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偽善者と切り拓かれる世界 二十月目

偽善者と星の海 その06

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「今度は逆に暑くなっているな……いや、この場合は熱いの方か。5000℃って……」

「寒冷耐性や温暖耐性を付与する例のドリンクではなく、どちらにも対応する魔法を行使しておいてよかったのう」

「……凍えるような寒さに焼けるような暑さもある。いったい、どういうコンセプトでできた迷宮ダンジョンなんだか」


 俺も第一世界の環境構成に迷宮を使ったいるが、相反する地形を用意するのは消費するDPも多かったのでそれぞれ別々の迷宮にしておいた。

 だがこの迷宮は上から下に移動するにつれて、少しずつ温度が上昇している。
 何かしらの法則があるのだろうが、解析能力の低い俺では分からない。


「ソウも……ダメだな。いちおう訊くが、どうしてこんな暑くなっているか分かるか?」

「迷宮だから、ではダメかのう?」

「俺も同じような考えだ。別に悪くは無いと思うぞ……ただ、気にしなくてもいいが気になることが多くてな」


 空気、というか大気中の分子の構成が違う気がするのだ……俺は呼吸不要だし、ソウは龍なのでそんなこと気にならない。

 吸い込みづらいとか、酸素不足とかいろいろとおかしな部分があるが、まあ魔法を使えばこれらもどうにかなるだろう。


「けど、そう考えると魔法使いの活躍が多すぎるな。──っと、ソウ……ゴー」

「うむ──ふっ!」


 ソウもいちいち龍化せず、強化して自壊に耐えられるようにした口から息吹ブレスを吐き、クジラを狙撃していく。

 俺の探知能力とソウの火力、必要ないが二つを組み合わせることでサクッと時間を掛けずに倒すことができる。


「このクジラ、意外と熱にも寒さにも強いみたいだよな。素材として使えそうだな……迷宮産の魔物だからこの場で捌かないと、消えるみたいだが」


 迷宮には死体を取り込む機能があるので、クジラもまた例外ではない。
 それを防ぐ方法は、空間魔法で隔離するか魔物ではなく素材に認識させるかだ。


「とまあ、そういうわけで暇潰しに加工してみました。クジラ革のコート……正直必要ないけど、あとで売る分も取ってあるし、着てみるか?」

「……ただ皮を鞣しただけ、じゃのう」

「そりゃあ着色料も赤しかないのに、綺麗にするのも面倒だったしな。【怠惰】を使っているせいか少し気怠いのもあるかな?」

「うむ……ならば、儂の背に乗るか?」


 まったく繋がっていない気もするが、なぜか屈んで俺が乗りやすい姿勢を取るソウ。
 ……こういうとき、ボケとしてはクジラを乗せればいいのだろうか?


「おっと、主様よ。別の物を乗せるのは止めてほしいぞ」

「……チッ、じゃあもう行くぞ」

「くっ、やはりダメであったか」


 そんなこんなで歩いていると、なんだか目的地っぽい場所に辿り着く。
 ひときわ輝く中枢区画、迷宮核の反応がある球状の部屋が見えてきた。


「これは狙撃するのも難しそうだな……いったいどれだけ居るんだ? 数も増えたし、上位個体も居るみたいだな」

「では主様、再び殲滅するかのう?」

「まあそれしかないな。とりあえず、ソウだけでサクッと殺っといてくれ」

「うむ、心得た」


 改めて、ソウは龍の姿になって空を翔けていく……『竜闘士』の補正もあって、なぜか格闘術も扱えるドラゴン状態だ。
 そこに気や魔力を籠めるだけで、どんな相手もワンパンで殺すことができる。

 たとえ相手が──百を超える大群だが、数でどうにかできるのなら、ソウは俺が来る前に討伐されていただろう。


「……うん、ソウが来た時点でこの迷宮は踏破される運命だったんだな」


 昔ならサイズ的に入れなかったかもしれないが、人の状態にもなれるソウでは侵入も自在なわけだし。

 そんなソウは大量のクジラを千切っては投げ、千切っては投げての無双劇中である。

 俺は悠々と階段を下り、目的地へ向かう。
 邪魔しようするクジラも居るのだが……それらはソウによって、ぶん殴られてヘイト値によって進路を変更する。


「さて、目的地に到着っと……ふむ、中には迷宮核だけか。これに触れば……よし、踏破完了だな」


 核に触れると淡く輝き、迷宮は一時的に活動を停止した。
 そして球状の部屋から出ると、迷宮は静けさを取り戻していく。


「おおっ、遅かったな主様よ」

「……間に合わなかったか」

「そうかのう? じゃがまあ、すべて回収してあるぞ」


 迷宮は静かになったが、それと同じようにクジラたちも等しく静かになっていた。
 これ、俺が居なくとも勝手に対処できたパターンですね。


「殲滅してから、ゆっくり来ればよかったかもな。さて、出口は……これか。ソウ、この後どうするか? 迷宮はここだけじゃないみたいだし、どんどん踏破するか一度撤退するかだが……」

「本来なら、一度帰るべきなんじゃろう……じゃが、主様とこのすべてを巡ってみたい。頼む──協力してくれないかのう?」

「……はぁ、まったく。やってみるか、ただし夕飯までには帰るからな」

「うむ、分かっておる」


 となると、今回みたいにゆっくりまったり攻略しているのはアウトだな。
 ならどうするか……物理限界も無視して、サクッと踏破していこうか。


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