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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その14
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踏破するごとに、惑星は色づいていた。
それぞれの星に合った色が灯り、光の階段が形成されていく。
そして八つ目の惑星型迷宮を踏破し、帰ってきた俺たちを迎え入れたのは──巨大な扉だった。
「うむ、これで終わるのう主様」
「…………」
「どうかしたのかのう、主様よ」
「…………やっぱり、何かあるな」
いかにもなゴールを配置されたとき、かつて『分からず屋』の称号を欲しいがままにした俺は、あらゆる可能性を考慮して思考を凝らしていく。
{無限記憶}と<千思万考>、そしてその中に内包された【思慮分別】が俺の思考をサポートし、正答を導き出す。
「……太陽、か」
「どうしたのかのう、主様よ」
「たぶんだが、あの扉は転移罠だ。入ったら帰れるって意味なら問題ないし、ここまで迷宮を踏破したんだから、お土産も手に入るかもしれないな……だが、何か足りない」
「何か、とはいったい」
光の道が向かわせるのは、星々へ至る門。
そして灯った八つの輝き……だが、鈍く輝いている星はそれだけではない。
「ソウ、上を見ろ」
「上、とな? ……照明があるのう」
「天体の配列は無理だったから、代わりに上にしたのかもな。あれが太陽──最後の迷宮で、たぶん本当の迷宮だ」
俺が疑問に抱いたのは……迷宮が複数あること、そしてクジラしか出てこないこと。
それらが最初に見た『超越種』の眷属的存在と仮定し、考察をしてみた。
星々に使われていたのは、本体の核に繋がる派生型の迷宮核だ。
それにより、出てくる魔物のシリーズが統一されてコスパがよくなっていたのだろう。
「あのクジラそのものが、迷宮……そう考えると納得がいく。それと今、確認も終わったところだ。神気を使わないと分からないレベルで、上の太陽だけ隠蔽されてた」
「……儂の眼でも視えぬとは。なんとも、やはり『超越種』は尋常ではないのう」
「神が創造した存在、だしなぁ。時間的にだいぶ過ぎているし、帰ろうと思えば帰れるけど……どうするか?」
「…………行っておきたいのう。もし、同じ工程を繰り返せねば向かえぬというのであれば、面倒じゃからのう」
可能性はゼロではない以上、たしかにやりたくないな。
今回はソウが居たからこの速度で踏破できたのであり、一部の眷属では丸一日ほど使うかもしれないし。
「まあ、もしかしたらゴールだけか本体が待ち受けているだけかもしれない。それならそれで、俺とソウが居ればすぐに終わるし……行ってみるか」
「うむ、何事もチャレンジじゃな。して主様よ──どのようにして、あのはるか遠い太陽まで向かうのじゃ?」
「次元魔法で飛べば…………ソウ、飛んでくれるか?」
「うむ! 心得た」
視線に負け、一瞬で済む方法を中断してソウに助力を乞う。
喜んで龍の姿になった彼女の背に乗って、俺たちは最後の迷宮へ向かった。
◆ □ ◆ □ ◆
宙艦迷宮『ミラ・ケートス』
突如表示された迷宮の名前。
初めてのカタカナ表記だが……おそらくこれが、クジラ型の『超越種』の名前だろう。
「変わったな……なんでここだけ、神殿風の造形なんだろうか」
「やはり、神が生みだした迷宮だからではないかのう? というよりもほれ、都市として機能するのではないか?」
「……運営神が造ったあそこも、これを再現したのかもしれないな」
建物が並ぶそこは、拠点にしてもいいような場所だ。
神眼で辺りを調査したところ、超激レアアイテムのはずの転職用の水晶まであった。
「宙艦……まあ、戦艦の宇宙版みたいな捉え方をするとして、船員が居ないのは迷宮が自律的に動いているからだな。まあ、これはアイリスの機動城塞だと思えば納得だ」
「ならば、ここの用途はいったい……」
「仮にこの『超越種』がお前たちの世界に属する存在だとすれば、おそらくノアの箱舟みたいなモノなんだろう。……いやそうか、逆にこっちだと神の啓示云々も考えれば、この場所の方が先なのかもしれないな」
要してしまえば、避難船というわけだ。
侵入者は迷宮で迎撃し、乗客の安全を確保するために環境を整えてある。
「主様、ここを踏破するためにはどうすればよいのかのう?」
「視た限りだと、神殿の奥に何かあるように思えたな。ただ、最深部は俺の神格が足りないせいか全部は見えなかったから絶対ではないが。とりあえず、暗いここでも場所は分かるから案内するぞ」
「使われぬ故、光を失ったのかのう。そもそも、このクジラ……いや、船は何者かによって使われたことがあるのか?」
「さあ、どうなんだろう? ただ一つ言えるのは……誰も使っていないなら、誰かが代わりに使えばいいってことだけだ」
曰く、人の物を勝手に取ったら泥棒なんだとか……けどまあ、【傲慢】で【強欲】な俺がそんなことを気にする必要なんてない。
「祈念者が宇宙に来るのに、いったいどれだけの時間が掛かるんだか。迷宮の存在を知れば来るヤツがいるのは分かっているが、それでもまだまだ先だ。ならどうせだし、こっちから持っていってやろう」
やることは決まった、ゴールは目の先。
面倒なことはない……はずだ、さっさと終わりにしよう。
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