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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と橙色の世界 その12
しおりを挟む魔粉は空を飛び、華都を目指す。
目的地は華都の中央に存在する塔……部位的に言えば雌蕊の辺りだ。
そこに魔粉が辿り着き、彼らの目的を果たした場合──華都は地に墜ちる。
なのでそれを避けるため、装華を纏って人族たちは戦うのだ。
「基本、受け身しか取れていないのは相手が世界の表面すべてを侵略した相手だから。焼き払っても生えてくるので、もう諦めたってところだな」
地道に少しずつ倒していき、いつか魔粉たちを殲滅して地上を取り戻す……彼らはそのために戦い続ける。
きっとそれでも、いつか届いただろう。
今は魔術で倒し切れない魔粉も、術式の効率化や対魔粉特化にカスタムすることで威力の増幅を図ることは可能には可能だし。
「けど、今はリアが居る。そんな遠い未来よりも、彼らは近い今を取る」
魔粉の完全排除が行えていることには気づかないだろうが、リアの魔法が相応に火力が高いことには気づいているだろう。
この世界の人々でも魔法は使えると思うのだが、今は魔術の方が一般的だ。
……例外は七大属性に属さない魔法、リアが演じている精霊魔法や時空魔法とかだな。
魔術で再現できないからこそ、彼らはそういったものを魔法と呼ぶ。
そして、それゆえに可能なのだと期待するのだ──根拠のない理想に縋り。
魔法使いの情報を集めたところ、指の数ほどはおり大半の者が戦果を挙げている。
ならばリアも、そういった結果を出してくれる……彼らは勝手にそう思う。
「期待は信頼に、信頼は信用に……勝ち得れば勝ち得るほど、俺たちは自由になる」
今は情報が足りないので、この華都ラーバに協力している。
だが、いずれはこの世界すべてを知り得なければならない。
赤色の世界は橙色の世界と繋がった。
そして、この世界もまたおそらく黄色の世界と繋がる扉を有している。
それを見つけなければ、俺はその先で偽善が行えない。
……いやまあ、それ以外にも理由はあるんだけどさ。
□ ◆ □ ◆ □
聖霊に化けてこっそり行動をしているが、それを咎められたことは一度もない。
これはこの世界に精霊に関わる種族が居ても、聖霊を見たことが無いからだ。
なので聖霊眼は存在せず、俺の行動は把握されない。
感じ取れたのは『勇者』のみ、そんな彼女も現在は魔粉と戦闘中だ。
「だからこそ、俺は今自由な状態にあるわけだ──“聖霊変質”」
聖霊としての本質、宿す属性を変更する。
もっとも目的に合った属性──土へと。
「──“砂漠化”」
地面に俺の足が触れた途端、そこからすべてが砂と化していく。
抵抗など関係なく、思いっ切り聖霊の力で魔法を行使したからである。
魔粉は本を辿れば花から生まれた存在。
正確には、大地の力を吸い上げて花粉を強化したモノだ。
なので魔粉は倒しても意味はなく、ただ次の魔粉を花を生みだすだけ。
魔術ではできない高火力──それを使い、根っこから花を消し去る。
そうすれば、魔粉の数は減る……まあ、時間が経てば勝手にまた花が生えるんだけど。
魔粉は受粉以外にも、タンポポのように自らの種を飛ばす機能もあるらしいからな。
「──“吸水土壌”」
水分を奪い去り、土壌の状態を悪くする。
しばらく生えないようにするには、枯らすだけでは済まないからだ。
とまあ、ここまでは一方的に魔法を使うことができたが、花や魔粉もそろそろ黙ってはいられなくなったようだ。
この世界に存在したであろう魔物、それを花粉によって再現しだす。
……最大限の警戒をしてくれたのか、かなり巨大なサイズになりそうだ。
「──“人形作製”」
完成する前に、こちらも数を補う。
触媒が砂のため、『砂人形』という魔物になったな……レベルは50だ。
そして、相手の生成が完了する……見た目はデッカイ巨人だった。
しかし光景がアレだな……うん、巨神兵みたいな感じになってる。
「さながら俺たちは、兵団ってところか──“衣土”、“岩石鎧”」
土属性系統の魔法を使って、人形たちに装備を与えておく。
高機動とかはできないが、ワイヤーを用いたアクションぐらいはできそうだ。
「行くぞ、人形たち!」
人形の数は百、巨人の数は十。
装備を与えているとはいえ、レベルに差があるため少しずつ人形の数が減らされる。
だがそれでも、どうにか人形たちも巨人に攻撃を続け……まあ、二体ほど倒した。
「って、巨人が増えているな。なら、俺も増やすか──“土壌改良”、“人形作製”」
花の育たない土壌を一部改良し、人形の硬度を高める。
先ほども装備を一瞬で砕かれていたので、これをするだけでも生存率が上がるだろう。
「これじゃあイタチごっこになること間違いなしか……仕方ない。サクッとやるとしますか──“乱震発度”」
ランダムの震度で地震を魔法だが……どうやら、運がいいようだ。
発生した地震の震度は7ぐらい、思いっ切り揺れ動く地面に巨人も人形も倒れ伏す。
「あとは……人形から“土槍”」
刺し穿たれる土の槍。
硬度を増したり装備を纏わせた人形が触媒となり、体の近くで槍を突き刺していく。
巨人たちはいっせいに力尽き、粉状になって空気に飛ばされる。
……辺りの養分も使いまくったんだ、しばらくは休めるな。
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