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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と複製不可

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 始まりの町 ギルドハウス『ユニーク』


「──そ、それでどうなったんだ!?」

「まあ、スペックと処理能力が増したみたいだから、もう一個の核を使ってさっそく造ったみたな。空に浮かべた太陽、それを迷宮化ダンジョンにして世界を飛ぶように……な?」

「おっ、うぉおおおおおおおおお!」

「あ、あの……ギルドリーダーがなんだか申し訳ありません」


 アヤメさんはペコリと頭を下げてくるが、いつものことなので全然気にならない。
 用意されたお菓子を食べ、気にしていないことを示すために手を横に振っておく。

 迷宮を愛するナックルの暴走、見慣れた光景なのでツッコむ必要もない。
 それにまあ……俺とレンで造った迷宮で喜ぶ姿ってのは、案外嬉しいからな。


「ところでメルスさん、本日はどのようなご用件でお出でになったのですか?」

「……ん、まあ特に意味はなかったんだが、自慢をしたくてなぁ──これのさ」

「これは…………もしや!」

「おーい、ナックル起きろー。迷宮にも関係あることだぞー……ってもう起きてたか」


 さすがはナックル、といったところか。
 バッチリ覚醒しているナックルにも、アヤメさんに渡した物を見せてみる。


「これは……いったい何なんだ? 俺は言語系のスキルは共通語だけしか取得してないから、全然分からないぞ?」

「私はいくつか取得していますが、同じく読むことができません。しかし、なんとなく分かります。これ……神代語、ですよね?」

「当たり。解読も一段落したみたいで、ちょうど持ってこれたから見せに来たんだ。で、これは『超越種スペリオルシリーズ』の一柱で迷宮を試練に含むヤツから貰った本なんだよ」

「それでさっきの話なのか……くそっ、やっぱり読めない。スキルリストにも、神代語が出てこない!」


 俺は言語に関するチートスキルを持っているうえ、鑑定眼による解析を掛ければ翻訳も勝手にやってくれる。

 あと、眷属が集めた情報なら解析後の情報の同期とかもできるぞ……うん、チートだ。


「まあ、載っていることを口頭で説明するなら……攻略本と制作秘話みたいな物が載っている。クリアした条件で記載されている量は違うみたいだが、こうして貸すこともできてしまう。一冊しかないけどな」

「たしか、メルスはコピーの魔法が使えるんじゃなかったか? 前に自慢された時は気にしなかったが、複写士とかが発狂していたからな……それで、できたのか?」

「できなかった。相手は『超越種』に関する本、複製なんかできたら問題だろう。神代語が読めるヤツが必死に筆写するぐらいしか、増やす方法はないぞ」

「……まあ、翻訳したらぜひとも一冊は欲しいな。メルス、言い値で買うから作ってくれないか? アヤメも、それでいいだろう?」


 現在の『ユニーク』の財布は、いつの間にかアヤメさんが牛耳っているらしい。

 管理なんて面倒がってやらない集団らしいので、まあやりたい奴がやればいい……みたいな思考の持ち主の集団だからな。


「あの、メルスさん。ああは言っていますがその……後発の新人さんたちの援助などもありますので、そんなに支払えませんよ」

「ああ、大丈夫大丈夫。全部ナックルのお小遣いから引っ張れば。ツケにしておく予定だから、そのときは一定額を毎月納めてくれればいい。お小遣いの九割ぐらいにしておくから、それでいいだろう」

「はい、それなら大丈夫です」

「……なあおい、それって全然大丈夫じゃない気がするんだが。俺だって、いろいろと使わなければならないときがあるんだぞ?」


 どうせそんなことを言っても、実際に翻訳語の本をチラつかせたら大金を叩くんだろうなぁ……と思ってしまう。

 お金を貰っても、正直俺は使い道がないのだが……国民が就いている職業の中には、その金銭やそういった価値のあるアイテムを消費して闘う能力の持ち主もいるらしいし。

 ところでそういう金って、いったいどこへ消えるんだろうな……とある創作MMOみたいに、どこかの迷宮に還元されるのかな?


 閑話休題はんぶんのチキュウ


 ここに来て、ずっと『超越種』に関する話題ばかり話していた。

 だがそればかり話していても、ナックルの宇宙に行きたいという欲望が溜まっていくだけなので話を切り替える。


「──というわけでだ。[掲示板]を見ることが無い俺の代わりに、あれやこれやを調べてもらいたい」

「それは構わないんだが……なんで今さらそういう情報を集めるんだ? たぶんだが、もうお前なら持っているだろう?」

「そりゃあ調査はしてある。けど、俺の知らぬ間にアップデートとかされていると、情報に差異が生じるんだよ」

「……ああ、そういえばそんな話もあったみたいだな」


 まあ、新規の情報に限ってはレイたちに訊けば教えてもらえるんだが。
 ただ、ピッタリそのときに行かないと分からないし……普段は忙しそうだなんだよな。


「──そういえば、今日は来ないな。いやまあ、来たら来たで殺されそうになるから全然来てほしくないんだが」

「あれ、訊いてなかったのか? アルカとユウはクエストに行くって言ってたぞ」

「クエストねぇ……どんな報酬なのかは知らないが、ぜひとも時間を掛けてもらいたい。少なくとも、俺が帰る時ぐらいまで」

「今日行ったばかりだから、そんなすぐには帰ってこないだろう。まあ、ゆっくりしていくのもいいんじゃないか?」


 そう言われ、たまにはいいかとのんびりと情報交換を行う俺とナックル。
 ああ、襲われないのってこんなにいいことなのか……なんて思う一日だった。

 ──ちなみに翌日、帰ってきたアルカたちが俺が来ていたことを知ってキレたらしい。
 泊まってゆっくり、という選択肢を取らなくて正解でした。


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