応がすべてを物語っていた。
ちなみにコアさんは後ろではなく、カナタが首を回してもギリギリ視界に入らない辺りの後方で俺たちを見ている。
……どっちで後ろを見るか、そういうのまで把握されているみたいだな。
「ただ、お前らのって改良されてるから発芽までそれなりに掛かると思うぞ。たしか……リミッターとか外して、利便性を増したとか言っていた気がするし」
「ふーん、そりゃあいいんだけどよぉ。もう一個見せてくれねぇか?」
「もう一個? ……ああ、アレか」
「そう、やっぱり気になんじゃねぇか」
アレと言われただけで理解できるのは、やはり男同士だからか(片方はTSだが)。
準備のために自らへ魔法を施してから、改めて……今度は水晶を手に持って告げる。
「──『開花』」
今度は橙色の服やマント、鎧などを身に纏い、剣と盾を握り締めて完成だ。
灰色の装備ではないそれは──『勇者』と呼ぶに相応しい風格を放っている。
「とまあ、こんな感じだよ。問題は……見て分かるよね?」
「いちいち変身しねぇといけねぇのか」
「そういうこと。『装華』って、本人に合せているみたいだから、私の方が合せないと使えないんだよねー」
「普通は諦めんだろうなぁ……」
使える物は異性専用装備でも使え、なんて格言を作っておくべきだろうか?
なんてことを考えながら、『勇者』の武器で遊ぶのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「──と、いうわけで繋げてみました」
「ひっさしぶりー!」
「……メルス、君はいつも想定外の行動を取るね。少なくとも私は、他の世界の神と連絡など取れずにいたんだよ。トービスーイ、久しぶりだね」
「うん、とーっても久しぶり。けど……なんだか小さくなったね。話には聞いていたんだけど、やっぱり少し驚いちゃった」
神の意思が表面化する不思議な場所にて。
赤色の世界の神と橙色の世界の神が、長い時を経てついに相見える……そんな状態だ。
「一回目は接続に俺が関わっていたが、以降は俺が居なくても好きに話せるようになると思う。互いに事情でも話したらどうだ? 俺が居ないなら、例の誓約も無いんだろう?」
「……わざわざすまない。積もる話もある、そういった機会も設けよう」
「そうだねー。カカみたいな堅物が、こんなに丸くなるなんて思ってなかっ──ヒッ!」
「それ以上は言わない方がいいだろう……そうだろう、トービスーイ?」
超高速で首を縦に振動させる橙神(仮)。
なんだかこう、神の中にも上下関係があると分かる光景だ。
「なあ、カカ。コイツの名前が長いからなんて呼ぶか悩んでいるんだが……どうすれば良いと思う?」
「君はマイペースだな。私は彼女をすべて呼ぶが、他の神にはトイと呼ぶ者が居たよ」
「トイ……『玩具』、それがよさそうだ」
「あ、あのー、物凄く嫌な予感がするんですけど、えっ? もしかしてみんな、彼と同じ理由でトイって呼んでたの?」
仕方ないので話を進め、俺のことを呼び捨てにさせる代わりにそのまま呼び続けるということに決まる。
……決まった後、首を傾げていた気もするが知らぬ存ぜぬのふりをしておいた。
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