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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その11

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「リアの[睡蓮]、全然使わなかったな」

「そういえばそうだねー。けど、ああいうときは使いづらいものなんじゃないかな? ほら、どちらかというと集団戦とかで使った方がいいし」

《そもそも、まだ身内以外には見せていない能力だからね。ああいう場では、使わないことにしているんだよ》

「便利だからな……まあ、使わないならそれはそれでいいんだが」


 リアはまた、お偉いさんの所へ向かった。
 俺は面倒臭いので外へ向かい、その付き添いとしてユラルがいっしょに居る。

 何かあればすぐに連絡ができるし、そもそも俺はあまり堅苦しい場所が好きではない。
 ……ジークさんとかだったら、そういうのは無しにしてくれるんだけどな。


「ところでメルスン、結局摸倣できたの?」

「ん? まあ、できたにはできたんだが……一つだけ、問題が有ってな」

「問題? メルスンなのに珍しいね」

「いやまあ、そうなんだが……仕方ないというかなんというか」


 ギリギリではあるが、『模宝玉』によって『勇者』の装華である[橙雪]の解析は完了し──その力を我が物にフルコピーできた。

 だが、少しだけ俺の望んだ形では無かったこと、そしてその具体的な理由をユラルに説明してみる。


「──というわけなんだ」

「……それ、デメリットかな? だってメルスン、いつも気にしないじゃん」

「い、言ってくれるな。まあ、使う場所を限られるようになったわけだ。少なくとも、今のままじゃアウトだな」

「……私も、見たくはないかな?」


 俺も同意なので、コクリと頷く。
 せっかくのレア装備ではあるが、本当に危機的な状況か余裕があるときぐらいしか使えなくなってしまった。

 まあ、リアの装華のときから分かっていたことなんだが……言うのを忘れていたのだ。
 いずれ、ギーになんとかできないか相談する案件だな……これも忘れそうだけど。


「ところでさ、メルスン。いつまで滞在している予定なの?」

「……とりあえず、リアが他の華都に行けるようになるまでだな。あの話から考えるに、他の選ばれし者の力も装華としてお偉いさんの血族に継がれていそうだからな」

「みたいだね。けど、『魔王』も人族の装華にあるのかな? まだこの世界で、魔族も魔人族も見ていないけど」

「……そういやそうだな。けど、魔族が居る華都もあるんじゃないか? 人族との関係性が分からないから、それが公式に明らかにされているかは別として」


 そういう部分もリアに探ってもらっているし、俺は俺で書物から探してはいる。
 だが見つからない……というか、存在が分かっても向かうことができない。

 この華都は飛んでいる。
 それゆえに、同じ場所には存在せず常に風に乗って世界を渡る性質を持つ。

 おそらく他の華都も同じ。
 何かしらの手段をここで見つけなければ、他を訪れることはできないだろう。


「……ん、警報か?」

「これ、私たちが来たときに鳴っていたのと少し似ているね」

《アレは判別できていないナニカがここに来たときになるんだって。こっちは正体が判明している場合──魔粉の襲来だって》

「あー、処理するのを忘れてたな。一宿一飯的なノリでやっていたけど、こっちへ来るために帰っちゃったからか」


 いちおう殲滅はしておいたが、その程度で終わるのであればこの世界の人々も苦労しない……何度でも蘇る悪夢、魔粉は一部でそう恐れられているらしいし。


《とりあえず、ぼくとライカちゃんの出動が決まったね。メルスたちはどうする?》

「ユラル、どうするか」

「あれ、メルスンは行かなくていいの? ほら、リアンを飛ばさないと」

「ユラルでもできるだろう? それに、これ以上『勇者』に怪しまれるのは避けたいし」


 さっき模倣を行おうとしたとき、確実に彼女は俺の魔力に気づいていた。
 ユラルの力で細工して二度目はどうにか誤魔化したが、表だって戦えばバレるだろう。


「じゃあ、メルスンは何をするの?」

「どうしようかな……魔粉に対処するなら、聖霊単独でもどうとでもなるからな。まあ、散歩でもしながら適当に刈り取ってみるよ」

「分かった。じゃあ、私はリアンの方に行ってサポートしてくるね」

《ああ、よろしく頼むよ》


 ユラルなら、対象を浮かす樹を生やすことができるので俺が出ずともなんとかなる。
 それよりも……リアという存在がこの世界に必要だと証明しておきたい。


「装華でないと、魔粉は処理できない。魔法でもできるが……それは知られていない。あと、魔術だと単純に火力が無いんだよな」


 魔力の問題だ。
 魔法は籠める魔力を増やすことで威力を増しているが、魔術は発動した術式の中で威力に関するパロメーターを上げて高める。

 あと、装華は特攻効果があるようだ。
 人が魔粉に対抗する手段……はたして、どちらが先に誕生したんだか。


「けど、それは結局魔粉はそれぞれ個体ごとに排除する手段。一つ倒せば、また一つ増えるだけ……この世界には対抗手段が用意されていなかったのか?」


 幸いにして、聖霊の状態であればそれを実行することが可能だ。
 ユラルも気づいているので、それをリアが行えると間接的に見せることもできる。

 ──今回の功績で、ぜひとも別の華都に行けるようになりたいものだ。


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