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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と橙色の世界 その01

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 橙色の世界


 再び訪れたその地は、相も変わらず花の香りに満ちた温かな場所だった。
 しかしそれ以上に、甘い蜜というなの毒が蔓延した場所でもある。


「二人とも、体に異常は無いか?」

「問題ないよ」
「こっちも平気みたいだね」

「まあ、もともとこういう系に耐性があるとは思っていたから、安心だが……何かあったらすぐに言ってくれよ。ポーションなんて腐るほどあるんだから、すぐに使う」


 若葉色と銀色の少女たちにそう言い、大きく胸を張って深呼吸を行う。
 取り込んだ花粉を解析し、彼女たちに悪影響が無いか再確認をするためだ。

 一度来たときから少し時間が経っているのだが、花々の種類に変化は見受けられない。
 おそらく一年中同じ季節という、日本では考えられない気候なのだろう。


「今回の目的はこちらの世界の人との接触、あるいは飽きるまで探索だ。縛りは聖霊使いで、だからユラルに来てもらっている」

「急にどうしたの?」

「確認だよ、確認。リアは同行者だが、まあやることがないんだよな……どうする、いっそのこと逆にでもしてみるか?」

「逆って……」


 縛りは聖霊使いだが、それが意味する内容に関しては解釈が自由だ。
 なので今回、俺はとある提案を二人にしてみることに。


「つまりこういうこと──“生命之樹”」


 あらゆる因子から得た種族スキルを統合したスキルなのだが、使えば(因子注入)を使用せずとも瞬時に己の種族を書き換えられる。

 体はスッと半透明なものになり、元となった因子同様に髪や目が若葉色と化していく。
 何より自然と体が浮かび上がり、人ならざるものとしての存在感を放ち始める。


「聖霊使いになるんじゃなくて、聖霊として使われる……みたいなポジションってことにしよう。リア、悪いけど俺の代わりに偽善っぽいことをしてくれないか?」

「…………あ、ああ、それは構わないよ。ただ、いつもの姿に戻ってくれないかい?」
「そそ、そうだよメルスン。これじゃあ、ほら、キャラ被りってヤツだよ!」

「ユラル、そういうの気にしたっけ? まあ別に良いけど──これでいいか?」

「「うん、問題ないね」」


 なら、何が問題だったのだろうか?
 心当たりがあるのは因子を取り込んだ副次結果──<畏怖嫌厭>の解除だが、眷属はもともと気にしていないはずだ。

 けどまあ、ホッと息を吐いている二人から理由を問いただすのもアレなので止めておく。
 大切なのは、眷属のことであり……俺が眷属の不調の理由になるのは嫌だからな。


「それじゃあ、行こうか。……おっと、今はリアが主だった。ユラルもとりあえずやってみないか?」

「リアンなら、私もオッケーだよ。仮契約でも結んでおく?」

「っと、そういえばそんなのもあったな。リア、ちょっと手を出してくれ」

「……こうかい?」


 俺とユラルは伸ばされたリアの手に触れ、聖霊の魔力をリアの魔力と接続する。
 今回は簡易的な契約なので、それだけで契約が完了した。

 普通、簡易契約では精霊や聖霊の力を十全に使うことは不可能だが……そこは共に居た経験があるうえ、会話が成立しているのでどうとでもなる。


「これでいい……んだっけ?」

「うん、ちゃんと繋がってるね。リアン、私とメルスンの契約と違って、簡易契約は聖霊への魔力供給と簡単な指示を伝えるぐらいしかできないからね。もちろん、言ってくれればできるけど」

「念話より繋がりづらい指示だから、使わなくてもいいんだけどな。そもそも契約していないのに、話せる方が非常識らしいが。まあ使えるモノは使っていこう」


 俺には複雑な縛りが設けられているが、二人の縛りは装備品に関する物とスキルを共有してはいけないことだけ。

 俺が作ったオンリーワンな装備を、彼女たちは現在身に纏っていない。

 しかも最上級品が装備できないというだけで、神鉄系の素材をふんだんに使った装備を現在は装備しているし。

 その気になれば、世界征服ができるぐらいの戦力なんだよな……まあ、こっちの世界の選ばれし者がどれだけいるか分からないし、何より偽善ができないからやらないけど。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それから、近くを歩いてみようということになった。
 急ぐ旅でもないので、のんびりまったりとやっているわけだ。

 すでに周辺の散策は一度来たときに済ませているので、魔物がここら一帯にいないことは分かっている。
 ……その時点でいろいろおかしいけどな。


「……二人とも、どうしてぼくだけ歩かないといけないんだい?」

「だって、浮遊していないだろう?」
「こればかりはねぇ……ごめんね」

「くっ、共有させてくれれば……」

「しかたないなぁ──“聖霊変質チェンジスピリット”」


 ユラルの因子で樹聖霊となっていたが、魔法で属性を書き換えて──嵐聖霊となる。
 風と雷の事象を自在に操れるようになったので、さっそく求められた魔法を使う。


「リア、魔力をくれ。さっき繋いだ先へ籠める感じでな」

「えっと……こう、かい?」

「ああ、これで足りるな──“飛行フライ”」


 与えられた魔力のみを使って、リアを浮かせてあげる。
 ずっと俺が維持をしなければならないが、聖霊のスペックはそれを容易くこなす。

 ようやく楽ができると喜ぶリアを尻目に、ユラルの方を見る。


「……今回は、何も言わないんだな」

「メルスン自身がどうなると、今さら私には止めることはできないよ。それに、もともと異常だしな」

「ヲイ、人をなんだと思ってやがる」

「「異常者」」


 二人に揃って告げられ……少々落ち込む。
 どうせなら、もっといいことを言ってくれてもいいと思うんだけどな。


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