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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その11
しおりを挟む第六惑星
これまでも、さまざまな惑星型迷宮を踏破してきた。
それらは地球から知ることができた、太陽系惑星を模している。
もう暫定とかいろいろと捨てて、完全に模しているんじゃ……と断定していた。
だがそれでも、この第六惑星がどんな場所なのかは少しだけ気になっている。
「──ここが、そうなのか」
「主様、どうかしたのかのう?」
「…………まあ、ちょっとでも期待を抱いたのがダメだったのかもな。ああ、ここは俺の居た世界を模した場所──地球だよ」
「ここが、主様の居た世界…………なんともまあ──殺伐としているのう。ご主人たち、よくぞこのような場所で生きておったわ」
俺とソウが置かれている現状について、説明せねばならない。
一言で言えば、そこは地獄である。
いや、もっと良いたとえがちょうどあったな──赤色の世界みたいな場所だった。
「いや、違うからな。俺たちが生きていた時代の何十億年も前の話だから……こっちの世界だと、そんな前に何か生きてたのか?」
「億、か……儂もまだそこまで長くは生きておらぬのう。島におった老いた者たちであればもしや、と思えてしまうのが不思議じゃ」
「そんなに長生きできるのか、竜族って……その個体は間違いなく、神気とかそれに準ずる力を持っているな」
「そうかもしれないのう」
赤色の世界のような場所、要するにマグマオーシャンが形成されているわけだ。
人類が推測でしか知ることのできなかったかつての世界、その擬似版を見ているのか。
「なんか、感動的だな……」
「ところで主様、迷宮核はいったいどこにあるのかのう?」
「うーん……反応なし。となると、条件式の迷宮ってことか」
「条件と言われても、何かヒントでも欲しくなるのう」
迷宮知覚スキルは迷宮そのもの、そして迷宮核の在り処を探し求めるスキルだ。
しかし、その過程までは分からない……要するに行き方や攻略方法は不明である。
「……一つだけ、浮かんだけどな」
「いったいどのようなことじゃ?」
「地球はこのあと、雨が降って海ができるんだ。だけどこのままだと、ずっとマグマの海が続く……だから、それが攻略に関係あるんじゃないかって思っている」
「じゃが水が無かろう。手段を持つ者ならともかく、そうでない者たちのことを考えないのは迷宮では無かろう」
迷宮は万人が攻略できなければ、何かしらのデメリットを背負わなければならない。
これまで、そういったものは…………あまりなかったので、今回もそうなのだろう。
「それなら……これだな」
「そこには何があるのかのう? 魔力式の罠であることは分かるのじゃが……」
「まあそれは、見てのお楽しみっと」
念のため、具現魔法と[神代魔法]である生成魔法で俺の魔力を籠めた石ころを創る。
重力魔法で重さを乗せたうえで、それを罠の上に投げ込むと──罠が作動した。
「これは……またガス、かのう」
「成分は……えっと、二酸化炭素と水蒸気、なのか? 流れ的に、海の誕生を再現させるみたいだな」
「では、主様何をすればよいのじゃ?」
「俺が指定する場所に行ってくれ。罠を探して踏めば、同じようにガスがいろんな所から噴きだしてくるはずだ」
快諾したソウが俺の指定した座標へ向かうと、次々に罠を起動させていく。
ガスは空高く昇っていき、膜のように地球型迷宮を覆っていった。
「……って、今回はそういう感じか」
このままやれば時期に終わるだろう……そう思っていたのだが、突如現れたクジラたちが、空の上でパクパクと口を動かし始める。
その度に、漂っていたガスの量が少しずつ減少していく……何をやっているのかなどお察しの通り、攻略の妨害であった。
《どうするのかのう、主様》
《伝えた通り、そのまま罠を発動し続けてくれ。空にも手が届かないヤツがいるから、クジラも食べる量に限界がある。早ければ、それでいいんだ》
《儂の速度が無ければ、人数で補っていたというところか》
《そういうこと。どんどんやってくれよ》
やがてクジラが食べるよりも早くソウが膨大なガスを上に向かわせ、とある現象を地球に引き起こした。
ガスが完全に地球型迷宮を包み込むと、急激に冷えた上空には雲が生まれ始める。
《ソウ、ついでにあのクジラを。倒した方が速く終わりそうだ》
《うむ、心得た》
それだけで一瞬の内に、クジラが屠られていく……この光景を、俺はいったいあと何回観ればいいのだろうか。
なんてことを考えている間も事は進んでいき、やがて雲は大量に含んだ水分を地表へ落としていった。
「──っと。主様よ、雨が降ってきたのう」
「まあ、まだ超高温だけどな。けど、次第にそれもどんどん冷えて……海になる。迷宮だから、いろいろと端折って結果だけ持ってくるみたいだな」
「では、あれが迷宮核の在り処だと?」
「みたいだな。浮島を創るって……絶対当時の地球だと生まれないだろうに」
視界に収めた目的地へ向かってみれば、予想通り迷宮核が置かれている。
それに触れて踏破を完了にし、俺たちはまた次の迷宮へ向かうのだった。
「地球か……リンクはしていなかったな」
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