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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その15

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 神眼は、暗い場所でも昼間のように明るい視界を確保できる。
 それによって把握した迷宮核の在り処へ、ソウを連れて進んでいく。


「……最後の迷宮だが、不思議と魔物は出てこないな。ここが街だって仮定するなら、見張りが居てもおかしくないんだが」

「完全に住む者へ委ねている。あるいは、この暗さが原因なのかもしれんのう」

「電力とは違うが、まあ運用にはDPが使われているんだろうな。前に確認したことがあるんだが、装置系のアイテムを使うならDPが必要になっていたし」


 使用には魔力を代用することも可能だが、インフラ的な部分はすべてDPだった。
 この迷宮はそれが足りなくて、この場所にポイントを回していないってことなのか?


「──主様よ、あれが目的地かのう?」

「そうそう、あれが奥が見えなかった神殿。たぶんあそこに核があると思う」

「儂にはさっぱり分からぬが、主様が言うのであれば間違いないのじゃろう」

「……俺だって間違えるからな。えっと、ここには水晶はないんだな。あくまで飾りとしての神殿……なのか? それにしては、神気が覆っているんだが」


 特別綺麗な絵があるわけでも、神々しい像が置かれているわけでもない。
 辿り着いたそこは、パルテノン神殿のような吹き抜けがあるだけの場所だった。


「……けど不思議だな、たぶんだが大量の神がここに神気を籠めている気がする。総量は多いはずだが、一柱ずつの量がほんのちょっとしかない」

「そうかのう? 儂からすれば。どれも等しく神族という認識でしかないのじゃが」

「それはお前だけだ。神の位で、神気の質が全然違うんだからな。……お前風にたとえるなら、放置だけか放置に感覚封印を重ねるかぐらいの違いだな」


 もちろん、ドM用のサンプルである。
 目隠し、耳栓、鼻栓、味覚麻痺、魔力妨害とモリモリで付与し、そのうえで痛覚のみを高める対ソウ専用の魔法だ。


「な、なんと……それほどまでに違いがあるというのか! ぬ、主様、ぜひこの場で味わいた……いや、試してみたい!」

「変わってないし、主旨が違うからな。つまりはそういうこと、神にも違いがあるってことだ──分かったか?」

「うむ、つまり上の位コースがうえであればあるほど、それほどまでに快楽と悦楽に包まれる……ということじゃな!?」

「…………よし、さっさと行こうか」


 最奥にナニカがあるということは分かっており、近づきさえすればその行き方を鑑定眼で見抜くことができた。

 柱に一定量の魔力を注ぎ、中心で聖属性の魔力をありったけ籠める……それによって、下へ向かう階段が生まれる。


「一つ当たり、魔力は1000か……多すぎるな。柱が約40なうえ、中央は聖属性限定だから本当に消費する。溜め込める仕様みたいだったから、別にすぐやらなくてもいいみたいだけどさ」

「主様、下の反応は?」

「……変わらずだな。結局は、奥に行って確かめてみるしかない」


 螺旋状にできた階段をぐるぐると下りていくと、さらに扉が配置されていた。
 迷宮間を移動する空間に現れた光の扉とは対極に、やや昏めの色をした扉である。


「あとは、ここに魔力を流すだけだ」

「どれくらいかのう?」

「それがなあ……チャンスは一回、籠める量は無制限。その量に応じて、特殊報酬が用意されているらしい。あと制限時間付き」

「……ふむ、先ほどの魔力運用だけでなくここでも魔力を。迷宮の徴収とやらも、ここまでやらせるのか」


 迷宮を維持するために必要なDPを稼ぐには、内部に居る侵入者から徴収するのがもっとも効率がいいのだ。

 中でも一番は死亡による溜め込んだ経験値の徴収らしいが……そいつの内包、放出したエネルギーでも構わない。


「けど、それでも上のインフラは整っていなかったからな。柱以上に膨大な量の魔力が必要なわけだが……ソウ、お前はやらないで観ていてくれないか?」

「むっ、なんと『いぢわる』な。儂にもやらせてほしいのじゃが」

「……全力全開、籠めれるだけ籠めたらどうなるかやってみたい。スキルの使用も問題ないみたいだし、眷属の恩恵がどれだけのものか再確認したいんだ」

「…………ずるいぞ、主様。そのように格好の好い言葉を言われては……反論できぬではないか」


 カッコイイ台詞を言ったつもりはまったくないのだが、そもそも言葉を交わすことの少なかったソウからすれば、それなりに印象深く感じてくれる台詞だったのかもな。


「じゃあ、そういうことで……いいな?」

「う、うむ。儂はどうしておれば? 外の警戒でもしておこうかのう」

「ソウがイイなら見ていてくれ。眷属が……いや、ソウが居てくれた方が独りで居るよりは力を発揮できるだろうし」

「……ならば、そうさせてもらおう」


 単独行動時、能力値が跳ね上がる称号もあるが、今回使うべき魔力は身力値なので補正は掛からないので必要ない。

 それなら単独で居る必要もないし、俺も無駄なことを考えずにやるべきことに集中できるだろう。


「新スキルのお披露目にもちょうどいいし、やれるだけやってみよう……最上級の報酬を貰って凱旋だ」


 そうして、俺はゆっくりと瞳を閉じる。


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