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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と橙色の世界 その07
しおりを挟む魔粉とは、魔物の形を得た花粉のことだ。
魔核などは持っておらず、倒せば花粉が辺りに散るだけ……生産性の無い魔物である。
しかし人族が花粉を吸ってしまうと、体に害が及んでしまう。
それに耐性を持った人々が、武器を手に取り魔粉と戦っている……それが世界観だ。
「メルスン、メルスンはどうしたいの?」
「と……言われてもな」
できるだけ早くと言われたが、すぐに来てくれとは言われていないので魔法は使わないでただ急ぐだけ。
なので会話をする余裕があり、飛行中にユラルからそんな問いがされた。
「魔粉とかいうの、アレってみんなの迷惑になっているよ。こっちだと魔族を一人も見ていないくらいだし……早くなんとかするべきなんじゃないかな?」
「ユラル、俺は偽善者を……いや、今は止めておくか。たとえばだぞ、俺とユラルの力を全力全開で振るって魔粉をどうにかするとする。それをリアの手柄にしたとき……この世界の奴らはなんて思うんだ?」
「えっと……そりゃあ、ありがとうって思ってくれるんじゃないの?」
「不正解。こう言うだろうな──この化け物が! とかな」
強すぎる力は孤独を生みだす。
そんな異端児たちが無数に居るAFO世界ならともかく、赤色の世界にそんな者は一人も居なかった。
ならば、橙色の世界もまた同じだろう。
特出した力なんてなく、みんなで力を合わせて魔粉という脅威と戦っている。
「何もしないって、わけじゃない。ただ、相応の役割ってのを重視しているんだ。これもたとえだが、精霊が勝手に主を無視して戦い続けても、主のためにはならないだろう? それと同じだよ」
「あんまり想像できない話だけど……たしかにそうだよね、けど、化け物呼ばわりは少しひどいんじゃないかな?」
「うちの眷属、終焉の島のヤツはほとんどそうだと思うけど……お前も含めて」
「うぐっ、それは……そうだけど」
ユラルはある意味親殺しみたいなスキルを恐れられ、終焉の島に隔離された。
忘れていたのだろうか……まあ、そっちの方が俺は嬉しいんだけど。
「そういえば、そうだったよねぇ……みんなと居るのが当たり前になってたから、すっかり忘れちゃってたよ」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるな。今日のデザートには樹液系のヤツを混ぜよう」
「本当!? メルスンの料理はなんでも美味しいけど、やっぱり樹液料理は中でも一番だと思っているよ!」
「ははっ、そりゃあありがたい……っと、そろそろ着くか。ユラル、リアに連絡してくれないか? その間に俺はアレを準備する」
地上から華都ラーバへ移動し、リアの居る座標までさらに向かう。
そこは前回同様、雄蕊の一つが建物と化している場所だ。
◆ □ ◆ □ ◆
そこには人々が集められていた。
少し前、そこではリアの持つ魔法──と思わせている──精霊魔法のテストをさせられた場所である。
ちなみに代表者は建物の上に住んでいた男ではなく、この華都の都長とかいう役割を担う老人であった。
「よくぞ招集に応えてくれた、リアよ」
「気にしないでいいよ。それで、ぼくが今回呼ばれたのは会わせたい人が居るから、という理由だったはずだけど?」
「うむ。貴殿にはこの華都が誇る最高戦力である者と戦ってもらいたいのだ」
「……模擬戦かい?」
最高戦力、という話は聞いたことがある。
俺もレアな装華を視れると思って探していたのだが、誰かが特定できなかったのでまだ見つけられなかったのだ。
「それにしても、ぼくはその人を知らないんだけど……相手はぼくのことを知っているのかな?」
「そうであった。そやつは少々自由な気質であってな、貴殿の話をしてようやくこの場に来ることに応えたようなものだ」
「へぇ、そんな人に認めてもらえるなんて光栄だよ。それで、どんな人なんだい?」
「うむ。語らずとも、会う方がよかろう──『ライカ』よ、入ってきなさい」
ライカ、と呼ばれた者は……現れない。
しばらく静かに待っていたが、少しずつざわつき始める。
ちなみに老人は……こめかみがピクピクと小刻みに震えていた。
どうやら想定外のようで、大きく息を吸うとその勢いのままに叫ぶ。
「ライカーーーッ! すぐに来なさい!!」
声に耳がキーンとなり、それが治るぐらいの時間をさらに要した。
老人もこれ以上は何も叫ばなかったが、静かに怒っている気がする。
これ、もし来なかったらとんでもないことが起こるんじゃ……なんて考えていると、新たな気配が現れたことに気づく。
「……もー、おじーさまうるさーい。せーっかくお昼寝してたんだからー。もーう、静かにしてよねー」
「今日は大事な日だと言ってあっただろう。ほれ、リア殿がいらっしゃるだろう!」
「んー? あー、この人がー?」
「初めまして、ライカちゃん。ぼくはリア、遠くから来た旅人さ」
ちゃん、と付けた通り現れたのは少女だ。
橙色の髪をした、気だるげな瞳を向ける中学生ぐらいの背丈の女の子。
「えっとー、挨拶だよねー? わたしはー、『ライカ・ペンタス』ー。いちおーここでー『勇者』をやらせてもらってまーす」
「……勇者?」
どうやら、一人目が見つかったようだ。
前回に比べて、早すぎやしないか?
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