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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と市場荒らし 前篇

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「グギャーーーーー!」

『な、なんだいきなり!』『棒を、振り被って……投げた!?』『──ゲヒュッ!』『アビョッ!』『ガッ!』『ぐふっ……くっ、あそこからここまで、いったいどんだけ距離があると思ってんだよ!』


 考えるのが面倒になってきたので、文字通りの相棒を勢いよくぶん投げてみる。
 油断して束になっていたので、一気に三人ほど屠ることができた。

 ちなみに六人パーティーが二組、そして魔物たちが十二体なので計二十四。
 磔にした男と倒した三人を差し引き、残りはあと二十一である。


「グギャ? グギャギャー!」

『お、おい、この棍棒が動いて……ギャ!』『自動帰還!? なんでデミゴブリンの棍棒なんかに付いてんだよ!』『おい、誰か奪えよ! 取ったら売れるぞ!』『もう無理だ、というか逃げろーーー!』

「グギャギャギャギャ!」


 今回の相棒は『樹聖霊の光棒』、まあユラル製の大樹から伐りだした棍棒だ。
 聖霊製なのか還元すれば戻ってくるし、どこかに光を当てれば耐久値も回復する。

 ちなみに、戻ってくるときに一人戦闘不能にすることができた。
 一部を物質化させた状態で還元すれば、物凄い勢いで突っ込む凶器になるからな。

 魔子鬼状態の俺はそれを掴み、ニッコリと笑みを浮かべる。
 そして、魔力を体中に巡らせて──魔物たちを棍棒で吹き飛ばす。


「…………はっ?」

「グギャギャ! ギャーギャッ!」

「グホゥ!」


 筋力に制限が掛かっているので、吹き飛ばすと言っても魔力を棍棒に一定量籠めたら解放、という手順を踏んでいる。

 なので魔物は死んでいない。
 死んだのは──その隙を突かれて脳天をかち割られた、近接職の祈念者だ。


「い、いい加減にしろよ! こっちももう油断しねぇ──“鎖泥チェインダート”!」

「ギャギャ!?」

「ざまぁ見ろ……って、は? グブゥ!」

「グギャギャギャギャ! ──ギャッ!」


 泥を敷いたようだが、魔子鬼だってそれぐらい対処可能だ(ソースはリーンの住民)。
 具体的にやっていることを説明するなら、魔力を足元に敷く……それだけである。

 油断して近づいていた祈念者は、見事に棍棒で叩かれたわけだ。
 油断しないと言っていたはずなんだが……反省できないみたいだな。


《主様、DPが溜まっていきますが》

《そうだな……とりあえず囲んで逃げられないようにしてくれ》

《では──『転移防止壁:50×9』を購入します》


 祈念者たちの居る場所には直接設置できないので、そこを囲むように壁を設置する。
 一つではあまり意味が無いのだが、一定領域を囲むことで効果を発揮する壁だ。


「くっ、こうなったら転移を……なっ、失敗だと!?」「そりゃあそうだろうよ、こんなタイミングでただの壁が出てくるわけねぇだろう!」「きっとそこのデミゴブリンか奥の女がやっているのよ。早くこっちを!」

「ギャギャギャギャ!」

「くそっ、“棘縛りソーンバインド”! 今だ、やれっ!」「うぉおおおお──“音速斬ソニックスラッシュ”!」「みんな離れて! ──“破氷槌アイスバンカー”!」

「グギャアアアッ!?」


 誰かが『や、やったか?』と言ってくれるのを期待していたのだが……残念なことに、彼らはフラグをしっかりと理解しているようで、『やっ……』となった瞬間止めていた。

 なので俺も仕方なく、そのまま体を縛る邪魔な棘を払って立ち上がる。
 何事も無かったかのように振る舞い、パンパンと纏わりつく氷を払う仕草を行う。


『な……ッ!?』

「ギャギャギャギャ! グギャァア!」

「ゲホッ!」「ゴホッ!」「カァッ!」

「ギャーギャギャギャ!」


 また油断したようなので、三人を棍棒で叩いて気絶させておく。
 しかしまあ……ずっと同じことばかりやっていると、飽きてくる。


《レン、突破の最適解をプリーズ》

《……もうよろしいのですか?》

《オレ、タタカウ、アキタ》

《畏まりました。では、指示通りに動いてみてください》


 レンの指示は至ってシンプル。
 細かいことはスキルを使わないとできない俺でも、スキルを追加せずにその作戦は実行可能だった。


「すぅ……グギャアアアアア!!」

『──ッ!?』

「グギャァア」


 とりあえず、咆えておけ。
 レンの指示はだいたいそんな感じだ。

 魔子鬼に変身しているものの、結局俺のレベルはそのまま。
 つまり、レベル差で発動するスキルなんかはほぼ確実に成功するわけだ。

 ちなみに使用したのはグラの種族でもある『三頭犬』の性質スキルである(青銅咆哮)を基盤に、いろんな叫ぶスキルを合成して創り上げた──“冥招絶叫ケルベロスクリーム”という技だ。

 ……ルビが雑なのは、命名をしたのが俺だからである。


「──ふぅ。しかし、こんなスキルを用意してあったなんて知らなかったぞ……本当、知らなかったなー」

「これは主様が使うためのモノではなく、眷属が自分用に開発していたスキルです。主様はそこまでプライベートに干渉しますか?」

「うぐっ……た、たしかに、それなら俺が確認しておけばよかっただけの話か。ごめん、レン。八つ当たりして」

「私たちは理解しておりますので。気にしておりませんよ。何かお詫びがしたいというのであれば……また、主様が直にDPを供給しに来てください」


 そんなことでいいのか……と言う寸前だったが、レンの表情を見てハッとなってギリギリで中断した。

 うん、ただエネルギーを供給するだけ。
 決して、イケないことではないんです。


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