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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と市場荒らし 後篇
しおりを挟む迷宮の最深部にて、警戒音が木霊する。
何事かと慌てふためく男の耳に、その原因が告げられた。
≪迷宮の支配領域が減少しております。これにより、一部権限が使用不可となりました≫
「ハァアアア!? ど、どうなったらそうなるんだよ!」
≪不明。現在の支配領域内では、[解析]を実行することはできません≫
「チッ、魔物を嗾けたのが原因か? ともかく、さっさと次の策を──」
男は打開策を練ろうとする。
だがそれも、無駄だったと言えよう。
≪警告──≫
これか迷宮核によって、彼に伝えられるのは──
≪──権限による転移の発動を確……≫
「グギャギャギャギャ」
「……はっ?」
すでに起きてしまった、迷宮最深部への侵入者の情報だからだ。
◆ □ ◆ □ ◆
レンが[配置]による転移を行い、一気に最深部へ移動することができた。
そこには一人の祈念者が居り、こちらを口が開いた状態で見つめている。
俺はそんな彼に、予め(適当に)決めておいた口調で話しかけた。
「やあ、ご同朋。魔子鬼君だよ、今日は君の迷宮に遊びに来たんだ」
「デ、デミゴブリン君だと? てか、まさかお前もプレイヤーか?」
「だから言ったでしょう、ご同朋って。それに、こっちの意味でもご同朋なんだよ」
「これって……まさか、【迷宮主】!?」
元、だけどねと言って笑っておく。
本来は外すことのできない【迷宮主】なので、ズイッと男も近づいていくる。
「なあ、どうやったら外せるんだ? お前は無いのに、ここまで転移してきたんだろ?」
「魔子鬼君の場合、自分じゃなくて彼女に任せているんだ。ほら、挨拶して」
「初めまして。魔子鬼君の迷宮核です」
「まあ、そういうことだから。魔子鬼君が使えずとも、迷宮核がシステムを使えるのは当然だよ……ぐえっ、あんまり振らないで」
説明の最中だが、男は俺の肩を掴み激しくシェイクしだす。
うんうん、俺でも君が何を言いたいのか、よーく分かっているぞ。
「な、なあ、どうやったらそんな美少女のコアになるんだよ。お、教えてくれよ」
「なら、ちょっと核に触れせてくれる? もちろん、踏破とかはしないよ。……美少女、欲しくない?」
「わ、分かった……絶対にやらないでくれ」
念入りに忠告されたので、俺もその辺りは守っておくことにする。
迷宮核に触れると、踏破はせずにさまざまな術式を刻んでおいた。
その中には、迷宮核に新システムを追加させる……というものもあり。
「──う、うぉおおおお![召喚]に新しい商品が追加されたって! こ、これってまさか……!」
「そうだよ。『擬人形』って言うんだけど、取り込んだ物に少しでも意思があって、なおかつ持っていた人が心を籠めていれば擬人化してくれるって魔道具なんだ」
「そ、それでこんな別嬪さんが……マジか、このゲーム凄いな!」
ちなみにこれ、当然だが劣化版だ。
DPで『機巧乙女』を購入しようとしたなら、彼の迷宮のすべてを支払って足りないほどに膨大な額となってしまう。
なので誓約を入れることで、少々コストを抑えた廉価品を作っておいた。
いつだって男は……擬人化ヒロインを求めるモノだしな。
「げっ、ポイント高ッ! お前、よくもまあこんなに高いものが買えたな」
「魔子鬼君は市場じゃなくて、都市を造っているから。それに、初期勢だから地道に溜めたポイントもあったんだよ」
「あー、それでか。俺はダンジョンイベントの時が初イベントだったから、そこまで溜められてねぇんだよ」
「そっか、なら……こんな風にやってみたらどうかな?」
せっかくの後輩なので、DPを稼ぐコツをいくつか教えてみる。
ナックルがいろいろと考えたことを勝手に話してきたので、記憶だけはしてあった。
「──とまあ、こんな感じ。魔子鬼君も一部はやっているんだけど、繁盛しすぎちゃって止めたものも多いんだ」
「……先輩、凄いんだな」
「魔子鬼君で構わないんだけど? ちなみにここに来たのは、この原案を最初に教えてくれた人に訊いたからなんだ。面白い場所だよね、プレイヤーを引き込む市場なんて」
「いや、イベントの時に考えたんだよ。踏破されないようにするにはどうすればって。そしたらピカーンと閃いてさ、利益があれば誰も壊さねぇって」
イベントの最中に、それはちょっと違うんじゃないかな? とも思ったが、あまり気にしないでおく。
そういえばユウたちは高レベルな迷宮ばかり踏破していたらしいし、おそらく彼の迷宮はあえて低くすることで、踏破と維持の天秤に掛けることを強要していたのだろう。
「というか、【迷宮主】だったのに強いな。今は就いてないなら、どんな職業に就いているんだ?」
「無職。解除されたんだけど、そのやられ方が特殊……呪い付きなんだ」
「マジか……あっ、なんか困ったことがあったら連絡してくれよ。こっちも先輩に訊きたいことがあったら連絡するし」
「うん、よろしくね。後輩君」
そんなこんなで、偽名のまま[フレンド]機能で互いにリストに自分たちの名前を登録させておく。
彼と話すときはこの設定じゃないと……いずれバレるだろうけど、それまではどこまで持つか試してみようか。
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