1,348 / 2,518
偽善者と切り拓かれる世界 二十月目
偽善者と星の海 その09
しおりを挟む第四惑星
木星を模した迷宮に辿り着いた俺とソウ。
そこは霧……というかガスに包まれた惑星であり、視界も覚束なくなっていた。
「ソウ、把握できているか?」
「うむ、儂の龍眼にはばっちり映っておる」
「そうかそうか……あの、どうせなら手でも繋いでくれないか?」
「ほお、主様から御手を……承知した、儂に任せておくがよい」
ソウの龍眼も内包されている神眼なので、当然視ようと思えば視ることはできる。
だが、また意味もなく(時間も無いのに)やる気になったので、縛りを設けてみた。
……いちおう、アンに夕飯は遅くなるから先に食べてくれていい、という所帯染みたことは伝えておいてあるんだがな。
神眼に頼らず、その他のスキルも使わないでこの障害を突破したいと思ったわけだ。
「して、主様よ。儂はいつまでずっとこのようにしていられるのかのう?」
「もう最初の時点で霧がガスだって認識できていたし、その成分の差を視れるようになるまでやっておきたいから……そうだな、だいたい五分ぐらいじゃないか?」
「むぅ……短いのう。もう少し、どうにかできぬのか?」
「どうこうするものじゃないと思うが……とりあえず、クジラをどうにかするか」
最初に見つけた『ガーディアン』の擬似職業種だけでなく、今回は『シーフ』という隠蔽能力が高いクジラも混ざっているらしい。
らしい、というのはソウが代わりに視てくれたから分かったことだからだ。
気配だけは分かったのだが、細かい違いを見つけるのはまだ無理だったからな。
「ガスと気配を隠すクジラ……これって、何かの組み合わせなのか?」
「そうじゃのう……しいて伝えておくことがあるとすれば、そのクジラたちは仄かに雷を放っておるように見えるのう」
「…………静電気からの爆発、ってか? 成分的に爆発するかは微妙だが、とりあえず結界ぐらいは張っておくか──“守護結界”」
近づく前にソウが退治するとは思うが、ガスの影響範囲が分からないので対策はしておく必要があった。
近づいてきたクジラがソウに瞬殺され、最後の足掻きに火花を散らす。
すぐに下がらせたソウは俺の結界の中に入り──それとほぼ同時に、ガスが爆発する。
まさに『エクスプロージョン!!』と呼べるその爆発だったが、相応に魔力を注いだため被害はゼロだ。
「うーん、普通のパーティープレイなら、前衛後衛関係なくやられるぐらいだな。距離もその程度だし、迷宮側で被害範囲を調整しているのかもな……」
「主様、距離を空けたうえで排除することも可能じゃぞ」
「そうだな、ならそれで頼む。結界越しだと練習の邪魔になるし……ソウができるなら、それに越したことはないな。頼んでおこう」
爆発に関してはいっさい問題なかった。
緻密に構成された魔力の壁によって、その被害はいっさい内部に届かずに終わる。
あと、結界は俺の知覚とリンク可能で、その間はクジラを把握できてしまった。
もちろん触れているので、ガスも同様……なのでできるだけ解除しておきたい。
結界っていろいろと便利すぎるんだよな。
そりゃあ【怠惰】の武具っ娘であるスーが愛用する魔法でもあるのだから、ある意味当然ではあるんだが。
一定領域と定まってしまう欠点はあるが、その内部では神のように振る舞える。
速度を変えたり力を底上げしたり、探知したり癒したり……うん、マジチートだろう。
閑話休題
ガスの視認に関しては、とりあえず魔力で視力を強化するぐらいはやることにした。
擬似魔眼、というか魔技の一種である瞳術はこれを基礎として発動する。
だが、それをしてしまったら難易度なんてガクンと下がってしまう。
時間が経てば経つほど、把握できる情報の量が増えていく。
「今回はこれぐらいで終わりにするか……そろそろ目的地を探すぞー」
「──むっ、了解した」
「千里眼も再現できたらよかったけど……望遠鏡みたいな使い方が限界か」
「龍眼であれば、主様の望むだけの力を得ることが可能じゃぞ」
竜族の眼は複数の魔眼の効果を発揮し、認識できる視覚の距離なんて自在に伸ばすことが可能だ。
ただまあ、せっかく使わずにいるのだからそのままを維持しておきたい。
片方の目で千里眼モドキを頑張り、もう片方の目で異なるモノを視ていく。
ガスによって隠されたものを暴く、万物を見透かす力──つまり透視眼だな。
迷宮核が隠されているであろう場所を求めて、魔力全開で捜索を行っている。
ただ、木星は太陽に次いで二番目に大きさな太陽系惑星だからな……そのせいか、全然見つからない。
「ソウ、ヒントくれないか?」
「そうじゃなあ……主様より下にあるのう」
「ありがとう、調べてみる」
捜査範囲を狭める、それだけで力を濃縮することで看破の成功率が上がる。
感覚的に、少しずつガスが晴れていき視界が良好になっていく感じだ。
そうなればなるほど、探す範囲を狭めることができるので……ソレを見つけた。
「見つけた。ソウ、運んでくれ」
「うむ、心得た──やはり邪魔じゃのう、主様の修業も終えたようじゃし、一気に払ってしまおう」
軽くふぅと息を吐くソウ。
ただそれだけ、それだけのはずなのに──暴風が吹き荒れ、ガスが一掃される。
「これで目的地にも向かいやすい。では向かおうぞ、主様よ」
「……あっ、うん」
本当、邪魔をしてばっかりだな。
そんなことを思いながら、俺はこの迷宮を踏破するのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる