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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者とホワイトマーケット

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 シンフォ高山


 初期地点である『始まりの町』、その北にある山を含んだフィールド。
 この世界に来て二番目に訪れた懐かしい場所へ、俺は再び足を踏み入れていた。


「さて、やりますか──レン!」


 ナックルと話をしていると、やはり迷宮ダンジョンに関する情報が多く伝わってくる。
 そうした情報の中に、面白いものがあったので……試すことにした。


「私……でよかったのでしょうか、主様マイマスター?」

「迷宮に関わる話だってのもあるけど、人型ならレンも口で話してくれるからな。忙しいところ悪いが、俺の自己満足に付き合ってくれないか?」

「はい、喜んで」


 なんて会話をしつつ、ナックルの言っていた場所を探してみる。
 すると数分後、目的の場所をレンが見つけてくれた。


「──こちらです」

「そこまで隠していないみたいだな。まあ、プレイヤー相手に商売しているんだから、全力全開の隠蔽をするわけでもないか」

「そのようですね……主様、所有権の簒奪を行いますか?」

「……なんでそういう考えに至るかは謎だけど、とりあえず答えはNOだからな」


 そこにはあるのは洞窟に偽装された迷宮。
 だが、それはただの迷宮ではない──俺と同じ祈念者が、その手で一から築き上げた居城なのだ。

 まあ、迷宮の機能は同じなので奪うことも可能なのだが……さすがに可愛そうなので、やろうとは思わないけどさ。


「しかし主様……その姿で入るのですか?」

「ん? まあ、そうだな。まさかランダム縛りがこれに当たるとは思ってなかったけど、当たったからにはこれにした方がいいだろ。それに、プレイヤー相手だから印さえ偽装できれば問題ないと思うぞ」

「そう仰られるのであれば、私からは何も言いませんが」

「気にすんな。さて、それじゃあ行こうか」


 そうして、俺たちは迷宮の中へ入る。
 傍から見たら、それなりに驚かれるんだろうけどな……一匹の魔子鬼デミゴブリンと美少女だしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ホワイトマーケット


 なんだかわけの分からない名前を持った迷宮の内部では、祈念者たちが買い物を行っている──魔物を相手に。

 魔物は迷宮産のものなので、仕込んでさえおけば敵対などしない。
 祈念者たちもそれを理解しているので、武器を持たずに迷宮の中に居る。


「考えたものだな……予めこの状況を説明できるプレイヤー相手なら、商売として成立できるわけだし」

「面白い発想ですね。ですが、主様もまた特殊な発想を持つ迷宮主ダンジョンマスターですよ」

「……俺の場合、基本パクりだからあんまり計算に入れないでくれ。あと、アイデアを言うだけの奴と実行する奴だと全然凄さのレベルが違うからな」

「では、そういうことにしておきますね」


 全然分かってもらえていない。
 不満を少々顔に出してしまうが、レンは微笑むだけで訂正してくれないのでその{感情}によって、平常心を意識して切り替えた。


「レン、たぶんここに出ているのは迷宮産の物ばっかりだと思うんだが……どうだ?」

「……そのようですね。一部は生産スキルを用いて作られた物のようですが、大半は主様のご想像通りです」

「こういうやり方ってのは、俺とは対極に積極的なプレイヤーとのコミュニケーションが取れているヤツだからこそ、できることだよな。うん、固有持ちは居ないみたいだ」

「ここはあくまで初期地点より近い場所。あまり高レベルの祈念者は近づかずとも、より性能の高いアイテムを入手できるでしょう」


 迷宮の宝箱から入手可能なアイテムは、宝箱のランクによって性能が変わる。
 最高品質ともなれば、高レベルの祈念者でも使えるだろうけど……迷宮側が必要とするDPの量も相応に高いだろう。

 一方、生産者がそれなりのスキルとレア度の高い素材さえ使えば、一定の品質が約束されたアイテムを作りだせる。
 ……俺の場合、迷宮の宝箱から出るアイテムより凄いのを確実に用意できるだろう。

 まあ、迷宮産のアイテム限定の装備スキルとかもあるらしいので、一概に生産職の装備の方がいいというわけでもないけどな。


「うーん、とりあえず面白そうだからって理由で来てみたけど……あんまりやることは無いんだよな。レン、何かないか?」

「主様は偽善を行いたい、のですね?」

「まあ、できるのであれば」

「では、ご本人に訊ねてみる、というのはどうでしょうか?」


 つまりは迷宮の主、いちおう固有の持ち主である祈念者に話を聞きに行くわけだ。
 そのためには、引き籠もっているであろう祈念者の下まで向かう必要があり……。


「再び迷宮デートですね」

「……もしかして、狙ってた?」

「いえ、そんなことはございません。ただ、これまでの情報からそうなるのでは……というようなことは推測していましたが」

「マジか……」


 そこまでデートを楽しみにしてくれていたとは、少々照れてしまうな。

 どうしてそこまでしたいのか、というのは未だに疑問だが、やっぱり眷属からいっしょに居たいと言われれば嬉しいモノである。


「迷宮攻略か……俺、このままだけどちゃんとレンの役に立てるかな?」

「どのような姿であれ、主様は私の主様。姿形など関係なく、素晴らしい成果を出すことでしょう」

「……そうだな。【迷宮主】はどんな姿でも就くことができるもんな」

「あれ、バレてしまいましたか」


 なんて会話をしている俺たちが行うのは、最悪この迷宮が失われるものだなんて……ここにいる祈念者たちに、想像できるかな?


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