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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その06

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「メルスン、ここなら見つかりそうだね」

「ここは……模擬戦場か?」

「やっぱり、体が鈍っちゃうからじゃないかな? こうして使っていれば、何か意味がある……とかね」

「けどまあ、誰も居ないな」


 ユラルが見つけてくれたそこは、結界も構築されていない舞台場だった。
 しかし魔力は確認されている……もしかして、結界の技術が無くなっているのか?


「いや、それはないか。たしか華都を包む感じで張ってあったし」

「結界のこと? ここに使う余裕が無かったとか、大きいのは作れなかった……とかかもしれないよ」

「そうだな……可能性はあるか。しかし、どこに行けばいいんだか。こういうとき、王道は学園なんだがな。やっぱりリアじゃあ……ダメだし」


 いや、だってリアちゃん(笑)だし。
 あんまり言及はしづらいが、彼女の肉体年齢と精神年齢は乖離している。

 学園には行けるだろうが、ほぼ間違いなく孤立するな……あと、眷属と言う存在である関係上、長期的にどこかで活動するのはいろいろと問題がある。

 ──俺の精神的に、な。


「けど、それ以外に方法って無いんじゃないのかな? あとは直接使っている場所に行くぐらいだし、メルスンはそういう所をどこか知らないの?」

「予想を立てるよりは、リアが聞いた話を聞いた方がいいんだけどな。ああ、そういえばさっき面白いアイテムが手に入ったぞ──ほらこれ、オンリーワンな花を咲かせて武器にする種らしい」

「へぇー、こんな物があるんだー。ねぇ、私でも育てられるかな?」

「リアでも発芽はできていたから、たぶんできると思うぞ。複製品だから成功するか分からないが……ユラル、とりあえずこれと同じ物が無いか探してみよう」


 普通に建物の中で闘うヤツを探すよりは、種思を探す方が堅実的だろう。
 ユラルは樹聖霊なので、植物を探すことが上手い……すぐに見つけてくれた。


「うーん……有ったには有ったけど、厳重に保管されているみたいだよ。咲かせられるのは一回だとしても、やっぱり悪用されると困るみたいだし」

「どうやって手に入れるか、リアに訊いてもらおう。簡単だったら頼むし、遠い場所なら好都合。複製したのが普通に成功すればいいけど……やってみるか」

「けど、そんな簡単にできるの? ……できちゃうんだ」

「いや、俺としても驚きだから」


 複製した種思に魔力を籠めてみたのだが、普通に芽が出てきた。
 どこで育てようかな……と考え、一番面白そうな場所で育てることに。


「メルスン、芽をどこにやったの?」

「魔導の中」

「そ、そんな簡単に纏められても……それ、本当に大丈夫なの?」

「環境は整っているからなー。ちゃんと定期的に水やりをしに行くし、きっと偽善者かモブに相応しい花が育つよ」


 育つまでにどれくらいの時期を要するかは分からないが、なんだかだいぶ時間が掛かる気がしてならない。

 リアに対する説明で聞いたのだが、過去には数年経ってようやく花を咲かせた者もいたらしい……ちなみにそれは、だいぶチートな能力を開花させたらしいけど。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 橙色の世界はだいぶ独自に進化した世界なのだと、認識せざるを得なかった。
 なぜならこの世界、魔法がほぼ存在していなかったからだ。

 来日から二、三日もすれば、それだけの情報を集めることができる。


「まさか、ここで魔術を見ることになろうとはな……魔法は先祖返りだけだってよ」

「なら私たちは全員、そういうことになるのかな?」

「……アンは魔術だし、共有すれば全員魔術が使えるだろう? ユラルって、そういえば魔術使えたっけ?」

「聖霊は魔法の方が得意だよ。自然現象そのものなんだから、消費を気にするよりも全力全開でぶっ放した方が楽だもん。だからこそ精霊魔法とかがあって、精霊の力を借りようとするんだから」


 精霊という概念そのものが、そもそも一つの魔法みたいなものだしなー。
 聖霊もまたその上位存在、魔力も多いしケチケチする必要なんてないんだろう。


「けど、魔法が皆無なのは驚きだったな……元の世界における神代魔法と同じくらい希少価値があるんじゃないか? 魔法を使うだけで一生食っていけそうだ」

「とは言っても、魔術じゃ使えない属性の魔法だけだけどね。リアの精霊魔法っぽい演技でそう言ってたし」

「なのに時空系は要らないって……装華ってそれを操るのもあるんだな。見たことないけど、まあリアに期待か」

「本当にねぇ……私たち、全然何もやってないけど、本当にいいのかな?」


 リアが矢面に立っているため、聖霊役である俺と本物のユラルは彼らと接触してない。
 別の場所で生まれた特殊個体、みたいな扱いを彼女に戦力を持たせないためだ。

 リアの装華も開花し、チート能力として彼女の強さを知らしめる理由の一つとなった。
 今では食客として扱われ、切り札として戦場を駆け抜けているんだとか。


《──メルス、ちょっといいかな?》

《はーい、急にどうした?》

《ようやく信頼を勝ち得たみたいだよ。他の人と接触できるみたいだ》

《はーっ、やっとか。ずいぶんと疑り深かったな……まあ、当たっているけど》


 もしかしたら<畏怖嫌厭>、そしてそれから生みだした個有スキルの影響もあるかもしれないが……俺への懐疑心が、契約線を通じてリアにも伝わっていたのかもしれないな。


《じゃあ、ユラルとそっちに行くから》

《了解したよ。できるだけ早く来てくれると助かるね》

《リアン、すぐに行くからね!》

《ああ、ユラルも早く来てくれ》


 とりあえず、辺りの掃除も終わった。
 ……ユラルは何もしていないと言ったが、それなりにやることはやっているんだ。

 ──殲滅した魔粉の群れを回収し、俺たちは華都へ帰還するのだった。


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