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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その05

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「それで、私たちはどうするの?」

「リアが尊い犠牲となった今、俺たちを縛るモノは何もない……ほら、『装華』とかいうヤツが気にならないか?」

「そりゃあ……気になるけど」

「リアには茨があるし、死ぬことはない。それに契約線から呼びだされれば、すぐに対処もできる。……というか、疑問があるならユラルも残ればよかったんじゃないか?」


 なんて会話が意味する通り、お偉い様と話すリアを置いて俺とユラルはそこを出た。
 幸いにして、ここはご立派な建物の中……いつだってそこには武器が備わっている。


「だって……つまんなさそうだったし」

「共犯、共犯。リアにはいいお土産を提供するということで、勘弁してもらおうぜ」

《……ユラル、ぼくもそれでお願い。メルスが普段通りに話すのと、ぼくが矢面に出るのとどっちがマシだい?》

「あー。うん、分かったよ。メルスンの手綱は私が捌くから!」


 俺のことを信じてはもらえないようだ。
 そんな思いを籠めて寂しげな瞳をユラルに向けてみれば、逆にジト目を返されてしまい何も言えなくなる。

 それなりに交渉術はあると思うし、その気になれば【友和交渉】でも使ってどうとでもできる……はずなんだけどな。


「まあ、別にいいけど。ユラル、それよりもどの辺りに兵器があると思う?」

「うーん。そう言われても……私たち、そのソウカとかいうのがどんな物か、まだ知らないんだよ?」

「これは俺の……というか、もう創作物のお決まりのパターンだ。あと、ユラルも分かっているはずだぞ? あの隊長が言っていただろ?『装華を纏わぬ者が、空を渡れるはずがないだろう』……ってさ」

「あっ、そうか! ……って、今のはダジャレとかそういうのじゃないからね!」


 ポンッと手を付いてその解に辿り着き……すぐさまその手でアワアワと恥ずかしがる動きを表す。

 いやまあ、可愛いんだけどさ。
 すぐに頬を膨らませてこちらを睨んでくるのは、俺が誘導したことになったからか?


「ほら、さっさと探しに行こう。どうせバレないとはいえ、リアが話を終わるまでには合流しておきたいからな」

「はーい」

「装華ねぇ……隊長の話から察するに、全身装備系のヤツか? パターンからすれば、個人ごとに発現する物が異なるとか、そういう感じかもな……となると置かれてはいない」

「じゃあ、見つからないじゃん」


 さすがに生まれたときから宿している、とかそういうタイプだと時間が掛かる。
 模倣することは可能だろうから、手間が必要というだけだ。


「もし装華が登録式……何かしらのアイテムに血とか魔力を流すと契約できるとかそういうヤツなら、そうなっていない初期状態があるはずだ。華なんだし、ユラルが見れば再現可能かもしれない」

「……できることはやってみるけど、さすがに異世界の物となると難しいよ? 赤色の世界でやってみたけど、あっちの樹木を生やそうとすると凄く魔力が必要になるし」

「探すだけ探してみよう……さて、どこかにありますかな? ──“聖霊変質チェンジスピリット”」


 こういうときに便利な属性に切り替え、もの探しに取り掛かる。
 なーに、リアの状況は念話で把握しているからどうとでもなるだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 スキル<千思万考>は、個有スキルに統合されている。

 ちょっと前に向かった『宙艦』で使った、夢幻級と超越級スキルの合成、それが伝説級にまで及んだ結果だ。


《まあ、要するに性能が上がったってことだな。リア、そっちはどうなっている?》

「見ていれば分かるさ」


 なんてことを言うので、視界を同調させて彼女が見ている光景を拝見させてもらおう。
 意識体──体を動かしていない思考が映しだすのは、先ほどとは違う部屋だった。


「どうかしたのかな、リア殿?」

「いや、うんともすんとも言わなくてね。どういう風に使えばいいのか、あいにくさっぱり分からないんだ」

「では、一から説明しよう。まずその種、それは『種思』と呼ばれる物だ。ラーバでは、それを十歳になった子供たちが育てる。ちなみに、その年齢なのはそれ以前の年齢だとなぜか芽が出ないからだ」

「ふーん、不思議な花もあるもんだね」


 リアは渡された種を受け取る。
 それを手で弄ぶ……仕草を装い、一時的に共有させていた解析系のスキルを使ってこちらに情報を送ってもらう。

 それによると、『種思』とは予想通り発芽することで育てた相手の在り方に沿った武装の構築を可能とする花らしい。

 水をあげるのも土に植えるのも自由。
 育てたことの無い者が魔力を籠めれば、それだけで勝手に育っていく。

 ある意味魔力で育つ花と言えばいいのだろう、実際送られてきた情報にもAFO世界にある魔力で育つ花と似たようなデータがほんの少し確認されている。


「──というわけだ、理解できたかな?」

「つまり、これがあればぼくだけの武器が生まれるってことだね? 魔力を籠めることさえできれば」

「……信じられないことに、君はその見た目と相応の歳になっても種思の発芽を行わない環境にあったようだ。だからこそ、魔力を籠めることができている。すでに行った者がやろうとすれば、魔力が通らないよ」

「まずはやってみるよ。えっと、魔力を籠めれば育つんだっけ?」


 リアが確認をするので、お偉いさんもコクリと頷く……しかしこれは、俺へのサインでもあった。


《もう複製は終わった。いっそのこと、そっちで試してみるか?》

《止めておくよ。いちおう本物を使った場合のデータが欲しいだろう?》

《そうだな、そっちで頼む》


 そう話しあい、リアは本物の種思に魔力を籠め始める──すると、種はボウッと光を放ちふわふわと漂う。

 突然若葉が出るわけでも、根っこが下に伸びるわけでもない……本当にファンタジーな花みたいだ。


「君が鉢植えを欲するのであれば、提供しよう。すると勝手に種思がそこに根を張る。たとえそこに土が無くてもだ」

「このままだとどうなるんだい?」

「君の周囲を漂うことになる。そう言った場合、咲く花はそれに似合う物になるね」

「そういうところも変化するんだ……なら、鉢植えと土を貰えるかな?」


 リアがそういうと、用意されていた鉢植えと土が与えられる。
 彼女は鉢植えの中に土を……入れるふりをして、土魔法を使って敷き詰めていく。

 そして種をそこに埋めて、完成する。
 うわっ、やったら本当に芽が出てきた。


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