1,373 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と橙色の世界 その05
しおりを挟む「それで、私たちはどうするの?」
「リアが尊い犠牲となった今、俺たちを縛るモノは何もない……ほら、『装華』とかいうヤツが気にならないか?」
「そりゃあ……気になるけど」
「リアには茨があるし、死ぬことはない。それに契約線から呼びだされれば、すぐに対処もできる。……というか、疑問があるならユラルも残ればよかったんじゃないか?」
なんて会話が意味する通り、お偉い様と話すリアを置いて俺とユラルはそこを出た。
幸いにして、ここはご立派な建物の中……いつだってそこには武器が備わっている。
「だって……つまんなさそうだったし」
「共犯、共犯。リアにはいいお土産を提供するということで、勘弁してもらおうぜ」
《……ユラル、ぼくもそれでお願い。メルスが普段通りに話すのと、ぼくが矢面に出るのとどっちがマシだい?》
「あー。うん、分かったよ。メルスンの手綱は私が捌くから!」
俺のことを信じてはもらえないようだ。
そんな思いを籠めて寂しげな瞳をユラルに向けてみれば、逆にジト目を返されてしまい何も言えなくなる。
それなりに交渉術はあると思うし、その気になれば【友和交渉】でも使ってどうとでもできる……はずなんだけどな。
「まあ、別にいいけど。ユラル、それよりもどの辺りに兵器があると思う?」
「うーん。そう言われても……私たち、そのソウカとかいうのがどんな物か、まだ知らないんだよ?」
「これは俺の……というか、もう創作物のお決まりのパターンだ。あと、ユラルも分かっているはずだぞ? あの隊長が言っていただろ?『装華を纏わぬ者が、空を渡れるはずがないだろう』……ってさ」
「あっ、そうか! ……って、今のはダジャレとかそういうのじゃないからね!」
ポンッと手を付いてその解に辿り着き……すぐさまその手でアワアワと恥ずかしがる動きを表す。
いやまあ、可愛いんだけどさ。
すぐに頬を膨らませてこちらを睨んでくるのは、俺が誘導したことになったからか?
「ほら、さっさと探しに行こう。どうせバレないとはいえ、リアが話を終わるまでには合流しておきたいからな」
「はーい」
「装華ねぇ……隊長の話から察するに、全身装備系のヤツか? パターンからすれば、個人ごとに発現する物が異なるとか、そういう感じかもな……となると置かれてはいない」
「じゃあ、見つからないじゃん」
さすがに生まれたときから宿している、とかそういうタイプだと時間が掛かる。
模倣することは可能だろうから、手間が必要というだけだ。
「もし装華が登録式……何かしらのアイテムに血とか魔力を流すと契約できるとかそういうヤツなら、そうなっていない初期状態があるはずだ。華なんだし、ユラルが見れば再現可能かもしれない」
「……できることはやってみるけど、さすがに異世界の物となると難しいよ? 赤色の世界でやってみたけど、あっちの樹木を生やそうとすると凄く魔力が必要になるし」
「探すだけ探してみよう……さて、どこかにありますかな? ──“聖霊変質”」
こういうときに便利な属性に切り替え、もの探しに取り掛かる。
なーに、リアの状況は念話で把握しているからどうとでもなるだろう。
◆ □ ◆ □ ◆
スキル<千思万考>は、個有スキルに統合されている。
ちょっと前に向かった『宙艦』で使った、夢幻級と超越級スキルの合成、それが伝説級にまで及んだ結果だ。
《まあ、要するに性能が上がったってことだな。リア、そっちはどうなっている?》
「見ていれば分かるさ」
なんてことを言うので、視界を同調させて彼女が見ている光景を拝見させてもらおう。
意識体──体を動かしていない思考が映しだすのは、先ほどとは違う部屋だった。
「どうかしたのかな、リア殿?」
「いや、うんともすんとも言わなくてね。どういう風に使えばいいのか、あいにくさっぱり分からないんだ」
「では、一から説明しよう。まずその種、それは『種思』と呼ばれる物だ。ラーバでは、それを十歳になった子供たちが育てる。ちなみに、その年齢なのはそれ以前の年齢だとなぜか芽が出ないからだ」
「ふーん、不思議な花もあるもんだね」
リアは渡された種を受け取る。
それを手で弄ぶ……仕草を装い、一時的に共有させていた解析系のスキルを使ってこちらに情報を送ってもらう。
それによると、『種思』とは予想通り発芽することで育てた相手の在り方に沿った武装の構築を可能とする花らしい。
水をあげるのも土に植えるのも自由。
育てたことの無い者が魔力を籠めれば、それだけで勝手に育っていく。
ある意味魔力で育つ花と言えばいいのだろう、実際送られてきた情報にもAFO世界にある魔力で育つ花と似たようなデータがほんの少し確認されている。
「──というわけだ、理解できたかな?」
「つまり、これがあればぼくだけの武器が生まれるってことだね? 魔力を籠めることさえできれば」
「……信じられないことに、君はその見た目と相応の歳になっても種思の発芽を行わない環境にあったようだ。だからこそ、魔力を籠めることができている。すでに行った者がやろうとすれば、魔力が通らないよ」
「まずはやってみるよ。えっと、魔力を籠めれば育つんだっけ?」
リアが確認をするので、お偉いさんもコクリと頷く……しかしこれは、俺へのサインでもあった。
《もう複製は終わった。いっそのこと、そっちで試してみるか?》
《止めておくよ。いちおう本物を使った場合のデータが欲しいだろう?》
《そうだな、そっちで頼む》
そう話しあい、リアは本物の種思に魔力を籠め始める──すると、種はボウッと光を放ちふわふわと漂う。
突然若葉が出るわけでも、根っこが下に伸びるわけでもない……本当にファンタジーな花みたいだ。
「君が鉢植えを欲するのであれば、提供しよう。すると勝手に種思がそこに根を張る。たとえそこに土が無くてもだ」
「このままだとどうなるんだい?」
「君の周囲を漂うことになる。そう言った場合、咲く花はそれに似合う物になるね」
「そういうところも変化するんだ……なら、鉢植えと土を貰えるかな?」
リアがそういうと、用意されていた鉢植えと土が与えられる。
彼女は鉢植えの中に土を……入れるふりをして、土魔法を使って敷き詰めていく。
そして種をそこに埋めて、完成する。
うわっ、やったら本当に芽が出てきた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる