上 下
1,380 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その12

しおりを挟む


 魔粉は空を飛び、華都を目指す。
 目的地は華都の中央に存在する塔……部位的に言えば雌蕊の辺りだ。

 そこに魔粉が辿り着き、彼らの目的を果たした場合──華都は地に墜ちる。
 なのでそれを避けるため、装華を纏って人族たちは戦うのだ。

「基本、受け身しか取れていないのは相手が世界の表面すべてを侵略した相手だから。焼き払っても生えてくるので、もう諦めたってところだな」

 地道に少しずつ倒していき、いつか魔粉たちを殲滅して地上を取り戻す……彼らはそのために戦い続ける。

 きっとそれでも、いつか届いただろう。
 今は魔術で倒し切れない魔粉も、術式の効率化や対魔粉特化にカスタムすることで威力の増幅を図ることは可能には可能だし。

「けど、今はリアが居る。そんな遠い未来よりも、彼らは近い今を取る」

 魔粉の完全排除が行えていることには気づかないだろうが、リアの魔法が相応に火力が高いことには気づいているだろう。

 この世界の人々でも魔法は使えると思うのだが、今は魔術の方が一般的だ。
 ……例外は七大属性に属さない魔法、リアが演じている精霊魔法や時空魔法とかだな。

 魔術で再現できないからこそ、彼らはそういったものを魔法と呼ぶ。
 そして、それゆえに可能なのだと期待するのだ──根拠のない理想に縋り。

 魔法使いの情報を集めたところ、指の数ほどはおり大半の者が戦果を挙げている。
 ならばリアも、そういった結果を出してくれる……彼らは勝手にそう思う。

「期待は信頼に、信頼は信用に……勝ち得れば勝ち得るほど、俺たちは自由になる」

 今は情報が足りないので、この華都ラーバに協力している。
 だが、いずれはこの世界すべてを知り得なければならない。

 赤色の世界は橙色の世界と繋がった。
 そして、この世界もまたおそらく黄色の世界と繋がる扉を有している。

 それを見つけなければ、俺はその先で偽善が行えない。
 ……いやまあ、それ以外にも理由はあるんだけどさ。

  □   ◆   □   ◆   □


 聖霊に化けてこっそり行動をしているが、それを咎められたことは一度もない。
 これはこの世界に精霊に関わる種族が居ても、聖霊を見たことが無いからだ。

 なので聖霊眼は存在せず、俺の行動は把握されない。
 感じ取れたのは『勇者』のみ、そんな彼女も現在は魔粉と戦闘中だ。


「だからこそ、俺は今自由な状態にあるわけだ──“聖霊変質チェンジスピリット”」


 聖霊としての本質、宿す属性を変更する。
 もっとも目的に合った属性──土へと。


「──“砂漠化デザート”」


 地面に俺の足が触れた途端、そこからすべてが砂と化していく。
 抵抗など関係なく、思いっ切り聖霊の力で魔法を行使したからである。

 魔粉はもとを辿れば花から生まれた存在。
 正確には、大地の力を吸い上げて花粉を強化したモノだ。

 なので魔粉は倒しても意味はなく、ただ次の魔粉を花を生みだすだけ。
 魔術ではできない高火力──それを使い、根っこから花を消し去る。

 そうすれば、魔粉の数は減る……まあ、時間が経てば勝手にまた花が生えるんだけど。
 魔粉は受粉以外にも、タンポポのように自らの種を飛ばす機能もあるらしいからな。


「──“吸水土壌ランドウォーター”」


 水分を奪い去り、土壌の状態を悪くする。
 しばらく生えないようにするには、枯らすだけでは済まないからだ。

 とまあ、ここまでは一方的に魔法を使うことができたが、花や魔粉もそろそろ黙ってはいられなくなったようだ。

 この世界に存在したであろう魔物、それを花粉によって再現しだす。
 ……最大限の警戒をしてくれたのか、かなり巨大なサイズになりそうだ。


「──“人形作製クリエイト・ドール”」


 完成する前に、こちらも数を補う。
 触媒が砂のため、『砂人形』という魔物になったな……レベルは50だ。

 そして、相手の生成が完了する……見た目はデッカイ巨人だった。
 しかし光景がアレだな……うん、巨神兵みたいな感じになってる。


「さながら俺たちは、兵団ってところか──“衣土ソイルクロス”、“岩石鎧ロックアーマー”」


 土属性系統の魔法を使って、人形たちに装備を与えておく。
 高機動とかはできないが、ワイヤーを用いたアクションぐらいはできそうだ。


「行くぞ、人形たち!」


 人形の数は百、巨人の数は十。
 装備を与えているとはいえ、レベルに差があるため少しずつ人形の数が減らされる。

 だがそれでも、どうにか人形たちも巨人に攻撃を続け……まあ、二体ほど倒した。


「って、巨人が増えているな。なら、俺も増やすか──“土壌改良インプルーブ・オブ・ソイル”、“人形作製”」


 花の育たない土壌を一部改良し、人形の硬度を高める。
 先ほども装備を一瞬で砕かれていたので、これをするだけでも生存率が上がるだろう。


「これじゃあイタチごっこになること間違いなしか……仕方ない。サクッとやるとしますか──“乱震発度マグニチュード”」


 ランダムの震度で地震を魔法だが……どうやら、運がいいようだ。
 発生した地震の震度は7ぐらい、思いっ切り揺れ動く地面に巨人も人形も倒れ伏す。


「あとは……人形から“土槍ソイルランス”」


 刺し穿たれる土の槍。
 硬度を増したり装備を纏わせた人形が触媒となり、体の近くで槍を突き刺していく。

 巨人たちはいっせいに力尽き、粉状になって空気に飛ばされる。
 ……辺りの養分も使いまくったんだ、しばらくは休めるな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...