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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その08

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 第三惑星


 予想通り、土星を模した迷宮だった。
 今回は輪っかの部分からスタートし、隠された迷宮核ダンジョンコアを見つけるシステムらしい。


「土星の輪っかってのは実は、水っていうか氷でできているんだ。……ここはこれまでと同じように、光でできているみたいだが」

「なんと、このような環が氷で……ずいぶんと長く、耽美な映えを持っておるのう」

「ん? まあ、ほんの少しだけ塵とかが中に混じった結果、環はいろんな色になっているし隙間が空いていてな。それらがくっつかないで、それぞれ別々に回っているらしいぞ」

「では、いったいどこに迷宮核が隠されておるのやら」


 その答えは、俺たちの足元に在った。
 土星の環が本来表す氷塊や塵の集合体、それらは光の下をグルグルと回っている。


「……まあ、確実に下だな。問題はこの速度なんだろうな。普通の眼だと、ここのどこにあるかなんて認識できないからな」

「じゃが、儂らならば容易いのう……うむ、儂でも把握できたぞ」

「そうだな、神眼なら俺でも視れる……けどどうせだし、テスト用に使っておきたい」


 迷宮核を眼で視認できた。
 即席で付けたマーキングもあるので、欲しくなったらすぐにでも回収可能だ。

 しかし俺はすぐに神眼を解除し、再びどこに在るか分からない状態にしておく。

 だが、それではつまらないというか味気ないというか……第二惑星で掛けた時間ぐらいは、何かやってもいいだろうと考えた。


「悪いな、ソウ。少し急いでいるってのに」

「主様の言葉は絶対じゃしのう。それより、儂にも時魔法を掛けてくれぬかのう?」

「ああ、いいぞ──“時間減衰スロウ”」


 自分とソウに速度を落とす魔法を施し、思考速度や知覚能力を落としておく。
 これでただでさえ分からなかった迷宮核の場所が、さらに分からなくなる。


「そして、周りに──“時空加速アクセル”」

「むむっ……少々図りづらくなったのう。さすがは主様の魔法じゃ」

「……少しなのかよ。俺、結構頑張って掛けたんだけどな。じゃあもう一個、掛けておくとしよう──“感覚愚鈍センス・アラートダル”」

「うむ、ちょうどよくなったぞ」


 普通の奴なら、もう完全に見えなくなって気持ち悪い速度で輪っか中が回転しているように見えるはずなんだけどな。

 残念ながら、最強のソウには全然問題ないようだ。


「さて、そろそろ始めるか」

「……暇になるのう」

「まあそうなんだけどな。けどまあ、俺的にはやっておきたい。素地ができていれば、スキルの効果もよりはっきり出るからな」

「反射神経とは、このようなことでしか上げられぬのか。人族は本当に大変じゃのう」


 やっていることとは、それである。
 眼の力に頼らず、己の肉体スペックだけで把握できるようにするための訓練だった。

 そりゃあ(未知適応)や眷属頼りなら、あっさりこなせるだろう。
 だがそれはスキル化という形が多いので、あくまで自力でやってみたかった。


「どうじゃ、主様よ」

「うーん……要は能力値の敏捷力AGIを馴染ませればいいって話なんだよ。隠し能力値として対応するのは、行動速度SPDなんだし」

「それを上手く扱えぬわけか」

「眷属の制御もあればできるし、器用さ関係なら制御もできている。けど、脳に関する能力はだいたい<千思万考>で済ませていたツケが回ってきたみたいなんだよ」


 まったく見えなくなっていた粒の数々、だがそれも時間経過によって少しずつだが見え始める。

 スキルは使わずとも、眷属たちによっていつの間にか改造されていた[不明]の体はチートだし、モブでも扱えるようにサービスしてくれているのかもしれないな。


「……なあソウ、今通ったか? あっ、まただ。これも、それも、あれもだ」

「うむ、合っておるぞ。さすがは主様じゃ」

「確証を持って答えられるってことは、もう分かるようになったのかよ。マジかおい、速すぎるなー」

「主様も知覚できてはないか。そろそろよいのではないかのう?」


 まあ、たしかにずっとここで時間を潰すわけにもいかないし。
 映像として{夢現記憶}がこの迷宮のことを把握しただろうし、再現はいつでも可能だ。


「──そうだな、それじゃあサクッといくとしようか……ちなみにだが、まったくこの迷宮はクジラが出てこなかったな」

「条件を満たした時、現れるのかもしれぬ。核を目指した時、それが条件なんじゃろう」

「つまり、一瞬で行けばどうにかなるかもしれない場所ってことか……これまでに比べれば、簡単だな」


 ギミック的に速すぎるのは難しだろうし、倒した分だけ速度が低下する……なんてこともあるかもしれない。

 だが時間が無いし、時間を浪費してしまった以上は最短で踏破する必要がある。


「せーの──そいやっ!」

「……お、おお、一発じゃのう」

「ふっ、俺に掛かればこの程度容易いさ」

「……たしかに、主様の魔手に掛かれば捕縛も一瞬であったか」


 わざわざ行かずとも、先に挙げた通り干渉して停止させてしまえば即クリアだ。
 転移はその速さからできない、みたいな理由があるだけでやり方は自由。


「さて、どんどん次に行こうか」

「う、うむ……さすが主様じゃな。迷宮の意図を完全無視とは」


 細かいことを気にしてなんかいられない。
 そう、たとえ俺がやられたら嫌なことをしようとも!


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